最終章 《テンの焦り》

「――何だって!?その話、嘘じゃないだろうね!?」

「は、はい!!本当です、嘘じゃありません!!」

「テン、落ち着け!!脅してどうする!?」



王都にて飛行船が出発準備が行われている頃、聖女騎士団はとある街にてアンの目撃情報を手に入れた。アンを見かけたのは城壁の兵士であり、彼等によると確かにアンらしき人物を見かけたという。


城壁の兵士達がアンを発見したのは彼女の手配書が訪れる前らしく、彼等は数日前にアンが街に立ち寄った事を話す。その話を聞いたテンはアンの手掛かりを掴んだ事に喜ぶが、兵士達の話を聞いてある疑問を抱く。



「その女がここへ来たのは手配書が届く前というのは本当かい?」

「は、はい!!間違いありません!!」

「その時、アンは馬に乗っていたかい?」

「いいえ……馬も騎獣(移動に利用される魔獣の通称)も乗り合わせず、徒歩で旅をしてきたと言っています」

「馬鹿な……そいつは有り得ないね」



王都からアンが姿を消した日数を計算した場合、テン達が辿り着いた街まで徒歩で移動できる距離ではない。アンは恐らくは馬よりも早い生物に乗って移動している事は間違いなく、街に入る時は彼女一人だけだったそうだが、恐らくは街の外に移動に利用する魔獣を待機させていた事は間違いない。


ようやくアンに繋がる手がかりを入手したにも関わらず、アンが馬よりも早い生物に乗って移動している事が判明すると、聖女騎士団にとっては都合が悪い。彼女達は移動に利用しているのは馬であるため、馬よりも移動速度が高い生物にアンが乗って旅をしているのならば追いつける道理はない。



「テン、どうする?この街で馬よりも早い騎獣に乗り換えて追いかけるか?」

「いや……それでも追いつけるか分からない。相手は魔物使いだ、騎獣の扱いだって私達より上手いだろう」

「ならどうする?諦めるのか?」

「馬鹿を言うんじゃないよ……とりあえず、追えるところまで追うしかない。国外に逃げられでもしたらどうしようもないからね」



この時のテン達はアンの目的を把握しておらず、彼女が王都で騒ぎを起こしたので逃げているとしか考えていなかった。しかし、アンの目的は国外逃亡ではなく、この国を追い詰めようとしている事を彼女達はまだ知らない――







――同時刻、テン達が訪れた街から既に別の街にアンは訪れていた。彼女は宿屋に泊まってベッドの上で優雅に過ごし、これからの事を考えると高揚感を抑えきれずに笑い声を我慢できない。



「ふっ、ふふっ……あははっ!!」



アンは王国から盗んできた巻物を確認し、彼女は笑い声をあげた。この巻物は元々はシノビ一族が管理していた巻物であり、現当主のシノビが王国に忠誠の証として託した代物でもある。


この巻物を偶然にも書庫でアンは発見した時、彼女は「運命」という言葉が頭に思い描いた。彼女はこの巻物を解読する技能を身に着け、巻物に記された暗号を知る事ができた。



「まさかあの時のが和国の子孫が築いた集落だったなんてね……」



二つの巻物を手にしながらアンは過去の出来事を思い返し、今から数年程前にアンが立ち寄ったイチノ地方の奥地に存在する廃村を思い出す。


実を言えばアンはかつてシノビたちが暮らしていた「隠れ里」に立ち寄った事があった。彼女が訪れた時には既に隠れ里の人間はシノビの家族とあるを除いて全滅しており、当時は既に人は住んでいなかった。


彼女は隠れ里に訪れた時、興味深い物を色々と発見した。その時に彼女は和国の文字で描かれた巻物を手にしており、普通の人間ならば和国の文字を理解できない。




――しかし、アンは生まれた時から特別な技能を持ち合わせていた。その技能の名前は「翻訳」であり、彼女はこの能力のお陰で魔物使いの能力を極める事ができた。

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