最終章 《ビャクとプルリン》

――ロランがバッシュとリノの説得を行っている頃、ナイは準備を終えて飛行船に向かおうとした時、思いもよらぬ邪魔が入った。それはビャクとプルリンであり、2匹はナイの服を引っ張って行かせないようにする。



「グルルルッ……!!」

「ぷるぷるっ!!」

「いたたたっ!?ちょっと、痛いって……」

「何々、どうしたの!?」

「ナイ君!?」



白猫亭の前でナイはビャクにマントを引っ張られ、プルリンに頭を噛み付かれる。騒ぎに気付いたヒナとモモが宿屋から出てくると、ナイを飛行船に生かせないようにするビャクとプルリンを見て戸惑う。



「あ、良かった二人とも……ビャクとプルリンを引き剥がすの手伝って!!」

「手伝ってと言われても……」

「もう、ビャクちゃん!!ナイ君のマントが破れちゃうでしょ!?おいたは駄目だよ!!」

「クゥ〜ンッ……」



モモに敷かれたビャクはナイのマントを口から離すが、今度はナイの方に擦り寄ってくる。甘えてくるというよりは縋りつくようにビャクはナイから離れず、プルリンも頭を齧るのを止めてナイに頬ずりを行う。



「ぷるぷる〜」

「もう……二人とも言ったでしょ、今回も一緒に連れていく事はできないんだよ。飛行船に乗せられないの」

「ウォンッ!!」

「怒っても駄目!!」

「そういえば二人(匹?)ともナイ君がいない間、寂しそうだったわね……」



ビャクとプルリンはナイが不在の間は白猫亭で面倒を見ていたが、基本的には餌の時以外は2匹とも白猫亭に戻る事はない。前回にアンが襲撃を仕掛けてきた時は2匹とも城壁の上で散歩していた。


王都の規則では人間が飼育している魔獣でも拘束具系の魔道具を取りつける事が義務付けされているが、英雄であるナイのペットという事で特別に2匹とも拘束具の魔道具を取りつけられず、街中を自由に行動する事が許されていた。


街の人々も兵士もすっかり今ではビャク達とも顔なじみであるため、彼等を見て驚く事はない。それどころか子供達に人気でナイがいないときは王都の孤児院で子供達の遊び相手を務める事もある。しかし、今回の遠征は予定よりも大分遅く帰還してしまい、しかも帰って早々にまた飛行船に乗って離れるナイにビャクとプルリンは寂しく感じて引き留めようとする。



「クゥ〜ンッ……」

「ぷるぷるっ……」

「ううっ……そんなつぶらな瞳で見ても駄目だよ」

「まるで雨の中で打たれる子犬のような目ね……狼だけど」

「そ、そんな目で見ないで〜……」



ナイと一緒に居たい2匹は自分達を連れて行ってほしいとばかりに擦り寄るが、今回の飛行船に乗り込める人員は決まっており、勝手にビャクとプルリンを連れていくわけにはいかない。ナイはどうにか2匹を宥めて残らせようとした時、思いもよらぬ人物が訪れた。



「いいじゃないですか、一緒に連れて行ってあげましょう」

「えっ!?その声は……」

「イリアさん!?」



声がした方向にナイ達は振り返ると、そこには大量の荷物を背負ったイリアの姿があった。彼女は疲れた表情を浮かべて荷物を下ろすと、ナイの傍に座り込むビャクの身体に手を触れる。



「私の研究を手伝ってくれるのなら連れて行ってもいいですよ。話は私が通しておきます」

「えっ、いんですか!?」

「ウォンッ?」

「ぷるんっ?」



イリアの思わぬ言葉にナイは驚き、不思議そうにビャクとプルリンは首を傾げる。まさかイリアがこの2匹を連れていく事を許可するなど思いもよらず、ナイ達は驚きを隠せない。



「ほ、本当にいいんですか!?」

「いいですよ、その代わりに私の研究の手伝いをお願いします」

「研究の手伝い?」

「ええ、これから私達が向かう和国の旧領地……いえ、シノビさんの一族の隠れ里とやらには珍しい植物が生えているそうです。シノビさんとクノさんに直接聞いたところ、この地方で見かけない薬草なんかも生えているそうですし、もしかしたら私の実験に使える素材も手に入るかもしれません。ですけど、非力な私では魔物が生息する地域で素材の回収は行えませんからね。用心棒代わりにビャク君にも手伝ってもらいますよ」

「な、なるほど……でもプルリンもいいんですか?」

「プルリンさんには私の枕になって貰います」

「ぷるんっ(お安い御用だぜ)」



魔導士のイリアの権限で彼女は自分の研究を手伝う事を条件にビャクとプルリンの同行を許可する。また、彼女がここへ来た目的は別にあり、それはモモに関する事だった。



「それとモモさんも私の助手として一緒に付いて来てもらいますよ」

「えっ!?私も?」

「言ったじゃないですか、私の助手として働いてもらうって……期限は設けてませんでしたからね。今回の作戦まで付き合ってもらいます。ちゃんと給料は払いますよ」

「やった!!ナイ君、また一緒にいられるね!!」

「う、うん……それは嬉しいけど、白猫亭は大丈夫なの?」

「まあ……うちはこの有様だから、しばらくは営業できないし問題ないわ」



ヒナは疲れた表情を浮かべて白猫亭に視線を向け、現在の白猫亭はドゴンとブラックゴーレムの戦闘に巻き込まれて建物が壊れ、現在は修復作業が行われていた。


ちなみに被害を受けたのは白猫亭だけではなく、ここら一帯の建物も同じく工事中でとても店が経営できる状況ではない。工事が終わるまでは白猫亭も営業できず、モモもヒナも手を余らせていた。

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