最終章 《初代飛行船》

――魔物使いのアンが和国の旧領地に辿り着く前に妖刀の回収を行うため、即座に王都の戦力が集められて人員の選抜を行う。選抜の間にも飛行船を発進させる準備が行われるが、ここで問題が発生した。



「飛行船を動かせ!?そいつは無理ですぜ、前回の時に色々と無理をし過ぎたせいで一度点検しないといけやせんから……」

「例の白鼠どものせいで飛行船のあちこちで故障が発見したんですよ。ほら、見て下さい。ここが抉れてるでしょ?あの鼠共、所かまわず噛みついてるんですよ」

「壊れた箇所を修復するにしても時間が掛かりますし、最低でも整備に一週間はかかりますね」



ナイ達がこれまで使用していた飛行船に関しては、白鼠達が飛行船の至る箇所に傷を与えていたらしく、整備するのにも時間が掛かる事が発覚した。例え僅かな傷だとしても空を移動する際に飛行船には大きな負荷が掛かり、ほんのわずかな傷が原因で飛行船が墜落する可能性もあるという。


一応は飛行船の素材に利用されている木材は王国で調達できる最高の木材なのだが、白鼠の牙は鼠型の魔獣の中でも一番の切れ味を誇り、正に「シロアリ」の如く飛行船のあちこちは抉られていた。



「飛行船が完全に直るまではどうしても一週間は掛かります。けど……もう一つの飛行船だったらすぐにでも出発できますぜ」



ハマーンの弟子達によればこれまでナイ達が使っていたの飛行船はすぐに飛ばせないが、旧式の飛行船「フライングシャーク号」に関しては整備も定期的に行われていたので飛ばす事ができるという。


旧式の飛行船は新型の飛行船と比べると性能は落ちるが、それでも地上を移動するアンよりも早くに和国の旧領地へ先に辿り着ける。運転方法も新型と同じのため、アルトも旧式の飛行船は動かせた。


問題があるとすれば旧式の飛行船は兵器は搭載されておらず、地上への着地はできない。しかし、運がいい事に旧和国の領地にも飛行船が着水できる湖は存在し、急遽旧式の飛行船を利用する事になった。



「アルト王子……いや、アルトさん。本当に親方の代わりに飛行船を運転するつもりですか?」

「僕以外に運転できる者はいないだろう……大丈夫さ、いざとなったら君達もいる」

「へへっ、頼りにしてください」



飛行船にはこれまで通りにハマーンの弟子達も乗り合わせ、飛行船に不備が起きた場合は彼等に何とかしてもらうしかない。ハマーンは亡くなったが、彼の弟子達がハマーンの代わりにアルトを支える。


アルトは旧式の飛行船に乗り込んで運転手順を確認し、新型の飛行船と全く同じである事を確認する。ハマーンは新型の飛行船を作り出す時はこの旧式の飛行船を参考にしており、これならば運転に支障はない。問題があるとすればアルトは新型の飛行船で運転した事はあるが、この旧式の飛行船を動かすのは初めてという事である。



「出発前に一応は運転しておきたい。すぐに動かす事はできるかい?」

「えっ!?今すぐにですか!?」

「ああ……僕は湖で飛行船を着水した事はない。今のうちに感覚を掴んでおきたいんだ」



新型の飛行船は地上に着地する事もできたが、旧式の飛行船ではその方法は真似できない。そのためにアルトは王都近くの湖に飛行船を向かわせ、着水の練習を行う必要があった。


飛行船が目的地に辿り着くまでに進行方向に存在する湖に何度か着水せねばならず、そのためにはアルトはぶっつけ本番で湖に着水するのは避けたい。だからこそ彼は和国の旧領地に向かう部隊が決まる前に飛行船を動かす練習を行うつもりだった。



「だ、大丈夫ですか?勝手に船を動かして……」

「大丈夫ではないけど、僕が責任を取る。父上には怒られるかもしれないが……僕以外にこの飛行船を運転できる人間はいない。きっと許してくれるさ」

「ほ、本当でしょうね……まあ、俺達は怒られてもアルト王子に従っただけだと言いますよ」

「それでいいさ……さあ、発進の準備をしてくれ」



ハマーンの弟子達はアルトの指示通りに動き、急遽旧式の飛行船の離陸準備を行う。アルトは緊張しながらも操縦席に移動し、舵を取る。



「よし……良いぞ!!」

「どうなっても知りませんからね……発進準備完了!!」

「飛行船、離陸します!!」



アルトの指示通りにハマーンの弟子達は飛行船の動力源を作動させると、飛行船に取り付けられた風属性の魔石が反応して浮上する。その後、飛行船に搭載された動力源が動き出し、船の後部に取り付けられた噴射機から火属性の魔力が放出される。


これによって飛行船は遂に空を飛び、王都の上空へ移動を行う。この時に城下町の民衆は驚愕の表情を浮かべ、事前の告知も無しに飛行船を飛ぶ事は初めてだった。



(凄い揺れだ……師匠はこれに耐えて運転していたのか!?)



アルトは飛行船の舵を取りながら自分の身体に加わる揺れを感じ、新型の飛行船と比べて旧式の飛行船は操縦者の負荷が大きい事を改めて思い知る。しかし、アルトは決して手を離さずに亡きハマーンの事を思い浮かべながら運転に集中する。



(見ていてください、師匠!!)



こうしてアルトは飛行船を浮上させ、王都の近くの湖へと向かう。彼は無事に湖に飛行船を着水させる事に成功し、旧式の飛行船の運転方法を掴んだ――

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