最終章 《妖刀の封印の地「牙山」》

「妖刀が隠されている場所に関しては心当たりは付いている。しかし、その場所が問題がある」

「問題、というと?」

「……その場所は我々シノビ一族の人間でも滅多に足を踏み入れない危険地帯だ」

「危険地帯?どういう意味ですか?」



シノビによると彼が二つの巻物に記されていた暗号を解いて発見した場所は、シノビ一族の人間でさえも立ち入れない危険な魔獣が生息する地域だと判明した。



「その場所は「牙山」と呼ばれている。名前の通りにその牙山は動物の牙の如く歪な形をした岩山だ」

「その岩山に妖刀が封じられているというのか?」

「間違いありません、しかし牙山に足を踏み入れた人間はほぼ確実に死んでいます。奇跡的に生還を果たした人間もいますが、その人間達も致命傷を負って最終的には死んでいます」

「なんと……」

「いったいその場所には何が住んでおるのだ!?」



牙山に生息する魔獣のせいで、その場所には誰一人として近づけなかった。その魔獣の正体というのが口に出すのも恐ろしく、シノビは震え声で語る。



「我が国ではその魔獣の事を「牙獣」と呼んでいました……名前の通り、恐ろしい牙を持つ魔獣です。しかし、私の調べたところによると獣人国にも同じ魔獣が生息しており、その名前は「牙竜」と呼ばれているそうです」

「き、牙竜!?」

「まさか……竜種か!?」

「有り得ぬ!!我が国の領地には火竜以外に竜種は存在せんはずだぞ!?」



牙竜の名前を耳にした途端に国王は立ち上がり、他の者たちも動揺を隠せない。牙竜とは獣人国の領地に生息すると言われる「竜種」であり、全ての竜種の中で最も気性が激しく、人々に被害を与えた竜種として語られていた――






――牙竜は竜種の中でも珍しく「群れ」を成して行動を行う。単体の戦闘力は火竜には及ばないが、それでも竜種以外の魔物達と比べると一線を画す。牙竜は火竜と違って空を飛ぶ能力はないが、それを補って余りある程の機動力を誇る。


牙竜の移動速度は尋常ではなく、その速さは白狼種をも上回ると言われている。しかも彼等の鋭い爪と牙は岩石を破壊し、しかも砕けてもすぐに新しい牙や爪が生え変わる。厄介な事に生え変わった牙や爪は以前の物よりも強靭となり、彼等はその習性を生かして強敵との戦闘では爪や牙を砕く事で強化を行う。


本来は獣人国に生息する牙竜だが、彼等は獣人国の北の地を生息圏としており、獣人国は決して牙竜の生息地には足を踏み入れない。稀に生息地から離れた牙竜が獣人国の村や街を襲うという事件があり、かつて牙竜が獣人国の都市を滅ぼした事もあった。


火竜には劣るとはいえ、牙竜の厄介な点はその機動性と強靭な生命力であり、白狼種以上の移動速度と大型の魔物さえも一撃で殺す程の牙と爪を持つ相手に敵う手段はない。過去に獣人国は数千の兵士を派遣して牙竜に挑んだが、結果は一人残らず牙竜に殺されたという記録も残っている。




冒険者になった後にシノビは独自に調べ、牙山に生息する魔獣の正体が獣人国に生息する「牙竜」と特徴が一致するという。しかし、多少異なる点があるとすれば獣人国の牙竜は100年ほどで死亡するらしいが、牙山に潜む魔獣の場合は少なくとも数百年以上は生きている事が判明した。



「俺も妹も実際に牙山に訪れて魔獣を確認したわけではないが、あの地を調べようと何十人もの忍が向かった。しかし、結局は誰一人として戻ってこず、生きて帰って者も致命傷を負って助からなかった」

「あ、あの地に妖刀が封じられていると知って……拙者達にはどうしようもないと思ったでござる。あそこは危険過ぎる、はっきり言って回収なんて無理だと思ったでござる」

「なるほど……だから妖刀の居場所を知りながら我々に黙っていたのか」



二人の話を聞いて彼等が妖刀の隠し場所を既に見抜いていたにもかかわらず、報告を行わなかった原因は牙山に生息する魔獣を恐れていた事が発覚する。しかし、その話を聞かされた者は逆に安心する。



「父上、話を聞く限りでは牙山にそれほど恐ろしい存在がいるのであれば誰も妖刀に手を出せないのでは?」

「そうだな……竜種を屠れる程の力を持つ存在でもない限りは妖刀の回収は不可能でしょう」

「そうじゃな、つまりアンという輩も妖刀の回収は不可能という事か」



シノビの話を聞いて牙山に封じられた妖刀はその地に生息している「牙竜」を始末しなければどうしようもなく、アンがいくら強力な魔物を従えて居ようと竜種に勝る魔物を従えている可能性は極めて低い。


魔物の中でも竜種は生態系の頂点に位置しており、竜種を倒すのであればそれこそ竜種を用意しなければならない。しかし、その話を聞かされたアルトだけは嫌な予感を抱き、彼は最悪の可能性を皆に語る。

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