最終章 《盗まれた巻物》
「……盗まれたのは和国で作り出された妖刀の保管場所が記された巻物だ」
「えっ!?それって確かシノビさんが持っていた……!?」
「その通りだ……かつては俺が管理していた。しかし、リノ様の元に仕える時に王国へと託した巻物だ」
シノビが口を挟み、彼は悔し気な表情を浮かべていた。隣に跪くクノもそんな彼を心配する表情を浮かべ、一方で国王はシノビに対して申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「すまぬ、これは儂の不手際じゃ。お主等の故国の秘宝を示した巻物が盗まれるなど……もっと厳重に管理しておくべきだった」
「シノビ、申し訳ありません!!私のせいで……」
「リノ殿が謝る必要はない、しかし……まさか今日まで巻物が盗まれた事に気付けなかったとは」
「すまない……」
シノビ一族がこれまで管理してきた巻物を王国に託したのは、シノビが王国への忠誠心を照明するためである。彼が所持していた巻物には数百本の妖刀(魔剣)が封じられた場所を示され、その妖刀を王国が手にした場合は大きな戦力増強に繋がる。
しかし、今まで妖刀を回収せずに放置していたのはそれほどの数の妖刀を手にした事が他国に知られた場合、王国を恐れて他国同士が手を組んで王国の勢力を抑制しようとするかもしれず、今の時点で妖刀を回収するのは危険だと判断されたからだった。
だが、まさかシノビが託した巻物が書庫に保管され、しかもアンがそれを盗み出した事が今日になって判明した事にシノビもクノも落胆を隠しきれない。これは王国側の不手際で有り、この二人にとっては大切な巻物をずさんに管理していた王国のせいで迷惑を被る。
「例の魔物使いがもしも妖刀の有りかを知ったとしたら……」
「いや、それは大丈夫だ。あの巻物は二つ揃えても暗号を解かない限りは妖刀の居場所は分からない。しかし、どうしてアンとやらは巻物を盗み出したのか……」
「そこが一番気になるでござるな。この国の者には巻物に書かれている文字は理解できないはずでござる」
「そうなんですか?」
「巻物に記されている文字は和国で使われていた文字だ。我が一族の人間以外に読み解く事はできないはずだが……」
アンが巻物を盗み出した理由だけが分からず、和国の人間ではない彼女は文字を読み解く事ができない。だからこそシノビは警戒する必要はないかと思ったが、ここで思いもよらぬ人物が話に加わる。
「もしかしたらですけど……翻訳の技能を覚えているじゃないですか?」
「何!?」
「イリア、それはどういう意味だ?」
話に割って入ったのはイリアであり、彼女はアンが巻物の文字を知らずとも、読み解く方法がある可能性を話した。
「私も書庫にあった文献で読んだだけですけど、技能の中には「翻訳」という名前の技能があるんです。この技能を習得すると他国の言語や文字を理解できるようになるそうです」
「翻訳じゃと……それは確か、伝説の勇者も身に着けていたというあの技能か!?」
「そんな馬鹿な……御伽噺じゃないのか?」
「でも、それだと辻褄が合うんですけど……」
翻訳の技能は伝説の勇者が身に着けていた技能だと伝えられており、この場に存在する者達ですら覚えていない。多数の技能を習得しているナイも翻訳の技能は習得しておらず、実在するかどうかも怪しい。
しかし、アンがもしも翻訳の技能を覚えていたとしたら彼女は巻物の内容を読み解く事ができる。仮にアンが暗号を解いていたとしたら彼女は和国の旧領地に封じされた妖刀の在り処を知っている。
「もしも敵が妖刀の居場所を知ったとしたら……不味い事になるぞ」
「ええ、非情に不味いですね。妖刀を奪われて悪用されたら大問題です」
「何という事だ……い、一刻も早く捕まえねば!!」
「ですが、聖女騎士団がアンを追跡しています。彼女達ならば捕まえられるのでは……?」
「いいえ、楽観は駄目です。相手は得体が知れませんからね……そうだ、その妖刀の在り処に関してですけど、シノビさんはもう知っているんじゃないですか?」
「……何?」
イリアの発言に全員がシノビに視線を向け、彼は二つの巻物を一時期所持していた。シノビ一族の現当主である彼は当然ながら暗号の解き方を理解しているはずであり、既に二つの巻物から読み取った暗号を解読して妖刀の正確な在り処を知っていてもおかしくはない。
「シノビさん、正直に答えて下さい。妖刀の居場所は知っているんですか?」
「……知っている」
「なんじゃと!?お主、それを知っておきながら今まで黙っておったのか!?なんという不届き者……」
「父上……その巻物を盗まれたのは僕達ですから」
「むむうっ……」
巻物を渡しておきながらシノビは事前に暗号を解き、妖刀の居場所を把握していた事に国王は激怒したが、アルトの指摘を受けて彼を責められる立場ではない。いくら妖刀の居場所を知っていたとしても、その居場所を示す巻物を盗まれたのは王国の不手際である事は間違いなかった。
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