最終章 《出直します……》
――試合終了後、ガオウと共に武芸者は闘技場を後にすると、彼等は終始無言のまま立ち去ろうとした。そんな彼等に対してガオウは呼び止める。
「おい、お前等どうした。坊主に挑みに来たんだろ?何だったら俺が話を付けてやるぞ」
「……え、遠慮しておく」
「用事を思い出してな……我々は獣人国へ戻る」
「せ、世話になったな……」
武芸者達はナイに会う前にそそくさと立ち去り、そんな彼等の後ろ姿をガオウはにやけた表情で見送り、彼等の姿が見えなくなった後に一言呟く。
「とっとと帰れ、軟弱者」
結局は獣人国の武芸者はナイに挑戦する事もなく、早々に獣人国へと戻っていった――
――試合を終えた後にナイはアッシュ公爵の屋敷に誘われ、今回の試合相手を務めたダイゴロウも共に彼の屋敷に赴いていた。実は今回の試合はダイゴロウがアッシュ公爵に頼み込んで急遽決まった試合であり、ダイゴロウは挑戦を受けてくれたナイに感謝する。
「噂通りの……いや、噂以上の実力だ。負けた事は悔しいが、新しい目標ができた。感謝するぞ」
「いや、そんな……ダイゴロウさんも凄く強かったです。手加減なんてしたら殺されると思いました」
「ふっ……謙遜は止してくれ」
ダイゴロウはナイに試合に負けた事で彼を恨みもせず、むしろ尊敬の感情を抱いていた。生まれてからダイゴロウは同族以外の相手に敗れた事はなかったが、ナイと戦って彼は同族以外にも自分を上回る猛者が居た事を知れて満足する。
巨人国の間ではダイゴロウは最強の黄金級冒険者として名を知られ、彼に挑もうとする武芸者は一人もいなかった。ダイゴロウがあまりにも強すぎるために彼を越えようとする者が現れず、ダイゴロウはその事に不満を抱く。
自分がもっと強くなるためには強敵との戦闘を行うのが一番だと思ったダイゴロウは自国を離れ、わざわざ王国に訪れた。彼がここへ来た理由は他国にも知れ渡る程の武芸者である「ナイ」と「ゴウカ」と戦うためであり、今日はナイと戦ったが怪我が癒えればゴウカとの試合も申し込むつもりだった。
「ダイゴロウ殿、怪我の具合はどうだ?」
「この国の回復薬は効果が高くて素晴らしい……怪我の方はもう大丈夫です。だが、甲冑の方が直るのに時間が掛かるらしく、しばらくは戦えそうにない」
「そうか、ならばゴウカの試合は甲冑が直った後でいいだろう。ゴウカも万全な状態の相手でなければ戦わないだろうしな」
「ゴウカさんならそういいそうですね……」
ゴウカの性格ならば相手が万全の状態でなければ勝負に応じない可能性が高く、ゴウカの挑戦はもうしばらく後になりそうだった。そもそもゴウカは現在はマリンと共に王都を離れており、どちらにしろすぐに戦えない。
冒険者に復帰した途端にゴウカはマリンと共に冒険者稼業に専念し、現在は王都を離れて魔物を狩る事に集中している。久々に人以外の相手と戦いたくなったらしく、戻ってくるのは数日後の予定だった。
「ナイ君、今日は急に試合を申し込んですまなかったな」
「いえ、気にしないでください。こっちも久々に全力で戦えて嬉しかったです」
「そうか……ところでリーナと君が何処まで関係が進んでいるのか教えて……」
「旦那様、大変です!!」
アッシュが言葉を言い終える前に彼の元に慌てた様子の使用人が駆けつけ、即座にアッシュは表情を引き締めて使用人に用件を尋ねる。
「何事だ?急用か?」
「先ほど、王城の方から兵士が参られました!!それでアッシュ様にはすぐに王城へ参上するようにと……」
「王城に?何かあったのか?」
「理由は教えてくれませんでした。ですが、早急に王城へ参る様にとの事です」
「アッシュ公爵!!」
「うむ……すぐに向かうぞ、ナイ君も来てくれ!!」
王城に来るように命じられたアッシュは即座に準備を行い、ナイも同行する――
――王城にナイ達が辿り着くと、即座に玉座の間に案内された。そこには既に大勢の人間が集まっており、聖女騎士団を除く騎士団の団長と副団長も集められていた。
玉座に座る国王は険しい表情を浮かべ、その隣に立つアルトとバッシュとリノも難しい表情を浮かべていた。そして何故か国王の前にはシノビとクノが跪き、二人とも目つきを鋭くさせていた。
「これはいったい……」
「何かあったんですか!?」
「おお、アッシュよ!!それにナイも来てくれたのか……実は大変なことが起きたのじゃ!!」
「父上、私が説明します」
国王はアッシュとナイが来ると興奮した様子で立ち上がり、それを抑えたのがバッシュだった。彼は国王を座らせると代わりに今日全員を呼び出した理由を話す。
「まずい事になった……書庫を調べてみた所、どうやら例の魔物使いが盗み出した資料の中に和国に関する物も含まれていた」
「和国!?」
「確かシノビさんとクノの……故郷?」
バッシュによるとアンが書庫から盗み出した資料の中に「和国」に関連する資料も含まれ、しかもその中にはシノビが王国に預けていた重要な資料も含まれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます