最終章 《英雄の実力》

「だああっ!!」

「ぬああっ!?」



ナイに目掛けて振り下ろされた棍棒が弾き返され、ダイゴロウは慌てて体勢を整える。一方でナイの方は両手の大剣を突き上げた形で立ち止まり、ダイゴロウと向き合う。その光景を見ていた武芸者達は何が起きたのか分からずに混乱した。



「な、何だと!?」

「馬鹿な、何が起きた!?」

「……弾き返したんだよ。腕力ちからでな」

「そ、そんな馬鹿な!?」



ガオウの言葉に武芸者達は到底信じられず、明らかに人間であるナイに巨人族のダイゴロウが「腕力」で負けたなど信じられるはずがない。


ダイゴロウも自分の攻撃が弾かれた事に戸惑い、混乱した彼はもう一度攻撃を仕掛けた。今度は上から振り落とすのではなく、棍棒を横薙ぎに振り払う。



「ぬぅうんっ!!」

「ふうっ……はああっ!!」

『う、受け止めた!?』



横から迫ってきた棍棒に対してナイは両手に持つ大剣を重ね合わせて防御の態勢を取ると、正面から棍棒を受け止める。攻撃を受けた際にナイの身体が押し込まれるが、彼が足元に力を込めると棍棒を止める事に成功した。


ダイゴロウの攻撃を受け止めた光景を見た武芸者達は驚きの声を上げ、ダイゴロウの方も自分の攻撃を二度もまともに受けたナイに驚きを隠せない。これまでに人間の剣士と戦う際、一度だってダイゴロウは力負けはした事はない。しかし、今目の前に立つ人間の少年は彼に匹敵する腕力の持ち主だと悟る。



「馬鹿なっ……」

「でやぁっ!!」

「ぐおっ!?」

『弾き返した!!ナイ選手、ダイゴロウ選手の攻撃を物ともしません!!』

『ナイ、ナイ、ナイ!!』



ナイがダイゴロウの棍棒を弾き飛ばすと歓声が更に上がり、観客たちもナイを応援する。そんな周囲の反応に武芸者達は戸惑い、ガオウの方も面白そうに拍手を行う。



「流石は坊主だ、相変わらずとんでもない馬鹿力だな」

「あ、あり得ん……こんな事、絶対にあり得ない!!」

「八百長だ!!あの巨人族の冒険者と組んでいるんだろう!?」

「馬鹿かお前等は……武芸者の端くれなら今さっきの攻防が演技じゃない事は分かるだろうが」

『ぐうっ……』



ガオウの言葉に武芸者は言い返す事ができず、彼等もナイとダイゴロウの攻防を見てとても演技とは思えなかった。しかし、それだとしても人間であるはずのナイが巨人族のダイゴロウに匹敵する腕力を誇る事に彼等は納得できない。



「あ、あの少年は何なんだ!?どうして非力な人間の癖にあんな芸当ができる!?」

「さあな……そんなの俺が知りたいくらいだ」

「レベルは!?あの少年のレベルはいくつだ!?」

「レベルは公開しているのか!?」

「レベルねえ……」



武芸者はナイのレベルがどれほどの数値なのか気にかかり、ガオウに問い質す。しかし、そんな彼等に対してガオウは驚愕の事実を明かした。



「お前等、本当に何も知らないでこの国に来たのか……坊主のレベルは1だ。嘘じゃねえ、俺も確かめた事があるぜ」

「レ、レベル……いちぃいいいっ!?」

「馬鹿な、あり得ん!!」

「で、でたらめを抜かすな!!」



ナイのレベル1であると明かすと武芸者は取り乱し、信じようとはしなかった。レベル1の人間が巨人族の武芸者を相手に互角で戦えるはずがないと彼等は主張する。


しかし、いくら彼等が認めようとせずともナイのレベルが1であるという事実は変わらず、試合場ではナイがダイゴロウに向けて攻撃を仕掛けようとしていた。



(この人は強い!!剛力の技能だけじゃ倒しきれない……なら!!)



ダイゴロウの強さは先ほどの2度の攻撃でナイも把握し、自分も全力で挑まなければ彼に勝てないと判断したナイはテン仕込みの「剛剣」の剣技でダイゴロウに仕掛ける。



「だああああっ!!」

「ぐううっ!?」

『ふ、吹っ飛んだ!!ダイゴロウ選手の巨体が!?』



ナイは旋斧を背中に戻すと岩砕剣を両手で振りかざし、全身全霊の力を込めてダイゴロウの手にしていた棍棒に叩き込む。強烈な衝撃を受けたダイゴロウは棍棒を弾き飛ばされて後方に仰け反り、その光景を見た司会者は驚きの声を上げた。


ダイゴロウが武器を弾かれて隙を見せると、ここでナイは彼に目掛けて突っ込む。移動速度も獣人族顔負けの素早さを誇り、ダイゴロウの懐に潜り込んだナイは彼の身に着けている甲冑に目掛けて刃を放つ。



「どりゃああああっ!!」

「ぐはぁあああっ!?」



甲冑越しにダイゴロウは強烈な衝撃を受け、ナイの放った岩砕剣の刃は彼の甲冑を破壊し、そのままダイゴロウは試合場に倒れ込む。彼は一撃で白目を剥き、そのまま動かなくなった。その光景を見たアッシュは戦闘続行は不可能だと判断し、試合を終わらせてナイの勝利を宣言した。



「そこまで!!勝者、ナイ!!」

『うおおおおおっ!!』



ナイの勝利が宣言された瞬間に観客は立ちあがり、彼に声援を送る。そんな彼等を見てナイは笑みを浮かべて腕を上げ、一方で特等席の武芸者達は唖然とした表情を浮かべたまま固まってしまう。

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