最終章 《その頃の聖女騎士団は……》

王都を発った聖女騎士団はクーノにてアンの目撃情報を確認し、次の街へと向かう。彼女達はアンを捕まえるまでは王都へ戻るつもりはなく、必ずやレイラの仇を討つために向かう。


旅の道中、彼女達は小さな村に辿り着く。その村でも念のために聞き込みを行ったところ、アンらしき女性を見かけたという話はなかったが、気になる話が聞けた。



「森の奥で赤毛熊の死体を見つけた?」

「はい……儂は猟師なんですが、この近くにある森の奥で赤毛熊を見かけたんです。恐らく、元々は飼育されていた魔獣だと思われますが」

「どうしてそんな事が分かるんだい?」

「首元に魔獣用の首輪が取り付けられていました。証拠がこれです」



村に暮らす猟師の老人からテンは話を聞き、彼は血塗れの首輪を机の上に置く。首輪を確認したテンは赤毛熊が森の奥でどのように死んでいたのか気になった。



「その赤毛熊はどんな風に死んでいたんだい?」

「心臓を貫かれていたのです。鋭い刃物か何かで……」

「刃物か……冒険者の仕業じゃないのかい?」

「分かりません、ですけど一つ気がかりなのは赤毛熊の死体が放置されていたんです。殺した後は何も手に付けずに立ち去ったような……」

「わざわざ赤毛熊を殺しておいて放置した?何のために……?」



鋭い刃物のような物で赤毛熊は心臓を貫かれて殺されたらしいが、殺した人物は赤毛熊の素材に目をくれずに立ち去ったという点がテンも気になった。赤毛熊は魔獣の中でも危険度は高く、赤毛熊の素材は高値で取引されている。


赤毛熊を倒したのが冒険者の仕業ならば素材の回収を行うのが普通だが、赤毛熊は心臓以外の箇所は傷一つなく、しかも発見した猟師によると殺されてからかなりの時間が経過していたらしい。



「儂が発見した時には既に赤毛熊の死体は腐りかけ、もう既に何日も経過している様子でした。森に暮らす動物が食い荒らさなかった事が不思議なぐらいです」

「そうかい……ちょいと確かめる必要があるね」

「うむ、そうだな」



猟師の話によると赤毛熊が殺されてから死後何日か経過しているらしく、既に死体の方は腐っていた。その話を聞いたテンとランファンは死体を調べる必要があると思い、猟師が見つけた赤毛熊の死骸を確認する事にした――






――赤毛熊の死骸は森の奥に存在し、今だに放置されていた。猟師が発見したのは今朝の事らしく、テンとランファンは死骸を確認すると腐敗臭を感じ取り、確かに死んでから相当な時間が経過している様子だった。



「こいつは酷い臭いだね……それにしてもこんな場所でよく他の魔物や動物に喰われなかったね」

「……いや、こいつを他の動物が食べなかったのは毒のせいだ」

「毒?」

「臭いに僅かに毒が混じっている……猛毒だ、もしもこいつを食べれば死ぬぞ」

「ひいっ!?」



ランファンの言葉に猟師は怯えた表情を浮かべ、テンは赤毛熊の死骸を確認する。猟師の見立てでは死後何日か経過して腐敗臭も漂わせていた。その影響で他の動物や魔物も近づかないかと思われたが、ランファンによれば死骸には毒の臭いも混じっていた。


死骸に毒が混じっているせいで今まで赤毛熊の死骸は食べられる事はなく、他の魔物や動物も近づく事がなかった。毒が仕込まれている事を見抜いたランファンは早急に死骸を処理するように提案する。



「このまま死骸を放置するのはまずい。病気の素になるかもしれない、焼いて処理するべきだ」

「仕方ないね……それにしても鋭い刃物に毒かい、まるで暗殺者の殺し方だね」

「暗殺者、か……」



テンの言葉にランファンは頷き、赤毛熊を殺したのは何者なのかは知らないが、少なくとも赤毛熊の素材が目当てではない。赤毛熊を殺した人物が何者なのかは不明だが、とりあえずは死骸の処理を行う――






――結局は聖女騎士団は村で一晩世話になった後、旅を再開した。アンの手掛かりは掴めず、それどころか赤毛熊を殺した謎の人物の事も気がかりだが、先を急いだ聖女騎士団は村人に頼んでクーノの街に伝言を頼む。


今はアンの捜索を最優先し、死骸の件に関してはクーノの警備兵に知らせて彼等に対応を任せる。もしかしたら凄腕の暗殺者がこの地に訪れているかもしれず、その辺の事はクーノの兵士と冒険者に調査を依頼して彼女達は先を急ぐ。



(暗殺者、か……まさかね)



暗殺者という言葉にテンは気にかかり、彼女はレイラが言い残した遺言を思い出す。レイラは死ぬ直前にアリシアに自分を殺した相手の手掛かりを残していた。



『テンに伝えてくれ……私を殺したのは人でも魔物でもない……巨大な……だ』



致命傷を負っていたレイラは最後の言葉を言い切る事ができず、彼女は死を迎えた。結局はレイラを殺した存在がどんな相手なのかは不明のままだが、テンは赤毛熊を殺した存在の事が気にかかる――

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