最終章 《他国からの挑戦者》
――聖女騎士団が王都を発ってから数日の時が経過し、白猫亭の元に他国から訪れた武芸者が訪れる。彼等は獣人国から訪れた冒険者や傭兵であり、この宿に噂の「貧弱の英雄」が泊っていると聞いて尋ねに来たという。
「頼もう!!ここに貧弱の英雄と呼ばれる剣士が暮らしていると聞いている!!手合わせを願いたい!!」
「我が名はバオウ!!獣人国の北の地から参った!!」
「この俺と戦えっ!!」
「ちょ、ちょっと!!お客様困ります、店の外で騒がないでください!!」
宿屋の前で騒ぎ立てる外国人たちにヒナは慌てて駆けつけて注意するが、彼等はナイと戦うためにわざわざ王都に訪れ、ナイを出す様にヒナに促す。
「お主はこの店の従業員か?丁度いい、すぐに貧弱の英雄とやらを呼んできてくれ」
「我々は英雄に挑みにここへやってきた。不在ならばここで待たせてもらうぞ」
「それは困りますってば!!ああもう、ナイ君なら今は闘技場に居ます!!」
『闘技場?』
闘技場という言葉に彼等は首を傾げ、ヒナは闘技場がある方角へ指差す。ナイが宿屋にいないのは今日はアッシュ公爵に頼まれて闘技場に出場している事を伝えた。
「ナイ君は工場区にある闘技場で今頃は試合をする予定です。今から行けば試合には間に合うと思いますよ」
「試合?闘技場で試合をしているのか?」
「相手は誰だ?冒険者か、傭兵か?」
「さあ?そこまでは聞いてません。まあ、どんな相手でもナイ君が負けるなんてあり得ないと思いますけど……」
「ふむ……闘技場か。よし、行くぞ!!」
ヒナの話を聞いた挑戦者たちはナイの元へ向かい、闘技場が存在する工場区へと直行した――
――闘技場へ向かう途中、挑戦者たちは大勢の人間が闘技場の前に集まっている事を知る。闘技場は王都内でも人気が高い娯楽場だが、今日は貧弱の英雄が試合に出場すると聞いて大勢の人間が集まっていた。
「落ち着いて下さい、ちゃんと並んでください!!試合開始までまだ時間はありますから!!」
「さあ、賭けた賭けた!!今回の試合は英雄様が何秒で勝てるのか賭けた!!」
「よし、俺は30秒台だ!!」
「なら俺は40秒台だ!!」
「よし、俺は大穴の1分以上だ!!」
闘技場の受付の前では大勢の人間が列をなして並んでおり、その中には賭けを行っている者もいた。しかも賭けの内容がナイの勝敗ではなく、彼がどれほどの時間で試合を終わらせるのかという内容だった。
「な、なんだこの人だかりは……」
「英雄の試合を見に来るためにこれだけ集まったのか?」
「ちっ……何が英雄だ、くだらん。どうせ八百長試合だろう」
「何だとてめえ!!今なんて言いやがった!?」
「何処のどいつだ!!あの人が八百長なんてするわけないだろ馬鹿がっ!!」
「え、いや……」
人だかりの中でナイを乏しめるような発言をした武芸者に他の人間が押し寄せ、ナイを馬鹿にした事を怒る。そんな彼等の反応に武芸者たちは戸惑う。
王都においてナイの人気は高く、彼が試合に出ると聞けば闘技場は必ずや満員になる。今日も今朝方にナイが試合に出場すると告知された瞬間に数千人の観客が集まり、その中にはナイの知り合いも多く含まれていた。
「よう、お前等何処かで見た顔だな」
「き、貴様は……ガオウ!?何故ここに居る!?」
「おのれ、国を捨てた裏切り者がっ!!」
「別に捨てた覚えはないがな」
ガオウが武芸者たちの前に現れると彼等は焦った表情を浮かべ、ガオウは獣人国の間でも有名な人物だった。元々は彼は獣人国の出身で金級冒険者にまで上り詰めた男である。
武芸者の中にはガオウの事を知っている者も多く、彼等の姿を見たガオウはナイの噂を聞きつけて彼等が挑戦しにきた事を悟り、小馬鹿にしたような態度で言い放つ。
「大方、坊主に挑みにわざわざここまで来たのか?それなら残念だったな、今日は先約が入ってるんだよ」
「せ、先約だと!?」
「良い事を教えてやろうか?今日の坊主の試合の相手は巨人国からやってきた武芸者だ。坊主はそいつと戦う、何だったら俺が特等席まで案内してやろうか?黄金級冒険者は特別に特等席で観戦できるんだよ」
「貴様……!!」
「今から列に並んでも試合なんてみれないぞ。さあ、早く決めろ」
「ぐぐぐっ……!!」
ガオウの言葉に武芸者は顔を合わせ、折角ここまで来たのだから噂のナイがどれほどの剣士なのか気にかかり、彼等は恥を忍んでガオウの言う通りに従う。黄金級冒険者のガオウは闘技場にも顔が利き、すぐに彼等を連れて特等席へと向かう――
※次回の挑戦者の反応をお楽しみください!!
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