最終章 《魔物使いの格》
「――レイラが殺されたというのは本当の話かい?」
「……事実です。ネズミさんはレイラさんの事を知ってましたか?」
「情報屋を舐めるんじゃないよ、テンの奴と仲がいい娘だった事は知ってるよ。けど、まさか聖女騎士団に手を出したのがあのバートンの娘だったとはね……」
「何か知ってるですか?」
ネズミの口ぶりにナイは違和感を覚え、バートンの事を知っているのかとナイは問うと、彼女は渋い表情を浮かべて昔の事を語る。
「あんまり思い出したくもない相手なんだけどね……バートンの事はあいつが捕まえる前から知ってたよ」
「えっ!?」
「奴はあたしと同じ鼠型の魔獣を操っていたからね。大分昔、あたしがある街で情報屋を営んでいた時、あいつの情報を知りたいという奴が来てね。それでバートンの事を調べたんだ」
「そ、それでどうなったんですか?」
「危うく死にかけたよ……あいつを調べようと不用意に近づいたせいであたしはあいつの鼠達に襲われ、命からがら逃げ延びたんだ。あの時は逃げるのに苦労したよ、死体を偽装したりね……」
「ぎ、偽装って……」
「おっと、勘違いするんじゃないよ。あたしは偶然、浮浪者の死体を発見してそれにあたしの服を着させて逃げただけさ。あいつに従っていた出来の悪い鼠達は人の顔なんてよく覚えてないから、あたしの服を着た浮浪者の死体を見つけた途端に喰らいつくし、バートンの所へ戻っていったよ」
「ええっ……」
ネズミは過去にバートンと因縁があったらしく、彼女は実は聖女騎士団がバートンを発見する前から正体を知っていたらしい。しかし、その情報を漏らさなかったのはバートンに自分が生きている事を悟られないようにするためであり、結局は彼女は街を離れて逃げ延びたという。
バートンにアンというの名前の娘が居る事はネズミも最近知ったが、そのアンが聖女騎士団に手を出したと聞いて彼女は居ても立っても居られずに王都へ戻ってきた。しかし、王都へ戻ってきたというのにテンは聖女騎士団を率いて王都を離れた事を知り、仕方がないので彼女はナイを待ち伏せして姿を晒した。
「本当はテンの様子を見に来ただけなんだけどね……あの子はどんな様子だい?」
「……表面上は普通な態度を取り繕っていました。でも、やっぱりレイラさんを殺したアンが許せなくて内側では怒りをため込んでいると思います。片っ端から闇ギルドの残党を捕まえてはアンの情報を持っていないのか聞き出そうとして、酷い暴力を行ったとか……」
「大分精神的に参っているようだね……たくっ、世話のかかるガキだよ」
ナイから話を聞いたネズミはため息を吐き出し、彼女にとってはテンは娘同然で彼女が今まで身を隠していたのはテンのためである。仮にも聖女騎士団の団長が裏稼業を営む情報屋のネズミと繋がりがある事を知られれば大問題となり、それを他人に悟られないようにネズミは王都を離れて生活していた。
しかし、テンにとっては大切な仲間だったレイラが殺されたと知り、テンの性格を把握しているネズミは彼女が冷静でいられるはずがないと思って王都へ戻ってきた。そして彼女はナイに身を晒したのは彼女が新しく従えた「白色の鼠」が理由だった。
「ナイ、あんたはこの鼠の元の飼い主に心当たりはあるかい?」
「元の飼い主?それってまさか……」
「この鼠はね、本来ならこの地方には存在しない種なんだ。それなのにこの王都にいるって事は、誰かがこいつを外部から連れてきたという事になる」
「キィイッ?」
ネズミの言葉に白色の鼠は首を傾げ、そんな鼠の頭を指で撫でてやり、ネズミはこの魔銃を連れ出した魔物使いの正体を話す。
「こいつを王都へ連れてきたのは間違いなくアンだよ」
「アン……やっぱり」
「この鼠の名前は「
「白鼠……」
白鼠は灰鼠の亜種であり、ネズミですらも見たのは初めてだという。その白鼠を大量に従えている魔物使いのアンをネズミは心底恐ろしい存在だと感じた。
「亜種を従えるだけならともかく、亜種を繁殖させて増やす事なんてあたしにもできない。恐らく、そのアンという魔物使いはあたしなんかよりも腕は上だろうね」
「ネズミさんよりも!?」
「そもそもあたしは一種類の魔物を従えさせる事しかできない。バートンの奴だって同じさ、それなのにそのアンとやらは白鼠やゴーレムや他にもやばいのを従えているんだろう?正直に言って化物だよ、その娘は」
魔物使いの視点でもアンの能力は異常らしく、通常の魔物使いは数種種の魔物を同時に使役する事は不可能だという。しかし、現実にアンは白鼠とブラックゴーレムを従えた状態で白猫亭を襲撃した。
ネズミの見立てではアンの魔物使いの腕は本物で彼女を越えるらしく、決して油断してはならない事を伝える。アンが白鼠とブラックゴーレム以外の魔物を従えている場合、王国最強の聖女騎士団でも分が悪い事を伝える。
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