最終章 《思いもよらぬ再会》

「ならば仕事が終わった後ならばいいんだな?」

「えっ……」

「よし、それならば俺も見回りを付き合うぞ!!仕事を早く終わらせればそれだけ早く勝負できるからな!!」

「ちょっ、何を言い出すんですか!?」

「まあ、いいではないか。黄金級冒険者が二人も付き合うんだぞ?すぐに仕事も終わるはず!!」

『私も!?』



ゴウカの思わぬ発言に他の者たちが戸惑い、ナイも本当にゴウカが自分と戦うためだけに見回りの仕事を手伝うつもりなのかと焦る。しかし、この時に彼は視界の端にある物を捉えて目を見開く。



「あれは……」

「ん?急にどうした?」

「すいません、ちょっと離れます!!」

「あ、ナイさん!?」

「何処へ行くの?」



視界の端に捉えた生き物を見てナイは駆け出し、そんな彼の行動に他の者たちは戸惑う。全速力で駆け出したナイは生物の後を追いかけ、人気のない路地裏に移動する。


決して逃がさないようにナイは「暗視」「観察眼」の技能を発動させ、一瞬たりとも目を離さない。やがてナイが辿り着いた場所はヒイロ達と最初に出会った建物に囲まれた空き地であり、そこに辿り着くとナイは追いかけていた生物を捕まえる。



「捕まえた!!」

「キィイイッ!?」



ナイが捕まえた生物の正体は「白色」の毛皮で覆われた鼠型の魔獣だった。この魔獣は船内でも見かけた魔獣で間違いなく、ナイは魔物使いのアンが操っていた魔獣と同じ種の魔獣を見つけて捕まえた。



「キィイイッ……!!」

「こら、大人しくしろ……猫の餌にしちゃうぞ!!」

「そいつは勘弁してほしいね……うちの新入りなんだよ」

「えっ……」



魔獣が逃げないようにナイはしっかりと捕まえると、何処からか老婆の声が聞こえてきた。彼は驚いて振り返ると、そこには2年前に消息を絶ったはずの人物が立っていた。




――王都にはかつて灰鼠ラットと呼ばれる魔獣を従える使の情報屋が存在した。その名前は「ネズミ」彼女は聖女騎士団の団長を務めるテンの育ての親であり、2年前に姿を消したはずの老婆だった。




風の噂ではネズミは殺されたと囁かれ、テンも彼女が生きている事はないと思っていた。しかし、その死んだはずのネズミが自分の元に現れた事にナイは戸惑いを隠せない。



「ネズミさん!?生きてたんですか!?」

「勝手に殺すんじゃないよ。まあ、死にかけたのは事実だけどね……」

「いったい何があったんですか?」

「……話すと長くなるから、まずはあたしの可愛い鼠を離してくれないかい?」

「あ、はい……」

「キィイッ!!」



ナイは言われるがままに白鼠を解放すると、ネズミの元に白鼠は向かい、彼女の肩の上に移動する。その様子を見届けた鼠は笑みを浮かべ、改めてナイと向き合う。



「あんた、久しぶりだね。名前はナイだったね」

「ネズミさん、生きててよかった……テンさんは知ってるんですか?」

「いいや、知らないだろうね。あたしは今度こそ完璧に身を隠したからね」

「今までどうしてたんですか?何で急にいなくなったんですか?」

「……その辺の話をすると本当に長くなるよ。それでも聞きたいのかい?」

「教えてください!!」



ネズミはナイの返事を聞いて溜息を吐き出し、彼と話をする前に自分の身に何か起きたのかを語り出す――






――2年前、ネズミは宰相に命を狙われると知ってシノビに情報を託した。その情報の内容とは宰相が王国を裏で牛耳っている事、これまでに起きた事件に彼が関わっているという内容だった。


当然だがそんな情報を流せば宰相が黙っているはずがなく、彼女の元に刺客を送り込む。ネズミは死を覚悟したが、意外な事に彼女を見逃したのは「シャドウ」だった。彼はネズミを殺すために派遣されたが、シャドウはネズミを殺さずに見逃す。



『お前とは長い付き合いだ。だから生かしてやってもいい』

『何のつもりだい?あんたが私に情けをかけるなんて?』

『勘違いするな、お前の情報収集力は侮れない……そう思っただけだ』



シャドウはネズミの魔物を利用した情報収集力の高さを惜しみ、一度だけ彼女を見逃すことにした。ネズミはすぐに王都から離れ、別の遠い街で「白面」の監視下の元で暮らしていた。


しかし、宰相とシャドウが死んだ後、彼等に従っていた白面の組織も壊滅した。それによってネズミは自由を得た。それでも彼女は王都に戻らなかったのはもうテンと関りを持つのを避けたためである。



『あの子はもう立派に生きていける……あたしなんて必要ないね』



王都から拠点を移したネズミは今まで通りに情報屋として生きてきた。しかし、そんな彼女の元に思いもよらぬ噂が届く。それは例の魔物使いアンに関する事だった。史上最悪の犯罪者と謳われたバートンの娘が聖女騎士団の団員を殺したという話を聞き、彼女はその話を聞いて真実を確かめるために王都へと戻ってきたという。

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