最終章 《飛行船の帰還》
――二日後、グマグ火山の飛行船は遂に王都へ帰還を果たす。ロラン達の護衛の下、アルトはグマグ火山に辿り着き、彼の運転で飛行船を王都まで戻る事に成功した。アルトはハマーンが死んだ事を確認して衝撃を受けたが、それでも彼が鍛冶師として最後まで誇りをもって生きたと聞いて納得した。
「師匠がまさかいなくなるなんて……いや、師匠が僕に飛行船の運転を教えていたのはこのためだったのかもしれない」
「アルト王子……」
「僕は落ち込まないよ、そんな姿を天国の師匠に見られたらきっとあの世に行ったときに怒られるだろうからね」
アルトにとってはハマーンは第二の父親同然だったが、彼の死に対して涙は流さなかった。彼の代わりに飛行船は今後はアルトが運転する事を決め、これで討伐隊の戦力は王都へ帰還を果たす。
しかし、戻って早々に彼等はすぐに次の仕事が与えられる。その仕事内容というのが王都で事件を起こした「アン」の捜索だった。ナイ達はこの時に白猫亭で襲撃があった事、そして聖女騎士団のレイラが殺された事を聞かされる。
「あのレイラさんが死んだなんて……」
「嘘だ!!そんなの嘘だ!!レイラが死ぬはずがない!!」
「……事実だ、彼女はアンを追って殺された」
「嘘だぁあああっ!!」
ルナはレイラが死んだという話を聞かされて頑なに信じず、彼女の墓まで案内された。レイラの名前が刻まれた墓を見てルナは泣き崩れ、他の聖女騎士団の団員に抱えられて立ち去る――
――レイラの死は大勢の人間に影響を与え、特に聖女騎士団の団員達はアンを必ず見つけ出して仇を討つ事を誓う。特に古参の騎士達は血眼になってアンを捜索し、時には無茶な操作を行う。
聖女騎士団は王都に残っていた闇ギルドの残党を見つけ出し、彼等がアンを匿っていないのかを確かめる。情報を持っていなければ強制的に連行し、強引な尋問を行って本当にアンの居場所を知らないのかを問う。しかし、闇ギルドの人間もアンなる存在を知らなかった。
「も、もう許してくれ!!俺達は本当に何も知らないんだ……」
「俺達はもう足を洗って真っ当に生きてるんだ!!それなのにこんな事……」
「偉そうに抜かすんじゃないよ!!あんたらが犯罪を犯したのは事実だろうが!!足を洗ったというのであれば大人しく出頭して監獄で罪を償うべきだったんだよ!!」
「落ち着け、テン!!それ以上したら死んでしまうぞ!!」
闇ギルドの残党の言い分にテンは怒鳴り散らし、彼女は怒りのままに痛めつけて彼等から情報を得ようとした。だが、誰一人としてアンに関する有益な情報は持ち合わせておらず、結局は徒労に終わる。
アンの容姿は判明しており、王都内で彼女が隠れられそうな場所は既に探し回った。それでも見つからないという事は既に王都から抜け出している可能性が高く、捜索範囲を広げて王国は各街にもアンの手配書を送り込む。
「絶対に見つけ出してやる……必ず!!」
「テン……気持ちは分かるが焦るな」
「そうです、私達も貴女と同じ気持ちです」
「分かってる!!そんな事は分かってるんだよ!!けど……」
暴走しかけているテンを抑えたのはランファンとアリシアであり、二人はレイラとは長い付き合いなのでテンが怒りを抱く気持ちは分かる。しかし、だからといってテンの強引なやり方を全て認めるわけではなく、彼女達はテンを落ち着かせようとした。
しかし、そんなテンの元に運がいいのか悪いのかアンの情報が遂に届いた。クーノの街に向かった派遣された兵士が戻ってくると、事件が起きた日の翌日にアンらしき女性を見かけたという目撃者が何人か見つかったという。
「クーノの街の目撃者によると、アンは事件が起きた日の翌日の朝に彼女らしき人物を見かけたそうです!!」
「翌日の朝だと?そんな馬鹿な……犯行が行われたのは深夜の時間帯だよ?だとしたらそいつは数時間足らずでクーノまで移動したのかい?」
「は、はい……クーノの兵士の報告によれば目撃者の証言は信憑性があるとの事です」
「……移動用の魔獣を従えているという事かい」
王都からクーノまで馬で移動するにしてもかなりの時間が掛かるが、アンの場合は馬よりも早い移動用の魔獣を従えている可能性が高い。よくよく考えれば彼女は魔物使いであり、足の速い魔物を従えていたとしても何もおかしくはない。
テンは報告を受けるとすぐに国王の元へ向かい、聖女騎士団を総動員させてアンの行方を追う許可を求める。既にアンが王都を離れてから10日以上が過ぎており、急いで追いかけねば彼女は取り逃がしてしまう。
国王は悩んだ末にテンに許可を与え、アンの一件は聖女騎士団に任せる事にした。エルマも同行させようとテンは彼女を誘ったが、エルマは未だに目覚めないマホの看病のために離れる事はできず、テンも無理強いする事はできずに自分達だけでアンの追跡を行う事にした。
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