最終章 《レイラの墓参り》

「国王陛下、飛行船を失うわけにはいきません。すぐにアルト王子をグマグ火山まで派遣する許可を……護衛役は私が務めましょう」

「うむ、それは構わんが……実はアルトは例の研究室に引きこもっててな」

「実験室?王子になにかあったのですか?」

「その事に関して説明する前にお主は色々と話さなければならん事があってな……実は王都でもとんでもない事が起きたのじゃ」

「……お聞かせください」



神妙な表情を浮かべる国王に対してロランは自分達が不在の間、王都でも只事ではない出来事が起きたと察し、彼から詳しく話を聞く――






――その頃、テンは王都に残っていた聖女騎士団の団員に連れられてある場所に赴いていた。それは王城内に存在する墓地で有り、この場所には歴代の将軍や魔導士、もしくは多大な功績を残した王国騎士の墓が残される。


墓地に案内された時点でテンは察しがつき、彼女は「レイラ」と名前が刻まれた墓を見て黙って立ち尽くす。彼女の傍にはアリシア、ランファンの姿もあった。この二人はテンと同じくレイラとは長い付き合いであり、かつてを交わした。


エルマがいないのは彼女は意識を失ったマホを城内へ運び、彼女の傍を離れられなかった。しかし、レイラの死を聞かされたエルマは涙を流し、自分の代わりにテンに彼女の墓参りを頼む。



「……本当にあいつはそんな事を言ったのかい」

「ええ、間違いありません」

「あのレイラが……殺されただと」

「事実ですっ……!!」



レイラの死を見届けたアリシアはテンとランファンに事情を説明するが、その話を聞かされたテンとランファンはとても信じられなかった。レイラは聖女騎士団の中でも指折りの剣士であり、テンが副団長に就く前は彼女が王妃の右腕として活躍していた。


聖女騎士団の中では王妃と同じく双剣の使い手であり、元傭兵だが気さくで姉御肌な人物だったので他の団員からも慕われていた。テンも言葉こそ口にしなかったが、彼女の事は実の姉の様に大切に想っていた。



「例の魔物使い……とやらに殺されたのかい」

「……そうです」

「アン……あの時のガキが、レイラを……」

「信じられない……」



テンの覚えている限りではアンは孤児院でバートンに人質にされていた哀れな子供にしか見えなかったが、そのアンがレイラを殺したという事実は中々に受け入れがたかった。しかし、いくら頭が理解を拒もうとレイラがこの世にいない事は現実である。



「何やってんだいあんた……約束したじゃないかい、あたし達は死ぬときは一緒だって……」

「テン……」

「申し訳ありません、私がレイラの傍を離れていなければ……」

「止めなっ!!それ以上言ったらぶっ飛ばすよ!!」



アリシアはレイラと別行動を取らなければ彼女を死なせる事はなかったかもしれないと謝罪しようとするが、レイラが死んだのは彼女の責任であって他の人間のせいではない。



「あいつが死んだのは全部あいつのせいさ……あんたのせいじゃない」

「しかし……」

「しかしもくそもあるかい!!これ以上に余計な事を言ったら殴り飛ばすよ!!」

「落ち着け、二人とも」



沈痛な表情を浮かべて今にも泣きだしそうなアリシアを見て、テンは思わずに彼女に殴り掛かりそうになったが、それをランファンが抑える。二人とも頭では理解しているが、それでも簡単にはレイラの死を受け入れられない。


レイラが死んだ事はアリシアは自分にも責任の一端があると思い込み、テンはレイラが死んだのはアンのせいであって他の誰の責任でもないと考えている。ランファンもテンと同じ考えであり、彼女は決意を固めて二人に告げた。



「アンの行方を追うぞ……レイラの仇は我々が討つ」

「ええっ……そうですね」

「……ここで待ってな、レイラ。必ずあんたの仇を討つ、ここにアンの首を持ってくるよ」



3人はレイラの仇を討つ事を誓い、ここから先は聖女騎士団の王国騎士としてではなく、レイラと義姉妹の誓い会った者同士として彼女の命を奪ったアンを討つ事を誓う。


この日からテン達はアンの行方を追い、彼女は聖女騎士団を離れる決意を固めた――






――その一方で王城の研究室ではアルトがブラックゴーレムとの戦闘で負傷した「ドゴン」の修復を行い、これまでにハマーンから教わった技術を駆使して人造ゴーレムである彼を完璧に直す。



「よし、これで問題ない……気分はどうだい?」

「ドゴン♪」

「よし、良い子だ」



ドゴンは自分を直してくれたアルトに嬉しそうな声を上げ、完璧に元通りの状態に戻っていた。そんな彼の姿を見てアルトは安心するが、アンの支配下に置かれていたブラックゴーレムの事を思い出すと素直に喜べない。



(まさか最強のゴーレムだと思っていたドゴンを追い詰めるゴーレムがいたなんて……あの黒色のゴーレム、侮れないな)



もしもドゴンがブラックゴーレムと再遭遇した場合、勝てる保証はない。そこでアルトはドゴンを見つめ、彼がブラックゴーレムに確実に勝つためには「改良」を加える必要があると判断した。



(よし、ここからが魔道具職人の本領発揮だ。必ず仕上げてみせるぞ、僕だけの最強のゴーレムを!!)



アルトはドゴンに改造を加えて最強のゴーレムを作り出す事を誓うが、それからしばらくしないうちにロランが実験室に訪れ、飛行船の回収のためにグマグ火山へ向かう事を伝えられる――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る