最終章 《討伐隊の帰還》
――グマグ火山のマグマゴーレムの大群の討伐が成功したが、魔導士のマホは意識を失って目を覚まさず、鍛冶師ハマーンは最後の仕事を終えて亡くなった。その後、討伐隊は王都へ帰還する前にグマグ火山に赴き、討伐を果たしたマグマゴーレムの素材の回収を行う。
マグマゴーレムの素材を回収する理由はいくつかあり、一つ目の理由は良質な火属性の魔石となる「核」を回収する事、二つ目の理由は仮に生き残りのマグマゴーレムが存在した場合、他のマグマゴーレムの死骸を吸収して暴走する恐れを未然に防ぐためである。
飛行船が襲撃を受けた際にマグマゴーレムが他の仲間の死骸を吸収し、より強大なゴーレムに変化する事が発覚した。もしもマグマゴーレムの死骸をそのまま放置すれば他に生き残りが居た場合、その死骸を吸収して暴走したマグマゴーレムが誕生する恐れがあった。
討伐隊が倒したマグマゴーレムの死骸から核を回収するのは想定よりも時間が掛かり、念のためにグマグ火山近辺を調査してマグマゴーレムが残っていないのかも確認した。結果から言えばマグマゴーレムは確認されず、討伐隊は無事にグマグ火山周辺のマグマゴーレムの討伐に成功を果たした。
しかし、マグマゴーレムを殲滅したところでいずれ火山から新たにマグマゴーレムが誕生する。これは自然の摂理であり、ゴーレム種は自然発生で生まれるので阻止する事はできない。それでもしばらくの間は安全のため、これでグマグ火山に炭夫を送り込んで火属性の魔石の採掘が再開できる。
最大の問題は飛行船の操縦者であったハマーンが亡くなってしまい、彼の代わりに誰が飛行船を操作するのかでひと悶着があった。これまでに飛行船を操縦してきたのはハマーンだけであり、彼の弟子達も操縦方法は教わったが実際に操縦した事はない。
仮に飛行船を操縦できるとしたらハマーンの直弟子だったアルトしかおらず、その彼は王都に残っているので力を借りれない。まさか素人が飛行船の操縦をするわけにもいかず、結局はナイ達は飛行船に頼らずに王都へ帰還する事になった。
「――ロランよ、無事に任務を果たしてよくぞ戻ってきた」
「はっ……予定よりも大分遅れてしまい、申し訳ございません」
討伐隊が王都を出発してから丁度十日後、討伐隊の指揮を務めたロランは一足先に国王の元へ戻り、これまでの報告を行う。
核の回収や火山近辺の調査、飛行船に乗ってきたせいで馬などの乗り物は用意できず、戻るのに大分時間が掛かってしまった。それでもロランは王都へ戻って作戦が成功した事を報告すると、国王は非常に喜んで彼を迎え入れた。
「そうか、無事にグマグ火山の奪還にしたか!!」
「はっ……しかし、その代償としてマホ魔導士は深き眠りにつき、ハマーン技師を失ってしまいました。全ては私の責任です……どうか、罰するなら私だけを」
「何を言う、お主に責任はない。しかし、あのマホ魔導士とハマーン技師が……」
国王としてはマホが倒れ、ハマーンが亡くなった事は残念でならなかった。二人ともこの国にとっては重要な人材であり、せめてマホは目を覚ます事だけを祈る。
「マホ魔導士の容体は?」
「診察したイリア魔導士の話によればマホ魔導士が目覚めるのはいつ頃になるのか全く分からないそうです。明日には目覚めるかもしれないし、もしかしたら10年経っても目を覚まさないかもしれないとの事です」
「むむむっ……」
「希望があるとすればイリア魔導士が現在制作している薬……精霊薬が完成すればマホ魔導士も目覚めるかもしれないとの事です。尤も完成の目途は立っていないようですが……」
「精霊薬、か……御伽噺じゃな」
イリアが前々から精霊薬の開発に勤しんでいる事は周知の事実だが、伝説の秘薬とまで称された薬の開発などできるはずがないと周りの人間は考えている。彼女が優秀な薬師なのは認めているが、それでも国王が精霊薬を人の手で造り出せる薬だとは到底思えなかった。
「この王都に帰還した人間はどのくらいおる?」
「私の他にはバッシュ王子とリノ王女、それと護衛が数名と聖女騎士団団長のテンだけです。他の者は飛行船に残り、船の警備を任せています」
「そうか……飛行船を動かす事ができるのはアルトだけというのは誠か?」
「はい。生前にハマーン技師が残した手紙によると飛行船の運転をアルト王子が変わっていた事もあるそうです」
「アルトめ、そんな話は聞いておらんぞ……」
ハマーンは亡くなる前に自分の命が長くない事を悟り、事前に遺書を書き込残していた。その遺書には飛行船を動かせるのは自分の弟子であるアルトしかおらず、彼以外の者は飛行船を動かす事はできないだろうと記していた。
手紙を確認したロランはグマグ火山に残した飛行船を動かせるのはアルトだけだと信じ、この国にはたった二つしか存在しない飛行船を放置するわけにもいかず、彼は他の討伐隊を王都へ帰還させるためにもアルトをグマグ火山へ出向かせるように国王へ進言する。
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