閑話 《義姉妹の誓い》

※最終章に入る前の最後の閑話です。



――王妃ジャンヌの妊娠が発覚して彼女が出産を迎えるまでの間、聖女騎士団は一時的に副団長であるテンが団長代理を務めた。ジャンヌが安心して出産できるようにテンは聖女騎士団を率いる事になったが、彼女はある日の晩に相談を行う。



「家族って、何なんだろうね」

「ん?」

「どうした急に……」

「どういう意味ですか?」



テンの前にはレイラ、ランファン、アリシア、エルマが集まっていた。この4人はテンと特に親しい間柄であり、酒場に行くときは一緒になる事が多い。


急に誘いを受けて呼び出された4人はテンの言葉の意味が分からずに首をかしげるが、テンは自分の生まれが特殊であるせいで「家族」という物が良く分からない。



「あたしは両親の顔はもう覚えてない。育ての親も何処かに消えちまうし、王妃様が母親みたいなもんだと思ってた」

「そうだったんですか……」

「王妃様が母親なんて恐れ多い事を……」

「だが、言いたい事は分かる」



これまでテンは王妃の事を母親のように慕っていたが、その王妃が本当に子供を産むと知って複雑な気持ちを抱く。まだ生まれてもいない子供に嫉妬しているような気分を味わい、それが嫌になって他の者に柄にもなく相談する。



「あんたらは家族はいるのかい?」

「両親も祖父母も元気だ。弟と妹が4人ずついる」

「私は小さい頃に両親に捨てられた」

「生きてるとは思います」

「私の場合は捨てられたようなものですから……」



テンが他の人間に家族がどんな存在なのか聞くと、ランファンにとって家族とは大切な存在だが、幼い頃に捨てられたレイラは両親を今でも恨み、アリシアの場合は里を離れてから全く会っておらず、連絡も取っていない。エルマの場合はあまり思い出したくはない存在だと語る。


家族といっても人それぞれでどのような存在なのか違い、テンにとっての家族は実の両親よりも育て親の「ネズミ」の方が思い入れが深い。そして今の彼女にとっての家族はジャンヌなのだが、そのジャンヌが本当の子供を産むと聞いた時からテンはやるせない気持ちを抱く。



「王妃様が子供を産むなんて今でも想像できないよ……どんな子が生まれるんだろうね」

「何だ、つまりお前は王妃様が子供を産んだら、自分の事を放っておいて子供ばかり可愛がるんじゃないのかと心配しているのか?」

「まるで子供ですね」

「うるさいね、ぶっ飛ばすよ!?」

「止しなさい、そんな事で喧嘩なんて……」

「子供が生まれようと王妃様は変わる事はないだろう。無論、私たちばかりに構う事もなくなるかもしれないが、それは仕方がない事だ」

「分かってるよ、そんな事は……」



ランファンの言葉にテンは深々と溜息を吐き出し、彼女にとって育て親のネズミとはぐれてから家族と呼べる存在はジャンヌだけだった。そのジャンヌが本当の家族ができると知った時、テンは彼女が自分とこれまで通りに接してくれるのか不安だった。


いつまでも子供のままではいられない事はテンも分かっているが、それでも彼女は寂しい気持ちを抱く。そんなテンに対して彼女と同じように今は家族がいないレイラはある提案を行う。



「テン、お前は新しい家族が欲しいか?」

「は、はあっ!?何を言い出すんだい、あんた……」

「お前程の年齢ならそろそろ男を作ってもいいだろう。ランファンを見習え、こいつは私達を置いてもう結婚したんだぞ」

「むっ……照れるな」

「……今だに信じられません」



ランファンは既にこの時から結婚しており、後に「ゴンザレス」を授かる。聖女騎士団の中では誰よりも早く結婚している。



「あたしは男なんぞに興味はないよ!!まあ、あたしよりも腕っ節が強い奴なら考えなくもないけどね」

「なるほど、巨人族の男が好きか」

「なんで巨人族限定なんだい!!」

「お前に腕力で勝てる人間の男なんかそうそういないだろう……いや、そういえばリョフという冒険者が最近有名らしいが、興味はないのか?」

「知ってるよ、前に会った事がある。けど、あいつは駄目だね……ぞっとする」

「そうか、好みじゃなかったか」

「いや、そういう話じゃなくてね……なんというか、不気味な奴だったよ」



テンは本能的にリョフという男の危険性を感じ取り、近寄りたくない相手だと考えていた。実際に彼女の予感は当たっており、少し前にリョフはジャンヌといざこざを起している。



「男が駄目なら……養子でも取るか?」

「だから、そういう話じゃないと言ってんだろ!?」

「家族が欲しいんだろう?なら作ればいいだろう」

「なんでそうなるんだい!?」

「男も駄目、子供も駄目なら……よし、それなら私達で家族になればいいわけだ」

「はあっ!?何を言い出すんだい!?」



レイラの言葉にテンだけではなく、他の者たちもどういう意味なのかと彼女に視線を向ける。するとレイラは自分の腕を伸ばして短剣で肌を少し切りつけると、テンに短剣を渡す。



「ほら、お前も腕を切れ。間違っても切り過ぎるなよ」

「な、何だい急に……」

「いいから切るんだ、そして私の傷口と合わせろ」

「こ、こうかい?」



言われるがままにテンはレイラの指示通りに従うと、二人は傷口を合わせた状態で向かい合う。そしてレイラは笑みを浮かべて答えた。



「ほら、これでお互いの血が体の中に入った。つまり私達は同じ血が通った姉妹になったわけだ」

「……何言ってんだい、あんた?もう酔ってるのかい?」

「酔ってないよ、傭兵の間では親しくなった人間の間ではこうして血を通わせる事があるんだ。傭兵はいつ死ぬか分からない職業だからね、だから家族も残せるとは限らない。けど、この方法なら簡単に家族を作れるのさ。分かりやすく言えば義兄弟の誓い……いや、義姉妹の誓いだね」

「ほう、それは面白そうだな」

「なら、私達もやりましょうか」

「テン、良かったですね。これで4人も姉ができたじゃないですか」

「そうか、年齢的に考えてテンが一番下の妹になるのか」

「ちょ、ふざけんじゃないよ!!何を勝手に……ああ、もう!!あんたらと家族なんて御免だよ!!」



レイラの提案に他の者たちも乗っかり、その場で義兄弟ならぬの誓いを行う。この日のテンは勝手に自分の姉を名乗る彼女達に焦ったが、決して嫌な気持ちではなかった――





※聖女騎士団の絆は強いです。もっと早くこの話を描きたかったです(´;ω;`)

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