異伝 《悪魔は笑う》

――王城への侵入は非常に簡単だった。王都に残された戦力の殆どは城下町の見回りに出向き、肝心の王城の警備は兵士が数百名ほどしか残っておらず、まさかアンが王城に乗り込んでくるなど誰も想像しないだろう。


指名手配されている人間の方から王城に出向くという発想自体があり得ず、誰にも気づかれる事はなく王城内にアンは潜入成功した。兵士に化けたアンは城内に忍び込み、資料が保管されている書庫へ向かう。


彼女が危険を犯してまで城内に侵入したのはある情報を得るためであり、その情報とは「イチノ」に関する事だった。2年前にイチノでゴブリンキングが誕生して街を襲った事はアンも耳にしており、実際に彼女もその場に居合わせていた。


当時のアンはイチノに度々立ち寄っており、ゴブリンキングの軍勢が現れて王都から派遣された討伐隊がゴブリンキングを打ち果たした事も知っている。しかし、重要なのはその後の討伐隊の行動だった。



(イチノに到着した飛行船がゴブリンキングを討伐した後、王都へ戻らずに逆方向に移動した……つまり、奴等はゴブリンキング以外にも何か用事があってすぐに王都へ戻る事ができなかった)



イチノに訪れた飛行船が王都へ戻る前に何処へ出向いたのかがアンはずっと気がかりであり、王城に乗り込んだアンは書庫を目指す。そこに行けば当時のゴブリンキングの討伐が果たされた時の報告書などの資料を探せるかもしれなかった。


何事もなくアンは無事に書庫へ辿り着けると、一緒に連れてきた鼠型の魔獣を見張りに置いて書庫内の資料を探す。そしてゴブリンキングが現れた時点の資料を発見し、王国軍がどうして討伐後に王都へ帰還せずに別の場所へ出向いたのかを知る。



(……和国?ムサシノ地方?ダイダラボッチ?)



資料には飛行船が向かった場所はかつて「和国」と呼ばれる国が存在し、その場所がムサシノと呼ばれていた事、そして「ダイダラボッチ」なる存在が眠っていた事が明らかとなる。


ダイダラボッチの正体は歴史上で初めて確認された「ゴブリンキング」だと推測され、どのような方法かは不明だが現在もダイダラボッチは生きており、山の中に封じ込められている事が発覚した。


飛行船が王都から戻らなかった理由はダイダラボッチの存在を確認し、それを完全に封じ込めるためにダイダラボッチを掘り起こそうとしていたゴブリンの軍勢を殲滅した事をアンは知る。彼女もイチノ地方で長らく行動していたが、まさかあの地に「ダイダラボッチ」なる存在が眠っていたなど知る由もなかった。



(伝説の魔物……ダイダラボッチ)



アンは王国が隠していた重要機密を知り、笑みを抑えきれなかった。もしもその伝説の魔物を復活させ、そして自分の「僕」と化すことができた場合、彼女に逆らえる存在はいなくなる。


急いで「ダイダラボッチ」の資料をかき集めたアンは王城から脱出し、彼女は即座にイチノへ向かう事を決めた。ムサシノ地方に向けてアンは出発を急がなければならない。



(討伐隊が戻れば本格的に私の足取りを掴むために行動する……奴等に追いつかれる前にムサシノに向かわないと!!)



自分が追われる立場だと知っているアンはグマグ火山から討伐隊が戻る前に王都を脱出し、ムサシノ地方へ向かう事にした。彼女は事前に飛行船に魔獣を送り込んでいたのは討伐隊の動向を監視し、隙あらば討伐隊の面子を始末するためであった。


飛行船内に侵入させた鼠型の魔獣は船内の人員の監視を行う事、そして飛行船の破壊を命じていた。鼠型の魔獣は非力なため、地力で飛行船を破壊する事はできない。だからこそ魔石の類を発見すればそれを破壊して魔石を暴発させ、船を破壊する様にアンは命じていた。


アンにとって残念なのは魔獣達が命令を果たすために死んでしまった事だが、魔獣が死ねば契約主であるアンも把握する。アンは飛行船に送り込んだ鼠が全滅した事を悟り、もう間もなく飛行船が王都に戻ってくる事を把握して急いで行動に移る。



(待ってなさい、私は必ず戻ってくるわ……この国を亡ぼすを連れてね)



王都を脱出したアンは高笑いを上げ、王国史上最悪の事件が間もなく起きようとしていた――





※次回からは最終章です。もう間もなく、この物語も終わりを迎えます。今後はもう今までの様な連続投稿は控えます。流石に体力の限界が……(;´・ω・)

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