異伝 《進化した魔剣》

「うおおおおっ!!」

『キィイッ……!?』



魔石が光り輝いた瞬間、ナイは反射的に旋斧を抜いて棚に目掛けて刃を振り下ろしていた。その行為に棚の中に鼠達は驚くが、彼が刃を振り下ろすよりも先に魔石が爆発を引き起こす。


魔石が爆発した瞬間に棚の中に収められていた他の魔石も巻き込まれ、誘爆を引き起こす。棚の中には先日に倒したマグマゴーレムの核が含まれ、もしも全ての魔石が爆発したらその威力は飛行船を吹き飛ばしかねない程の爆炎が襲い掛かる。




――しかし、その爆発を止めたのはナイの振り下ろした旋斧だった。魔石が収められた棚が爆発した瞬間、ナイは既に旋斧を振り下ろしていた。そして爆炎が拡散する瞬間、旋斧の刃が爆炎を吸い込む。




旋斧は魔力を喰らう能力があり、魔石が破壊された事で発生した爆炎の正体は「火属性の魔力」である。旋斧は爆炎を全て吸収すると刀身が赤く染まり、更に旋斧に嵌め込まれた黒水晶にも魔力が蓄積された。


一瞬にして飛行船を破壊しかねない程の威力を誇る爆炎を旋斧は吸い込み、その光景を目にしたナイは唖然とした。旋斧が一度に吸収できる魔力量は限られているはずだが、鍛え上げられた旋斧は以前よりも魔力を吸収する能力が強化され、更に余分な魔力は黒水晶が吸い上げてしまった。



「……信じられない、これが俺の旋斧?」



ハマーンは死ぬ前に旋斧の能力を最大限に引き出し、鍛え直された旋斧を手にしたナイは身体が震えてしまう。彼の死ぬ前の置き土産にナイは感動を覚えるが、その一方で棚の中に入り込んでいた鼠を探す。



「そうだ、あの鼠達は!?」



ナイは棚を確認すると爆発した際に棚は壊れてしまい、中に入っていた鼠達は爆炎に巻き込まれて跡形もなく残っていた。幸いにも他の棚はナイの旋斧が爆炎を吸収した事で難を免れたが、それでもナイが旋斧を持っていなければ今頃は飛行船は爆破していたかもしれない。



「何だったんだ、この鼠達は……」



鼠が魔石の収められた棚の中に入り込み、その魔石を破壊しようとした行為にナイは背筋が凍る。もしも自分がいなければ今頃は飛行船が大破していた事を考えると、鼠達の行動に肝を冷やす。


先日から不審な挙動を行う鼠が船内に潜んでいる事はナイも知っていたが、今回の一件は明らかに異常だった。鼠達は自らの命を危険に晒すかもしれないのに魔石に嚙り付き、爆発を引き起こそうとした。これらの事から鼠達の正体は野生の鼠ではないと思い、ナイはある事を思い出す。



「魔物使い……か」



今回の出来事も例の魔物使いの仕業かと考え、ナイは棚の残骸を掻き分けて鼠の死骸を探す。そして奇跡的に原型を保ったままの死骸を発見し、その死骸に刻まれた「鞭の紋様」を確認した――







――同時刻、王都では住民に外出禁止令が命じられ、大勢の兵士と騎士達が忙しなく街中を巡回していた。先日に起きた白猫亭の事件以来、王都の軍隊は「魔物使いのアン」の行方を探す。


白猫亭にてアンの正体が判明し、彼女の似顔絵が街中に張り出され、懸賞金も掛けられた。先日に起きたゴノの襲撃事件、そして今回の白猫亭で起きた「ブラックゴーレム」の騒動、最後に聖女騎士団の古参の騎士であるレイラが殺された事で国王はアンを犯罪者として指名手配を行う。



「レイラの仇だ、必ず見つけ出すぞ!!」

「絶対に許さん……私達の手で必ず始末する!!」

「許さない……絶対に許さないっす!!」



聖女騎士団はレイラの仇を打つために躍起になって王都中を駆け巡り、アンの行方を探す。レイラを慕う者は特に怒りを抑えきれず、血眼になってアンを探していた。


しかし、いくら探してもアンの姿は見当たらず、似顔絵を張り出して住民達にも情報を集めるが、彼女の行方を追う手がかりは一向に見つからない。それでも聖女騎士団は捜索を止めず、彼女を探し続ける。




「――馬鹿な奴等ね、そんな事で私を見つけられると思っているのかしら」




そんな騎士団の姿を高い場所から見下ろす人物が存在した。その人物の正体こそアンであり、彼女は未だに王都に残っていた。彼女が王都から離れずに逃げなかった理由、それはまだ王都に彼女は用事があるからだった。


本来ならばアンは王都から早々に立ち去って身を潜める必要があるが、彼女は王都を発つ前にどうしても調べなければならない事があった。それは王国が隠している秘密であり、その秘密を探るためには彼女は王都を離れられない。


アンは王城の方角に視線を向け、今が絶好の機会だった。どうしてアンがわざわざ城下町で騒ぎを起こしてきたのか、そして討伐隊がグマグ火山に出向くまで大人しく待ち続けていたのか、全てはこの日のためである。



(王都の戦力の大半はグマグ火山に向かい、厄介な騎士団は城下町の見回りに人員を割いている。今が忍び込む好機ね)



城下町でアンが騒ぎを起こした理由、それは王城の警備が薄くなる機会を伺うためであり、今こそが最も王城に忍び込むには都合がいい状態だった――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る