異伝 《最後の魔法》
「――老師、部隊が押され始めています!!」
「遂に限界が来たか……儂の出番じゃな」
火口から少し離れた場所にてエルマとマホが待機しており、彼女達は戦闘に参加せずに戦況を伺っていた。マホは座禅を行い、長い時間を掛けて魔力を練り上げる。
先の飛行船の戦闘ではマホは魔力を練り上げられずに広域魔法の発動に失敗した。これは長年の間、彼女が呪いに蝕まれた影響で魔力が上手く練れず、呪いが解けた今でも彼女の身体は既に壊れていた。
(恐らく、これが儂の最後の魔法となるじゃろう……)
身体の負担が大きい広域魔法を使用すればマホはもう二度と自分が魔術師として戦えない事になるとは推測していた。せめて10年ほど身体を休めれば元通りの肉体に戻る可能性もあるが、魔導士という立場がそれを許さなかった。
(やれやれ、まさか
マホは純粋な森人族であり、真っ当に生きていればもっと長生きできたかもしれない。しかし、彼女はこの国の魔導士として取り上げられ、多大な恩を受けてきた。
この恩を報いるには彼女自身が命を賭けてこの国を守るしかなく、亡くなった王妃の約束のためにも彼女は戦う。王妃と交わした約束は自分の死後、この国を守ってほしいという内容であり、その約束を果たすためにマホは覚悟を決める。
「エルマよ、儂にもしもの時があれば……この国を支えるのはお主じゃ」
「えっ!?老師、何を言って……」
「頼んだぞ、我が弟子よ。
最後にマホはエルマに言い残すと、彼女は杖を振りかざして上級魔法を発動させる。彼女の身体に風の魔力が纏い、身体が浮き上がる。
「
「ろ、老師!?お待ちください、私も共に……!!」
空中に浮上したマホはそのまま加速すると、エルマを置いて火口へ向かう。そこにはナイとリーナがマグマゴーレムに囲まれる形で戦っていたが、マホはそれを確認して二人の元へ降り立つ。
「二人とも、よくやった。後は儂に任せよ」
「はあっ、はあっ……マホ、魔導士!?」
「ぜえっ、ぜえっ……ど、どうしてここに?」
ナイは強化術が切れて煌魔石で体力と魔力を回復させ、そのナイを守るためにリーナはマグマゴーレムの群れに立ち向かっていたが、その二人を見てマホは笑みを浮かべる。
彼女は二人を自分の傍に寄せると杖を構え、それを目撃したマグマゴーレムの群れは彼女の身体から放たれる風属性の魔力を感じ取り、危機感を抱く。ここでマホを殺さなければ自分達の身にとんでもない事が起きる、そんな風に野生の本能が危険を告げ、マグマゴーレムの大群はマホに襲い掛かろうとした。
『ゴアアアアッ!!』
「気付き負ったか、だがもう遅い……二人とも、儂から離れるな!!これが魔導士マホの最後の魔法じゃ!!」
「最後!?」
「ナイ君、掴まって!!」
「――
マホの言葉を聞いてナイは驚いたが、すぐにリーナが彼の身体を掴んでマホの足元に伏せた瞬間、マホは地面に杖を置いた瞬間に3人の周囲に竜巻が発生した。
――ゴガァアアアアアッ……!?
グマグ火山の火口にて凄まじい竜巻が吹き溢れ、その影響で火口に集まっていたマグマゴーレムはマグマ溜まりごと吹き飛び、空中にて粉々に砕け散った。かつてナイは広域魔法を発動する光景を何度か見た事があるが、今回のマホの使用したサイクロンはこれまでとは比べ物にならない威力を誇る。
数十体のマグマゴーレムが竜巻に飲み込まれて天高く上昇し、やがて見えなくなった。そして遂にマホの魔力が切れたのか、彼女は杖を手放すと竜巻が掻き消え、虚ろな瞳で倒れ込む。
「うっ……」
「マホ魔導士!?」
「しっかりして下さい!!」
マホが倒れ込むとナイとリーナは慌てて彼女を支えるが、既にマホは意識を失っていた。瞳の色も失い、ぴくりとも動かない。まるで死人の様に動かなくなったマホにナイ達は声をかけるが、彼女が返事を返す事はなかった――
――それから数分後、残っていたマグマゴーレムの討伐の成功を果たした騎士団がマホを取り囲み、彼女は弟子のエルマに抱えられていた。エルマは涙を流してマホを抱きしめるが、既にマホは意識はなく、目覚める様子がない。
「老師、老師ぃいいいっ!!」
「エルマさん……」
「今はそっとしておいてやれ……」
エルマがいくら声をかけてもマホが返事を返す事はなく、彼女の意識は完全に失われていた。一応は肉体の方はまだ生きているが、この調子だといつ目覚めるのかは分からない。
しかし、マホの最後の広域魔法のお陰で戦況は一変し、遂に討伐隊はマグマゴーレムの大群の討伐に成功した。これでグマグ火山の安全は確保され、王国の平和は保たれた。その代わりに失った物も大きく、王国は二人の有能な人材を失う――
――飛行船に討伐隊が引き返すと、既に医療室にてハマーンは息を引き取っていた事が報告された。
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