異伝 《討伐再開》
――ハマーンが旋斧と岩砕剣を打ち直している頃、討伐隊は再編成されてグマグ火山へ向かう準備を整えていた。今日中に火口に辿り着き、火山に生息するマグマゴーレムの掃討を完了させる。
幸運な事に昨日風邪を引いて倒れていたゴウカも目を覚まし、彼は起きて早々に大量の飯を食べると完全復活を果たす。体長も万全らしく、飯を食べ終えた途端に元気を取り戻して討伐隊に参加する事を伝えた。
「ふはははっ!!我、復活!!我、復活!!我、復活!!」
「この人、大丈夫ですか?色々な意味で……」
「ま、まあ……元気そうでなによりじゃないですか」
いつも以上にハイテンションなゴウカの姿に他の者は引いてしまうが、彼が討伐隊に参加するのであればこれ以上に心強い存在はいない。甲冑とドラゴンスレイヤーを装備したゴウカが加わり、更にナイが加われば鬼に金棒なのだが、ここで問題が起きた。
「あれ?ナイさん、いつもの武器はどうしたんですか?」
「それが……ハマーンさんに打ち直して貰ってるんだけど、まだ時間が掛かるらしくて」
「仕方ないからあたしの退魔刀を貸してやったのさ。そのお陰であたしは留守番だよ」
ナイはテンの退魔刀を背負った状態で参加し、彼の代わりにテンが留守番役として残る事になった。旋斧と岩砕剣がないのであればナイの武器の代わりになるのはテンの退魔刀しかなく、彼女も武器を貸す以上は討伐隊に参加できない。
生半可な武器ではナイやテンの武器の代用にはならず、生憎と船に持ち込んだ武器の類の中で二人が扱う大剣の類はなかった。そもそも大剣自体が珍しい武器でもあり、しかもこの二人が扱う程の強度を誇る大剣は滅多に見かけない。
「でも魔剣は正当な所有者でなければその能力を発揮しませんよ」
「それは分かってるだけどね、あたしが行くよりナイが行った方が戦力的には心強いだろう?それにこの退魔刀ならマグマゴーレムをぶった切っても壊れる事はないからね」
「すいません、少しの間借りておきます」
「まあ、いいさ。もしもハマーン技師が旋斧と岩砕剣を打ち直したらすぐに持って行ってやるよ」
「ふむ……我々が居ない間、飛行船の警護はお前に任せるぞ」
討伐隊が飛行船を離れる間、テンは飛行船の警護を任せられる。彼女以外に飛行船に残るのは現在は鍛冶を行っているハマーンと、彼の傍から離れないガオウ達だった。
「兄上、皆様……今回は私達も同行します」
「リノ、お前が無理に付いてくる必要はないぞ」
「いいえ、私も銀狼騎士団の団長です。この地に出向いておきながらずっと飛行船に引きこもっているわけはいけません。それに私には頼りになる護衛がいます」
「この命に代えてもリノ様をお守りします」
「拙者も同じでござる」
リノの言葉にシノビとクノがバッシュの前に跪くが、バッシュはシノビに対して鋭い視線を向け、彼がマグマゴーレムが襲来した時に自分が出ていくのを邪魔した事は忘れていない。
「シノビ、今日の出来事は俺は忘れていない。だが、お前が相応の功績を上げれば許してやる」
「……肝に銘じておきます」
「忘れるな、貴様はリノの配下だ。貴様が失敗すればリノの責任となる……くれぐれも注意しておけ」
「はっ!!」
シノビはバッシュの言葉に頷き、そんな二人をリノは心配した様子で眺める。先の一件でバッシュはシノビの認識が一変し、もう彼の事は只のリノの護衛とは思わない。
もしもシノビがまた自分の邪魔をしたり、あるいは大きな失敗をすれば彼は次期国王としてリノの傍にシノビを置くつもりはない。しかし、逆にシノビが功績を上げれば彼とリノの関係を認めてやってもいいと考えていた。
「せいぜい頑張る事だな……よし、出発するぞ!!」
『はっ!!』
バッシュ王子が命令すると、討伐隊は遂にグマグ火山に向けて出発を開始した。今回はフィルもヒイロもミイナもルナも同行しており、戦力は前回よりも強化されていた。
不安があるとすればナイはテンから借りた退魔刀では魔剣の力は使えない事であり、魔法剣の類は当てにはできない。それでも彼は最大の戦力である事に変わりはなく、連れて行かないわけには行かない。
(今日で終わる……絶対に勝って帰らないとな)
ナイは今日一日でグマグ火山に生息するマグマゴーレムとの決着がつくと予想し、緊張を隠せない。今回は頼りにしていた旋斧も岩砕剣も扱えないが、それでも彼は仲間と共に戦う事を決めてグマグ火山に向けて歩む――
――飛行船の船首から討伐隊がグマグ火山に向けて出向く光景を確認する小さな影があり、その影は飛行船を降りて討伐隊の後を追うように移動する。
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