異伝 《鍛冶師として最後の仕事》

『おい、爺さん……無理をするなよ、怪我してんじゃねえか』

『何を言うか……約束したじゃろう、お主のために武器を作るとな』

『だからって、そんな傷で無茶をしたら死んじまうぞ?』

『ふんっ、舐めるでない。この程度の傷では死なん』



ガオウとの試合で敗れたハマーンは深手を負ったが、応急処置を済ませた途端に彼を工房まで連れ出す。そして以前に約束した通りに彼はガオウのために武器の製作を行う。


ハマーンは工房に辿り着くとガオウの身体を調べ、彼がどんな武器が欲しいのかを確認し、それに見合った武器の制作を行う。全身に包帯を巻きながらも彼は武器を作り上げるため、鬼気迫る表情で鉄槌を振り下ろす。



『おい、もう止めろ!!血が滲んでるぞ!?』

『やかましい!!いいからお主は黙って見ておれ……安心しろ、例え死のうと儂は約束を果たす!!』

『爺さん……!!』

『ドワーフはな、真に認めた相手にしか望みの武器は造らん!!お主は儂に勝った、ならばお主に相応しい武器を儂が作らねばならん!!』



ドワーフの鍛冶師としてハマーンは誇りを持っており、彼は認めた人物のためならば仮に自分の肉体がどうなると武器を作る事を止めない。そして出来上がったのは現在もガオウが使用している二つの短剣であり、名前はないが名刀に恥じぬ武器を作り出す。



『ほれ、できたぞ……これがお主の武器じゃ』

『……すげぇっ、初めて持つのにしっくりくる』

『大切に扱え、もしも壊れたとしても儂が治してや……うっ!?』

『爺さん!?』



ハマーンは仕事を終えた瞬間に倒れ込み、その後は三日三晩も意識が戻らずにベッドに横たわっていた。この一件からガオウはハマーンと縁を深め、彼の事を尊敬に値する鍛冶師だと認識した。


その後、ガオウはハマーンの元にちょくちょく訪れては装備を打ち直して貰う。ガオウはハマーン以外の鍛冶師には自分の装備を預ける気はなく、黄金級冒険者に昇格した後もハマーンに頼っていた。



『爺さん、あんた何時まで鍛冶師をやるつもりだ?もう昔みたいに身体も動かないんだろう?』

『余計な心配をするな、無論死ぬまでじゃ……あと数年は頑張れる』

『よく言うぜ……こんだけ弟子が居るんだ、もう引退して田舎に隠居すればいいじゃないか』

『バカタレ!!儂以外に誰がお前の装備を打ち直せると思っておる!?』



数か月ほど前にガオウはハマーンの元に赴き、彼に装備を見直して貰った。この時は軽口を叩けるだけの元気はハマーンにあったが、それから彼の元に訪れるとよく咳をする姿を見かけた。



『げほっ……げほっ!!』

『おい、爺さん……また風邪か?』

『う、うむ……』

『あんまり無理するなよ』

『年寄り扱いするな、儂は平気じゃ!!』



会う度にハマーンは咳き込む姿を見てガオウは心配するが、そんな彼にハマーンは強気な態度を貫く。しかし、誰がどう見てもハマーンの身体はもう限界が近い。


それとなく彼の弟子がハマーンに薬師に診てもらうと、薬師の話によれば長年の鍛冶と冒険者の仕事を続けたせいでハマーンの肉体に大きな負担を抱え、これ以上に今の仕事を続けると半年も持たないと宣言された。その事をガオウは弟子たちに伝えられ、衝撃を受ける。



『ガオウさん、お願いします。どうか師を止めてください……』

『あの人は本気で死ぬつもりです……俺達は鍛冶師としてあの人の気持ちは痛いほど分かります。ですけど、それでも少しでも長生きしてほしいんです』

『ガオウさん、あんたなら止められる。あの人はガオウさんの事を息子の様に思ってますから……』

『…………』



ハマーンの弟子達は鍛冶師としてハマーンの事を尊敬しているが、それでも彼等はハマーンに長生きしてほしかった。だからこそ身体が限界なのに仕事を続けるハマーンを止める事はできない。しかし、鍛冶師ではないガオウからならハマーンに仕事を止めるように告げる事ができると相談してきた。


ガオウもハマーンには長生きしてほしいという気持ちはあるが、それが本当に彼にとっての幸せなのかと考えてしまう。ハマーンの望みは最期の時まで鍛冶師として生きる事であり、もしも鍛冶師を止めれば彼は自分の望みを叶えられなくなる。



『――爺さん、また武器が壊れちまった。直してくれよ!!』

『なんじゃい、また来たのか……ゴウカにやられたか?』

『うるせえな、さっさと直してくれよ』

『全く仕方ない奴じゃ』



結局はガオウはハマーンを止めるような真似はせず、彼の鍛冶師として最期を迎える時が来るまで彼に頼る事にした。ハマーン自信が長生きするつもりがないのであれば彼を止めるような真似はせず、残り短い人生ならば彼の好きなようにさせるのが一番だとガオウは考えた――





(――爺さん、あんたの最期を見届けてやるぜ)



時は現代に戻り、一心不乱にナイの旋斧と岩砕剣を鉄槌で叩き付けるハマーンの姿をガオウはこっそりと覗き、他の者を工房へ近づけさせない。彼は今、残り少ない命を費やして仕事に励んでいる。ならばガオウに止めれるはずがなく、彼はここへ残る事にした――

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