異伝 《勝利の代償》
「いてててっ……頭打ったぁっ……!?」
「だ、大丈夫か?」
「は、はい……」
ロランはリーナの腕を掴んで立ち上がらせると、彼女は涙目を浮かべながらたんこぶを摩る。その様子を見てロランは苦笑いを浮かべ、他の者たちも駆けつけた。
「おい、リーナ!!よくやったね、あんた!!」
「たくっ、良い所を持って行きやがって……」
「大将軍もお疲れさまでした」
「お前達も良く戦った……それにしても、まさかこんな場所にまでマグマゴーレムが攻め寄せてくるとはな」
全員が集まって勝利の喜びを分かち合うが、ロランは改めて自分達が倒したマグマゴーレムの残骸の山を確認する。この場所は飛行船から数キロも離れているのだが、マグマゴーレムの大群がここまで追いかけてきた事に彼は顔をしかめる。
基本的にマグマゴーレムは生息地である火山から遠く離れるような行為は行わず、理由としては彼等が好物としている火属性の魔力が宿った鉱石は火山地帯でしか取れない。仮に火山を離れるとマグマゴーレムは徐々に魔力を失い、力を失って動けなくなる。だからマグマゴーレムが火山地帯から遠く離れる事は有り得ないと思われていた。
しがし、現実にマグマゴーレムは火山から数キロも離れたこの場所にまで攻め込み、しかも雨が降っていても地中を掘り進んで進んできた事にロランは改めて恐ろしく思った。これではこの地も安全とは限らず、早急に飛行船を別の場所に移動させる必要があった。
「一旦、ここよりも遠くに飛行船を移動させる」
「それしかないだろうね……この近くに湖とかはないのかい?そこならマグマゴーレム共も近寄れないだろ?」
「いえ、残念ながらこの近くに湖はありません」
テンの言葉に周辺地域の地図を覚えていた騎士は首を振り、グマグ火山の周辺には飛行船が着水できそうな湖は存在しない事を伝える。そうなると飛行船をグマグ火山からもっと離れた場所に移動させるしかないが、マグマゴーレムが何処まで追ってくるのか分からない以上は地上に着地している状態では安心できない。
「ですけど、私達も相当な数のマグマゴーレムを倒したはずですわ。もう火山に残っているマグマゴーレムもそれほどいないのでは……?」
「うむ、その可能性もある……よし、まだ日も高い。このまま我々はグマグ火山へ向かい、火口付近に存在するマグマゴーレムを掃討するぞ」
「えっ!?本気ですか!?」
ロランの言葉に全員が驚くが、ロランもこの状況で冗談を言う様な人間ではなく、彼は真面目に考えた上でこのまま火山に生息するマグマゴーレムの討伐作戦を終了させる事を伝える。
「何処へ移動したとしてもマグマゴーレムがいつ襲ってくるか分からない。昨日も襲われなかったのは雨が降ったせいだ。もしも雨が降っていなければ奴等は昨日の時点で襲っていた可能性もある」
「それはそうですけど……」
「幸いにも我々は昨日1日休んだ事で疲労は抜けている。今回の戦闘もイリア魔導士の兵器のお陰でマグマゴーレムの殆どを掃討できた」
「まあ、確かにお陰で楽はできたね」
イリアの小樽型爆弾と投石機のお陰で100体近くのマグマゴーレムの討ち、9割近くも倒す事ができた。そんな便利な物があるならばもっと早く使えばよかったのでは、という考えは置いといてロランは今ならば全員が万全の状態で戦える事を確認した。
「今の我々ならばグマグ火山の火口付近に存在するマグマゴーレムを掃討できる。仮に火山の他の場所にマグマゴーレムが残っていたとしても、ここまで倒したマグマゴーレムの数を考慮すればそれほど残っていないはずだ」
「そういえば心なしか涼しくなったような気がするぞ?」
「それもマグマゴーレムを倒した原因かもしれませんわね」
三日前と比べるとグマグ火山付近の熱気が収まり、この理由も数百匹のマグマゴーレムを倒したのが原因だと考えられた。この調子でマグマゴーレムを掃討すればこの地域の環境も安定し、より安全にグマグ火山の火属性の魔石を採取できる。
討伐隊がグマグ火山に派遣された理由はグツグ火山から火属性の魔石が採取できなくなったからであり、今後はグマグ火山で火属性の魔石を採取するしかない。そのためには魔石の採取を妨害するマグマゴーレムを討伐する必要があり、マグマゴーレムとの掃討はどうしても必要な仕事だった。
「各自、準備を整えろ。これが最後の戦いになるだろう……リーナ、ナイとゴウカの様子はどうだ?」
「あ、ナイ君なら目を覚ましたけど……まだ病み上がりだから本調子じゃなさそうです。ゴウカさんはまだ眠ってましたけど……」
「そうか……二人が居れば心強いのだが」
「まあ、あいつらは頑張ってくれたからね。偶にはナイの奴抜きであたしらで何とかしないとね」
「ナイがいなくてもルナが居れば十分だ!!」
ナイとゴウカが討伐隊に参加できないのは戦力的に厳しいが、今回は前回に留守番していた者達も連れて戦力を補強し、飛行船には最低限の人数を残して討伐隊は出発する事が決まる――
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