異伝 《シノビの覚悟》

(くっ……魔力が練れん、後遺症のせいか)



マホはかなり長い間、呪いに侵されていた。そのせいで呪いが解除された今でも魔力を上手く制御する事ができず、広域魔法の発動に時間が掛かる。


この調子では5分どころかそれ以上の時間を費やさねばならず、それまでの間に討伐隊が巨大ゴーレムの相手をしなければならない。しかし、巨大ゴーレムに有効的な攻撃を行える者はリーナしかおらず、そのリーナはナイの元から離れられない。



「エルマよ、お主も援護に集中しろ。儂の事は気にするな……」

「は、はい!!」



エルマはマホの護衛のために彼女の傍に離れなかったが、マホの指示を受けて彼女は弓矢を抱えて地上へ降り立つ。その間にマホは魔力を練る事に集中したが、不意に彼女は何処からか視線を感じた。



(誰かに見られている……?)



マホは周囲を見渡したが特に人影はなく、最初は気のせいかと思ったが確かに何処からか視線を感じる。何処から見られているのか分からず、視線を気にしながらだと余計に上手く魔力が練れない。



(いったい誰じゃ?何を考えて……いや、気にしている場合ではない)



相手が何者であろうと関係なく、マホができる事は広域魔法を発動するための魔力を練る事だった。だが、そんな彼女の様子を密かに眺める存在が居た――





――船内ではバッシュはリノと共に外へ出向こうとしたが、それを足止めしていたのはシノビだった。彼は二人が外に出ないように立ち塞がり、そんな彼に対してバッシュは険しい表情を浮かべていた。



「そこを退け!!」

「なりません……貴方達をここから先に通す事はできませぬ」

「シノビ、どうして……」

「貴方達はこの国を背負う方々……ここで死なせるわけにはいきませぬ」



シノビは二人を通すつもりはなく、ここで二人を行かせれば巨大ゴーレムに殺される可能性もあった。もしも二人が殺されればこの王国にどれほどの悪影響を与えるのかを説く。



「バッシュ王子、貴方は国王様の後継者です。どうかご自愛下さい」

「ふざけるな!!我が部下が命を賭けて戦っているというのに黙って見ていろというのか!?」

「忠誠を誓った主君のために命を賭けるのは当然の事、貴方に従った者達も貴方のために戦う事に不満を抱く者はりませぬ。それは私も同じです」

「シノビ……」

「何と言われようと御二人をここから先に通すつもりはありません」



バッシュとリノが戦線に参加したとしても状況は変わるとは思えず、二人に恨まれる事になったとしてもシノビは先に行かせるつもりはなかった。彼はリノに視線を向け、何があろうと愛する彼女を死なせるわけには行かなかった。



「どうしても通りたいのであれば俺を殺してください。但し、その時は俺もただでは死にません」

「……良い度胸だ」

「兄上!?お辞め下さい!!」



防魔の盾を構えたバッシュをリノは慌てて止めようとするが、そんな彼女とシノビを見て、ここでバッシュを傷つければ妹を悲しませる事は理解していた。それでも彼は部下だけを危険に晒して自分が安全な場所で待機するなど我慢ならない。


将来この国を背負う人間として育てられたバッシュも自分の立場はよく理解している。彼が死ねば妹や弟に国を背負うという重荷を負わせ、他の者たちにも迷惑を掛けてしまう。しかし、自分と共にここまで戦ってきた騎士団の人間達はバッシュにとってはただの仲間ではなく、この国を支える大切な同志だった。そんな彼等を見捨てるわけには行かず、バッシュはシノビに言いつける。



「……シノビ、妹の事を任せたぞ」

「何をっ……!?」

「兄上?」



思いもよらぬ命令にシノビは唖然とするが、そんな彼に対してバッシュはリノの肩を掴み、シノビに差し出す。彼の行為にリノもシノビも驚くが、バッシュは二人に対して告げた。



「お前達の結婚を認める。父上も説得しよう」

「あ、兄上!?」

「いったい何を言って……!?」

「シノビ、お前の目的は和国の領地の返還だったな。それならばリノと結婚し、お前を王族として迎え入れる。そうすれば俺が王位を継承した後、お前にあの領地を託す事を約束しよう」

「俺が王族に……!?」



思いもよらぬバッシュの言葉にシノビは動揺し、リノの方も頬を赤らめて彼に身体を預ける。そんな二人に対してバッシュは少し気に入らなそうな表情を浮かべるが、シノビに問い質す。



「これは取引だ。このまま俺達を行かせればお前は自分の目的を果たせる。愛する女とも結婚できる……それでも邪魔をするというのか?」

「そ、それは……」

「兄上、急に何を……」

「さあ、決めろ。お前の答えを聞かせろ」

「…………」



シノビはバッシュの言葉に咄嗟に言い返す事ができず、迷った末に彼は黙ってリノを押し返す。その行為にリノもバッシュも驚くが、彼は苦悶の表情を浮かべながら答えた。



「……行かせられません!!例え、どんな事を言われようと御二人を危険に晒すような真似はできません」



苦し気な表情を浮かべながらもシノビは言葉を絞り出す。




※今日はここまでです。明日に一気に投稿します。

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