異伝 《ハマーンの意思》

「ずっと監視されてたなんて……全然気づかなった」

「仕方ないでござる、それほどまでにこの鼠達は完璧に気配を消していたでござる。しかし、何故か急に襲ってきたのは気になるでござるが……」

「あっ!?ナイ君が目を覚ましたよ!!」

「う〜んっ……」



会話の際中にモモに胸に顔を挟まれて苦しそうな表情をしたナイが目を覚ますと、彼は頭を抑えながら身体を起き上げる。怪我は完璧に治ったが、まだ完全には体力が戻り切っていないのか気分が悪そうだった。



「ううっ……綺麗な花畑で爺ちゃんとゴマンと花冠を作っていた夢を見た気がする」

「それは危なかったでござるな。ちゃんと戻って来れてよかったでござる」

「ナイ君!!元気になって良かったよ〜!!」

「もう、心配かけさせないでよ!!」



ナイはモモとリーナに抱きしめられ、この時に彼女達の大きな乳房を押し当てられる形となる。普段のナイなら頬を赤くさせて離れていたかもしれないが、まだ体力が戻り切っていないせいで彼女達を引き剥がせない。



「ううっ……力が入らない」

「当然でござる。あれほど暴れた後なら普通は何日か動けないでござるよ」

「お腹が空いた……肉まんが食べたい」

「え?肉まん?ナイ君、肉まんが好きなの?」

「何故か急に食べたくなった」



二人の大きな胸を押し当てられたせいかナイは肉まんが無性に食べたくなったが、生憎と病み上がりの人間にそんな物は食べさせられない。モモはすぐにナイのためにおかゆを作る事を決め、厨房に向かう事にした。



「じゃあ、私が料理を作ってくるね!!」

「モモ殿、一人だと危険でござる。拙者も行くでござるよ」

「そう?じゃあ、クノちゃんも一緒に作ろう!!」



料理を作りに向かおうとしたモモにクノも付いて行くと、残されたナイはリーナから色々と事情を聞く。自分が寝ている間に何が起きたのか聞かなければならなかった――






――同時刻、ハマーンは攻防にて自分の弟子達と共にナイの旋斧と岩砕剣を打ち直していた。この二つの魔剣はナイの所有物なのだが、彼が気絶した時にハマーンが魔剣を攻防へ運び出す。



「親方……本当に大丈夫なんですか?あの坊主の許可もなく、勝手に武器を打ち直しちゃって……」

「大丈夫じゃ、ナイの奴なら怒ったりはせん。それにこれはナイのためじゃ」

「えっ!?親方、今あの坊主の事を名前で言いました!?」

「なんじゃ?何か変な事を言ったか?」



ハマーンが「ナイ」の名前を口にした事に弟子達は驚き、基本的に彼は親しい人間しか名前で呼ぶ事はない。彼は若者の男性を相手にするときは「坊主」というが、自分が認めた人間ならば呼び捨てにする。


既にハマーンはナイの実力を認め、そんな彼のためにハマーンは旋斧と岩砕剣を打ち直す。この二つの武器は兄弟剣であるが、構成された素材や武器としての性質は大きく異なる。



(ナイが全力で戦えるようにこの二つの魔剣も鍛え上げねばならん……だが、儂の身体が持つかどうか)



作業の途中でハマーンは激しく咳き込み、口元に手を押し当てる。その手にはが滲み、それを見た弟子達は心配した声を上げた。



「親方!!やっぱり、これ以上は無理です!!親方の身体はもう……!!」

「やかましいわい……自分の身体の事は自分がよく知っとる」

「親方……」

「安心しろ、儂は死なん。何があろうと仕事を完璧に終わらせるまでは……な」



恐らくは今回の遠征とナイの武器を鍛え上げる事が自分の最後の「仕事」になる事を予想し、彼は熱心に剣を打ち続ける。その様子を弟子達は心配しながらも見守る事しかできなかった――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る