異伝 《船内の危機》
――同時刻、船内の医療室では目を覚ましたモモとリーナは窓の外を心配そうに眺めていた。この二人は未だに意識を失っているナイの元から離れられず、外の戦闘に参加する事はできなかった。
「う、うわぁっ……女将さん、容赦ないよ」
「これは僕の出番は必要なさそうだね……」
外では王国騎士と冒険者達がマグマゴーレムを相手に戦っており、戦況に関しては王国側が有利だった。核を吸収して力を増したマグマゴーレムでも流石に王国最強の戦力が相手では分が悪く、この調子ならば王国軍は確実に勝利する。
本来ならばマグマゴーレムと一番相性が良いリーナが真っ先に出向くべきなのだが、彼女は未だに意識を取り戻さないナイを心配してここから動けず、他の者たちもそれえを配慮して彼女に船の守りを任せて外に出た。
「あ、見て見て!!ミイナちゃんがこっちを見たよ!!あ、手を振ってる!!」
「戦闘の際中なのに余裕だなぁっ……ん?」
「どうかしたの?」
リーナは物音が聞こえたような気がして振り返ると、モモも不思議そうに彼女の視線の先に目を向ける。しかし、二人の視界には特に怪しい物はなく、ベッドに横たわっているナイの姿しか見えない。
「今、何か音がしたような気がしたけど……」
「えっ!?ナイ君が目を覚ましたの?」
「ううん、そういうのじゃないと思うけど……」
ナイが目を覚ましたのかとモモは期待したが、リーナはそれを否定して蒼月を手に取る。武芸者としての直感が彼女に危険を告げ、部屋の中を見渡す。
(何かが居る?まさか、敵!?)
リーナはモモを庇いながら周囲の様子を伺い、この医療室にはリーナ達以外には治療中の騎士達がベッドに横たわっている。彼等を見たリーナは全員が寝ている事を確認し、彼女が感じた「殺気」を放つのは騎士達ではないと悟る。
蒼月を手にしながらリーナはナイをモモに任せ、部屋の中をもう一度見渡して殺気を放つ存在を探す。この部屋の何処かに隠れている事は間違いなく、彼女は「心眼」を発動させた。
(意識を集中させて……敵は何処にいるのか見極めるんだ)
リーナもこの2年の間に修行し、ナイのように強くなるために特殊技能の「心眼」を習得した。彼女は五感を研ぎ澄ませると殺気を放つ存在を探し出し、そして天井の方から殺気が放たれている事を見抜く。
「そこだっ!!」
「キィイッ!?」
「わあっ!?」
蒼月を天井に向けてリーナは突き刺すと、彼女の行為にモモは驚いてナイに抱きつく。この時にナイはモモの胸に顔が挟まれる形となり、少し苦しそうな表情を浮かべる。
天井に蒼月を繰り出したリーナは手ごたえを感じると、天井から蒼月を引き抜くと刃には白色の鼠が突き刺さっていた。その鼠を見てリーナは船内に隠れていた鼠の話を思い出す。
(この鼠、ガオウさんたちが言っていた鼠型の魔獣?どうしてこんな場所に……)
鼠型の魔獣を仕留めるとリーナは安心仕掛けるが、その一瞬の隙を突いて天井にできた穴から別の鼠が飛び出す。
「キイイッ!?」
「なっ!?」
「きゃああっ!?」
天井に隠れていたのは1匹だけではなく、2匹目の鼠が飛び出す。鼠はナイに目掛けて落下すると、ナイを庇ったモモが悲鳴を上げる。それを見たリーナは蒼月を繰り出そうとした時、何処からかクナイが飛んできた。
「させぬでござる!!」
「えっ!?」
部屋の扉が開かれるとクノがクナイを投擲し、空中から落下してきた鼠にクナイが突き刺さる。鼠は壁に串刺しとなり、悲鳴が部屋の中に響く。
「キィイイイッ!?」
「ふうっ……間一髪でござったな」
「ク、クノさん!?」
「え、え、な、何!?」
「落ち着くでござる」
クノが現れて鼠を倒した事にリーナは驚き、モモは状況を理解できずに混乱したが、そんな彼女達を落ち着かせてクノは事情を話す――
――彼女の話によるとクノは昨夜から医療室の部屋の前で待ち伏せしていたらしく、彼女はシノビの指示で船内の様子を探っていたという。この時に彼女は船内に残っていた鼠達を発見し、気づかれないように様子を伺う。
クノが発見した鼠達は明らかに野生の種ではなく、まるで誰かを監視するかのように行動を取っていた。そして彼女が見つけた鼠2匹は医療室を見張る様に動かず、離れる様子がなかった。
鼠達の行動に不信を抱いたクノは昨日からずっと鼠達を観察し、そしてリーナが鼠を仕留めた時点で彼女も助太刀したという。ここまでの鼠達の行動を把握したクノは鼠達の目的は「ナイ」の監視という結論に至った。
「この鼠達は明らかに誰かの指示を受けて行動していたでござる。その証拠にこの鼠達にも……」
「あ、その紋様!?」
「鞭の紋様……という事はやっぱり、例の魔物使いの仕業なの?」
「間違いないでござる」
二人が仕留めた鼠を確認すると、どちらの鼠にも紋様が刻まれていた。この事から鼠達の正体は魔物使いの放った魔獣である事が確定し、同時にナイが監視されていた事が判明する。
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