異伝 《強襲》
――討伐隊がグマグ火山に出向いてから三日目の朝は快晴だった。ずっと降り続けていた雨も止み、これならば今日は討伐に出向く事ができる。
「いや〜晴れたな。昨日は凄い土砂降りだったのに」
「ああ、でもこれで今日は出発する事になるな。あ〜あ、もう少し降っていれば今日も休めたかもしれないのに」
「おい、たるみ過ぎだよあんたら」
「「うわっ!?テン団長!?」」
甲板の見張り役を行っていた騎士達が雑談しているとテンが割込み、彼女が現れると騎士達は慌てて背筋を正す。そんな彼等にテンは不機嫌そうな表情を浮かべ、黙って船首の方へ移動する。
何故かテンは昨日から嫌な予感が止まらず、妙に落ち着かない気分だった。ゆっくり身体を休ませなければいけないのに落ち着かず、彼女はぼんやりと外の様子を眺めた。
(いったい何だってんだい……たるんでるのはあたしの方か?)
この時点のテンは知らない事だが彼女が長年共に戦ってきたレイラは既に死んでおり、その殺した相手は彼女がかつて捕まえたバートンの実の娘だった。皮肉にもその娘は自分を救った恩人の友人を殺した事になる。
気分が落ち着かないテンは呑気な事を呟く騎士達を鍛えようかと思ったが、今日は雨が晴れた以上は討伐隊は再びグマグ火山に出向かねばならない。そのために無駄な体力を消耗させるわけにはいかず、彼女は仕方なく我慢する事にした。
(ちっ、何だか分からないけどイライラするね……ん?)
テンは飛行船の下の方を見てみると、何かが動いたように見えた。最初は気のせいかと思ったが、確かに地上の方で何かが動いているのを確認し、即座に彼女は甲板の騎士達に注意する。
「おい、地上に何か居るよ!!警戒態勢!!」
「えっ!?」
「ど、何処ですか!?」
「ほら、あそこだよ!!」
騎士達はテンの言葉を聞いて慌てて地上の様子を伺うと、この時に雨のせいでぬかるんだ地中から思いもよらぬ存在が出現した。
――ゴアアアアアッ!!
飛行船の周囲にこの場所で聞くのは有り得ないはずの鳴き声が響き渡り、飛行船を取り囲むように地中から現れたのはマグマゴーレムの大群だった。
数は100体以上は存在し、一昨日の襲撃の時よりも数が多い。どうやら雨が降っていた時から地中を掘り進んで飛行船に接近したらしく、雨が完全に止んだ時点で姿を現したらしい。
「なっ……どうしてこいつらがここに!?」
「か、囲まれました!?」
「こ、こちらに近付いてきます!!」
『ゴオオオオッ……!!』
マグマゴーレムの大群は飛行船に目掛けて接近し、その光景を確認してテンは顔色を青ざめる。飛行船にマグマゴーレムを近づけさせるわけにはいかず、彼女は退魔刀を手にして船内の仲間達が出てくるまで自分が時間を稼ぐしかないと思った。
「くそっ!!すぐにハマーン技師に離陸の準備をするように伝えな!!あたしはこいつらを足止めする!!」
「無茶です!!地上は昨日の雨のせいで足場が不安定です!!いくらテン団長でも……」
「ならどうすりゃいいんだい!?こうしてくっちゃべってる間も近付いてるんだよ!!」
地上に飛び降りようとするテンを他の騎士達が必死に引き留め、ここで彼女だけを戦わせるなど自殺行為だった。しかし、テンの言う通りに話し込んでいる間もマグマゴーレムの大群が接近し、一刻の猶予もない。
(くそっ!!こいつらなんであたし達の居場所が分かったんだい!?)
飛行船が着陸した場所はグマグ火山から数キロは離れており、本来であれば火山地帯から遠く離れる事はないマグマゴーレムが飛行船に押し寄せるはずがなかった。
討伐隊の後をマグマゴーレムが追いかけてきたという事もあり得ず、雨が降り注いだ時にマグマゴーレムは姿を隠した。元々この場所に大量のマグマゴーレムが潜んでいた可能性もありえず、仮にマグマゴーレムが潜んでいたのならば一昨日に飛行船が着陸した時点で襲い掛かっているはずである。
(待てよ、そういえばこいつらの好物は火属性の魔石だったはずだね。そしてこの船には大量の火属性の魔石が詰め込まれている……それを感じ取って来たのかい!?)
飛行船を動かすためには大量の火属性の魔石を使用するため、常に飛行船の中には相当数の火属性の魔石が保管されている。今回の討伐隊の目的はグマグ火山に大量発生したマグマゴーレムを討伐し、火山で採掘できる火属性の魔石を独占する事だったが、まさかマグマゴーレムの方から火属性の魔石を狙って現れるなど夢にも思わなかった。
――この時のテンの予想はだいたい合っているが、マグマゴーレムの狙いは火属性の魔石だけではなく、飛行船の心臓部である「火竜の経験石」も狙いだった。火竜の経験石は火属性の魔石とは比べ物にならない魔力を蓄積できるため、それに反応してマグマゴーレムの大群が火山から地中を潜って飛行船に辿り着いた事は誰も気づかない。
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