異伝 《双剣士の遺言》
「――レイ……目を……して……レイラ!!」
「うっ……」
聞き覚えのある声を耳にしたレイラは目を開くと、そこには顔面蒼白となったアリシアの顔が映し出された。彼女は自分の身体を抱きかかえている事を知り、意識を取り戻す。
「アリ、シア……」
「レイラ……しっかりしなさい!!すぐに治療を……」
「そうか……私は、もう……」
目を覚ましたレイラは右腕に違和感を覚え、ゆっくりと視線を向けると右腕から先が無くなっていた。正確に言えば右腕だけではなく、右半身の殆どが《抉れていた》。
この時点でレイラは自分が助からぬ事を悟り、こんな状態で意識だけが戻ったのは奇跡に近い。しかし、その奇跡も長続きはせず、いずれ死を迎える事を悟ったレイラはアリシアに微笑む。
「アリシア……すまない、しくじった」
「何を言ってるんですか!!諦めないで、すぐに人が来ます!!」
「馬鹿を言え……こんな状態じゃ、助からない」
仮にこの場に薬師や治癒魔導士が存在した所で身体の半分を失ったレイラを助ける事はできず、それこそ伝説の秘薬「精霊薬」でもない限りはどうしようもない。今更どんな治療を施した所でレイラの身体は助からず、それは本人もアリシアも理解していた。
それでもアリシアは諦めきれず、どうにか彼女を救う手段を考えた。しかし、レイラはもう死を受け入れており、彼女は死ぬ前にアリシアに頼む。
「アリシア……頼みがある」
「レイラ、もう喋らないで!!」
「いいから聞け……あの女だけは生かしたら駄目だ。必ず、この国の災いになる……どんな手を使っても殺すんだ」
「分かりましたから……お願いだからもう……」
レイラの身体をアリシアは抱きしめ、そんな彼女にレイラは笑みを浮かべて残された左腕で彼女を抱きしめる。もうレイラの身体は冷たく、あと十数秒もしないうちに彼女は死を迎える。
「テンには先に死んだ事を謝っておいてくれ……ルナの奴も食べ物の好き嫌いしないように言っておけよ……エリナには立派な騎士になるように伝えてくれ」
「レイラ……レイラ!!」
「……あの坊主には後の事は任せる、そう伝えておいてくれ……」
アリシアはレイラに必死に呼びかけるが、もう彼女は耳も聞こえていない様子だった。レイラはこれまでに思い入れがある人物の遺言を託すと、最後に彼女はレイラにある事を告げた。
「――――」
「えっ!?」
最期のレイラの言葉にアリシアは愕然とした表情を浮かべ、そんな彼女にレイラは微笑み、やがて瞼を閉じて動かなくなった――
――聖女騎士団の誇り高き双剣士「レイラ」は死んだ事は即座に王都中に広まり、その報告を受けた聖女騎士団は激高し、彼女を知る者達は涙を流す。それと同時にゴノを襲撃した魔物使いが既に王都に侵入している事が判明した。
国王は王都内の兵士を総動員させてアンの行方を捜索させ、もしも見つけた場合は捕まえずに始末するように厳命する。レイラは聖女騎士団の中でも古参で王妃からも気に入られていた。
彼女を遺言を耳にしたアリシアは必ずや全員に伝える事を約束し、エリナはレイラが死んだ事を知って泣けくれた。しかし、何時までも泣いていてもレイラは報われず、必ずやレイラの仇を討つためにアンの捜索に参加する。こうして王都は火竜が目覚めた時と同じぐらいに警戒度を高めた――
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