異伝 《最強のゴーレム》

(あのドゴンが吹き飛ばされた……伝説の魔法金属で構成されたあのドゴンが……!?)



アルトはドゴンこそがこの世界で最強のゴーレムだと信じていた。しかし、そのドゴンを吹き飛ばしたブラックゴーレムを見て自分の考えが間違っていたと嫌でも認識させられる。


ブラックゴーレムの戦闘力はこれまでにアルトが遭遇したゴーレムとは比べ物にならず、その戦闘力は最早「ゴーレムキング」にも匹敵する。もしかしたらそれ以上の力を持つ存在かもしれない。


竜種と同様に災害級として認識されているゴーレムキングだが、それを上回る力を持つかもしれないブラックゴーレムを前にして誰もが愕然とした。これほどの力を持つ相手にレイラもエリナもガロもゴンザレスさえも何も行動できない。



(動け、動くんだ……殺されるぞ!!)



アルトは必死に身体を動かそうとするが、本能がブラックゴーレムに勝てないと告げていた。そのせいで身体がまるで肉食獣を前にした小動物のように怯えて動かず、その間にもブラックゴーレムはアルト達に振り返る。



「ウオオオオッ!!」

「「ひぃっ!?」」

「く、くそがっ……!!」

「ぐうっ……!!」

「王子、下がって下さい!!」



ブラックゴーレムが咆哮を放つとヒナとクロエは悲鳴を上げ、ガロとゴンザレスは負傷した身でありながら無理やり起き上がろうとした。レイラは階段を降りてアルトの元に向かうが、既にブラックゴーレムは次の攻撃準備に入っていた。


白猫亭に向けてブラックゴーレムは口元を開き、先ほどのように熱線を放つつもりなのか口内から赤色の光を放つ。それを見たアルトはもう駄目かと思ったが、この時に彼は自分が普段から身に付けている「護身用」の魔道具を思い出す。



(そうだ……まだ、これがあった!!)



諦めるには早いと思い直したアルトは腰に差している筒状の魔道具を取り出す。この魔道具はアルトが作り出した物であり、筒の蓋を開いた瞬間に闇属性の魔力で構成された黒霧が放たれる。



「喰らえっ!!」

「アガァッ!?」



アルトはブラックゴーレムに向けて黒霧を放ち、本来は煙幕代わりに利用して逃げ出すための魔道具だった。しかし、煙幕を受けた瞬間にブラックゴーレムは何故か苦しみはじめ、必死に煙幕を振り払おうとした。



「ウオオオッ!?」

「な、何だ!?」

「効いてるのか!?」

「嫌がっているように見えますが……」



黒霧を浴びたブラックゴーレムは混乱している様子を見てアルト達は戸惑い、やがて黒霧から逃れるためにブラックゴーレムは地面に向けて拳を振り下ろす。



「ウオオッ!!」

「あっ!?」

「に、逃げるぞ!!」

「いや、いい……行かせるんだ」



地中を掘り進めて逃げようとするブラックゴーレムを見てガロ達は動こうとしたが、それを制したのはアルトだった。仮にここでブラックゴーレムが逃げるのを止めたところでアルト達にはブラックゴーレムを倒す手段がない。


予想外にもアルトの魔道具のお陰でブラックゴーレムは地中に退散し、全員が生き延びる事ができた。皆が安堵する中、アリシアは思い出したようにアンを追ったレイラを追いかける。



「しまった……王子、間もなくここに聖女騎士団が到着するはずです!!それまではここで待機して下さい!!」

「ああ、分かった……」

「エリナ、しっかりと王子と皆さんをお守りするんですよ!!」

「うぃっす!!」



アリシアはエリナにこの場を任せて駆け出し、逃走したアンとそれを追うレイラを探す――






――同時刻、レイラはアンを追いかけて路地裏に辿り着いた。アンは疲れた表情で建物の行き止まりに追い詰められ、双剣を構えたレイラが逃げ道を塞ぐように立っていた。



「もう逃がさない……お前は危険だ、ここで殺す」

「はあっ、はあっ……」

「僕を呼んでも無駄だ。この距離なら私の剣がお前の首を斬る」



路地裏にアンが逃げ込んだ時点でレイラは何かしらの罠を仕掛けていると判断し、彼女がガロとゴンザレスを襲った鼠型の魔獣をけしかけるつもりかと思った。しかし、予想に反して路地裏には何も存在せず、アンが何か仕掛ける様子もない。


目の前のアンを見てレイラは彼女をここで殺すと決め、仮にアルトがここにいれば彼女を捕まえるように告げたかもしれない。しかし、長年の戦士の勘でアンをここで殺さなければ後悔すると告げていた。



(この女は危険過ぎる、生かしておくわけにはいかない)



レイラは双剣を構えるとアンに目掛けて攻撃を仕掛けようとした。しかし、そんな彼女の考えを読み取ったようにアンは笑みを浮かべる。



「残念ね……時間切れよ」

「何を言って……なっ!?」

「さよなら」



アンはレイラの後方に向けて視線を向け、その彼女の態度と言葉に自分の後方に何か居ると知ったレイラは振り帰り、信じられない光景を目の当たりにした――

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