異伝 《正体》
(何だ、こいつらは……鼠じゃない!?)
獣人族の野生の本能でガロは路地裏に集まった鼠達の正体がただの動物ではなく、魔獣の類だと一瞬で見抜く。ゴンザレスの方も自分達を取り囲むように現れた鼠の大群に動揺を隠せず、その一方で女性は笑みを浮かべた。
「……助けてくれようとしたのはありがたいんだけど、貴方達のせいで作戦が台無しだわ」
「何だと……」
「何を言っている?」
「あの二人はね、私が誘き寄せようとした餌よ」
初めて女性が口を開いた事にガロとゴンザレスは驚き、しかも女性に絡んでいた二人組の男が彼女が誘き寄せたという言葉に動揺を隠せない。
女性の周りにだけは鼠型の魔獣は集まらず、その代わりに彼女は腕を伸ばすと先ほどガロが殺した鼠と同じ種の鼠が現れた。それを見たガロは嫌な予感を浮かべ、女性の正体を問い質す。
「てめえっ……何者だ!?」
「今から死ぬ貴方達に応える必要はないわ」
「何だと!?」
「ガロ、動くな!!」
ガロが女性の言葉を聞いて双剣に手を伸ばすと、ゴンザレスが注意を行う。ガロは足元に視線を向けると、既に鼠型の魔獣は迫っていた。この時にガロは路地裏に集まった魔獣の正体が「
(こいつら灰鼠なのか……いや、だがどうしてこんな所に?)
灰鼠は基本的に下水道などの場所に生息する種であり、滅多に地上に姿を出る事はない。灰鼠は普通の鼠よりは好戦的だが、それでも人間のような自分達よりも大きな存在に襲い掛かる事は滅多にない。
この場に集まった灰鼠の数は数百匹を数え、これだけの魔獣が一度に現れたのは偶然ではない。ガロは即座に女性の正体が「魔物使い」だと知り、そして魔物使いに関する事件も彼はマホから聞いていた。
(老師がゴノの街で魔物使いが操る魔物が街を襲ったとか言っていたが……まさか、こいつか!?いや、だけど有り得るのかそんな事……)
ゴノの街を襲撃した犯人が既に王都に居たのかとガロは考えたが、彼女がゴノを襲撃した犯人と同一犯という証拠はない。もしかしたら何も関係ない別の犯罪者という可能性もあるが、この時にガロは先ほど倒した白色の鼠を思い出す。
(そういえばさっき倒した鼠……身体に紋様みたいなのが刻まれていたな。あれは確か……鞭か!?)
ガロの優れた動体視力は男達に襲い掛かった鼠に刻まれていた紋様を捉え、マホからゴノを襲った犯人は「鞭の紋様」を魔物に刻んでいたという話を思い出す。そして先ほど倒した鼠も同じ紋様が刻まれていた事から、ガロはゴノの襲撃をした黒幕と遭遇した事を知る。
「まさかお前……ゴノを襲った魔物使いか!?」
「っ!?」
「何だと!?じゃあ、こいつがマホ魔導士の言っていた……」
ガロの言葉に女性は初めて動揺した様子を浮かべ、ゴンザレスもガロの言葉を聞いて驚いた表情を浮かべる。しかし、この二人の反応はまずかった。
女性――アンはガロとゴンザレスをお人好しの冒険者だとしか認識していなかったが、自分がゴノを襲撃した魔物使いである事を見抜き、更に魔導士のマホの名前を出した事を知って彼女は二人が王国関係者だと気付く。そしてこの二人を何としても絶対に生かして帰すわけにはいかなかった。
「どうやらただの冒険者じゃないみたいね……わるいけど、ここで死んでもらうわ」
「何だと……ふざけた事を言いやがって!!」
「もう逃がさんぞ!!」
ガロとゴンザレスはアンが魔物使いだと知ると怒気を滲ませ、彼女のせいで多くの人間が傷ついた。そして二人が敬愛する老師がマホの放った魔物のせいで危うく大変な目に遭った事は知っており、二人とも彼女を逃がすつもりはなかった。
灰鼠に囲まれているとはいえ、ガロとゴンザレスもアンを捕まえられる距離に存在する。ここで彼女を何としても捕まえるため、ガロは双剣を抜く。
「ここでてめえはお終いだ!!」
「やってみなさい……お前達!!」
『キィイイイッ!!』
数百匹の灰鼠が目元を怪しく光り輝かせてガロとゴンザレスに同時に飛び掛かり、二人は武器を構えて灰鼠達の相手をした――
――それから数分後、裏路地は大量の灰鼠の死体によって血塗れとなり、残っていたのはほぼ全身に噛み傷を負ったガロとゴンザレスだけだった。アンは既に逃走し、二人は後を追いかける事もできず、どうにか裏路地を抜け出す。
「はあっ、はあっ……くそがっ……」
「くっ……ガロ、大丈夫か?」
「お前の方こそ……くっ、頭が……」
二人とも血を流しすぎたせいで上手く身体に力が入らず、それでもここで倒れるわけには行かなかった。二人は裏路地を抜け出すと、偶然にも白猫亭の看板を発見した。
「ここは……そうだ、確かあいつが暮らしている宿屋だな」
「うっ……」
「おい、ゴンザレス!!しっかりしろ……くそっ!!」
ガロは最後の力を振り絞り、白猫亭の扉を叩く。そして彼等に気付いたエリナが合われてヒナとクロエに報告し、現在にまで至る――
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