異伝 《怪しい女性》

「そうだ、聖女騎士団の先輩の中に回復魔法を使える人がいますから、その人を呼んできますね!!」

「待て!!迂闊に外に出るな……襲われるぞ!!」

「えっ!?」

「ガロ、さんでしたよね?それってどういう意味ですか?」



エリナが聖女騎士団の屯所に向かおうとすると、それをガロが必死に引き留める。彼の言葉と反応にヒナは尋ねると、ガロは顔色を青くしながらも自分達の身に何が起きたのかを語った――






――時は1時間ほど前まで遡り、ガロとゴンザレスは夜中に見回りを行っていた。二人が最近起きた謎の失踪事件を調べ、事件の犯行が夜中に行われている事を突き止めて彼等は夜の街を歩き回る。


これまでの事件は一般区と商業区で行われている事を突き止め、二人はこの二つの区画を歩き回って調査を行う。そして今日、遂に怪しげな行動を取る人物を発見した。



「おい、ガロ……あれを見ろ」

「どうした?」

「女の人が絡まれているぞ」



ゴンザレスの言葉にガロは視線を向けると、そこにはマントで身体を覆い隠す女性に群がる二人の男が存在した。質の悪いチンピラらしく、女性に絡んできているらしい。



「なあ、姉ちゃんよ。こんな場所で一人で歩いているという事は娼婦か何かだろ?俺達の相手をしてくれよ」

「へへへっ……金は払うぜ?一人銅貨1枚でどうだ」

「…………」



女性は男達の言葉を聞いても表情すら変えず、黙ってそのまま立ち去ろうとした。その態度の二人の男は苛立ちを抱き、彼女の肩を掴む。



「おい、無視してんじゃねえよ!!」

「少しばかり顔が良いからって調子乗ってんじゃねえぞっ!!」

「…………」

「ちっ……おい、何してやがる!!」



男達に女性が肩を掴まれたのを見てガロは面倒に思いながらも助けようと声をかけた。この時に男達はガロとゴンザレスに気が付き、彼等は二人を見て顔色を青ざめる。



「げっ!?冒険者か!?」

「うわ、巨人族!?おい、逃げるぞ!!」

「待ちやがれっ!!」



ガロが身に付けている冒険者バッジとゴンザレスの巨体を見て男達は相手が悪いと判断したのか、急いで逃げ出そうとした。それを見たガロは追いかけようとした時、女性が腕を伸ばして制止した。


どうして止めるのかとガロは驚いたが、女性がした行動はガロを止めるためではなく、彼女の伸ばした腕から白色の鼠が飛び出した。その鼠は凄まじい速さで駆けつけ、背後から男達を襲い掛かる。



「キィイッ!!」

「えっ……ぎゃああっ!?」

「うわっ!?な、何だ!?」

「ガロ!!あれを見ろ!!」

「くそっ!?何が起きてやがる!?」



女性の服から出てきた白色の鼠は男の一人に襲い掛かり、頸動脈を噛み切る。男は首筋から凄まじい勢いで血を噴き出し、それを見たもう一人の男は恐怖の表情を浮かべて逃げ出す。



「ひ、ひいいいっ!?」

「キィイッ!!」

「止めろっ!!」



もう一人の男に目掛けて鼠が追いかけ、それを見たガロは止めようと双剣に手を伸ばす。この時に彼は女性の横を通り抜けると、女性は一瞬だけガロを見て冒険者バッジを身に付けている事を知る。


ガロは男に飛び掛かろうとする鼠に対して双剣を振りかざし、男に襲い掛かろうとした瞬間を狙って剣を振り下ろす。



「キィイッ!!」

「させるかっ!!」

「うひぃっ!?」



鼠が飛びついた瞬間、ガロは双剣を振り下ろして鼠を切り裂く。悲鳴を上げる暇もなく切り裂かれた鼠の死骸が地面に落ちると、ガロのお陰で命が助かった男だが彼は涙目で悲鳴を上げながら逃げ出す。



「ひぃいいいいっ!?」

「ちっ……おい、てめえ!!」

「ガロ!!もう逃げたぞ!!」

「何だと!?」



ガロは女性に怒鳴りつけようとしたが、ゴンザレスは既に女性が逃げ出した事を伝える。慌ててガロは振り返ると、そこには裏路地に駆け出す女性の姿が見えた。


双剣を鞘に戻したガロはゴンザレスと共に追いかけ、この時に彼は逃げる女性を見て捕まえられると確信した。見た所、相手は人間で足も中々に早いが、獣人族である自分には及ばないと判断し、ゴンザレスに指示を出す。



「ゴンザレス!!挟み撃ちだ!!」

「おうっ!!」



ガロは足に力を加えると速度を上昇させて女性に追いつき、彼は勢いよく跳躍して女性を飛び越えて道を塞ぐ。後方からはゴンザレスが追いかけ、二人は遂に女性の前後を塞ぐ。



「こんな所に逃げたのが仇になったな……お前を拘束する!!抵抗するようなら容赦しないぞ!!」

「…………」

「はあっ、はあっ……追いついたぞ」



ガロの言葉を聞いても女性は何も言い返さず、その間にゴンザレスが額に汗を流しながら女性の背後に立つ。彼は女性を捕まえようと手を伸ばした時、不意に異様な気配を感じ取った。


女性を追い詰めたつもりのガロとゴンザレスだったが、裏路地に入った瞬間に視線を感じ取り、すぐに視線の正体が判明する。二人が立っている通路には何時の間にか無数の鼠が集まっており、目元を赤く光り輝かせながら二人を睨みつけていた。

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