異伝 《船内の作戦会議》

――ロランの号令の元、負傷者を除く騎士と冒険者が甲板に集まり、彼から今日一日は休息日として各自身体を休めるように伝えられる。その後、各騎士団の騎士団長と副団長と魔導士は呼び出され、会議室で話し合いが行われた。



「昨日の段階で我々は170体のマグマゴーレムの討伐に成功した。初日しては十分な成果だが、敵の数が未知数である以上は素直に喜べん」

「こうしてみると凄いですね、マグマゴーレムは普通だったら金級冒険者でも手こずる相手なのに……」

「慣れてしまえばどうという事はない。奴等の溶岩の肉体は厄介だが、動作自体は単調で読みやすいからな」



初日で討伐隊はマグマゴーレムとの戦闘を経験し、敵がどのように立ち回るのか知れた事は大きな収穫だった。最初のうちは苦戦していた者もマグマゴーレムとの戦闘を経験した事で立ちまわり方を覚えた。次の行軍の時は前回の時よりも上手く戦う事ができるだろう。


問題があるとすれば戦力面の不安があり、昨日の戦闘では思いもよらぬ奇襲を受けて負傷者を大勢出してしまった(それでも170体のマグマゴーレムの討伐を成功させたのは素晴らしい成果だが)。



「昨日の作戦の失敗は我々が団体行動を取っていたからだ。部隊分けをしたといっても、我々は一定の距離間隔を開いているだけで同じ道を辿って行動していた」

「確かに大人数で行動して相手に気付かれたとしか思えないな」

「そこでこれからは我々は本格的に部隊を分け、別々の方角から山頂へ目指す方針に切り替える。部隊の編制は3つ、我が猛虎騎士団、銀狼騎士団、黒狼騎士団の三部隊だ」

「ちょっと待ちな!!なんで聖女騎士団と白狼騎士団が省かれてるんだい!?」

「話は最後まで聞け……聖女騎士団の団員は各騎士団の援護役として参加してもらう。それと一番人数が少ない白狼騎士団はこの船の守護を任せるぞ。他にも各騎士団が人員を割いて飛行船の警護に当たって貰う」

「まあ、私とミイナだけですからね……」

「寂しい」



白狼騎士団は少数精鋭でヒイロとミイナしかおらず、一応はナイも表向きは白狼騎士団に所属しているが、それでも3人しかいない。もっと人数を増やすべきなのだが、生憎と他の騎士団と比べて知名度がないせいで入団希望者も少ない。


貧弱の英雄の名声を考えればナイが所属する白狼騎士団に入りたいと思う人間も多いかもしれないが、今現在は王国騎士の制度が代わり、現在は昔よりも騎士に入れる条件が厳しくなった。それが原因で白狼騎士団は人材不足であり、アルトの悩みの種だった。



「テン、お前は俺の部隊に入って貰う。ルナ、今日はお前も付いてこい。雨のお陰で大分熱気も収まっただろう」

「よし!!あたしも暴れるぞ!!」

「シノビ、クノ……お前達は例の鼠の魔獣が飛行船にいないのか調べてもらう。リノ王女も念のために飛行船に残って下さい」

「仕方ありませんね……」

「「承知した(でござる)!!」」



飛行船の守護は引き続き同じ人間が任され、クノは今回は飛行船に残る事が決まり、その代わりに昨日残っていたフィルは討伐隊に同行する事になった。



「フィル、お前は黒狼騎士団に配属してもらう」

「えっ!?僕がですか?」

「おいおい、俺はまた留守番か!?」

「案ずるな、お前にも出番は与える。だが、件の魔獣も気になる。ガオウ、お前が船内に隠れていた魔獣を見つけだそうだな?お前以外に適任はいない、この船を守れるのはお前だけだ」

「へっ、へへっ……大将軍にそこまで言われたら仕方ないな」

『……ちょろい(ぼそっ)』



ガオウは自分が留守番する事に不満を抱くが、ロランに頼まれては断り切れず、大将軍である彼に事から自分の実力を高く評価されていると思った。そんな彼にマリンが呆れるが、彼女にもロランは告げる。



「作戦の決行は明日だが、もしもゴウカがそれまでに回復しなければマリンは銀狼騎士団に入って貰う。昨日はゴウカに守られていたようだが、もしもゴウカが不在の時は他の者に守ってもらう」

『……別にゴウカが居なくても私一人で十分』

「よく言うぜ、昨日から元気ないじゃないか?パパがいないと寂しいでちゅか〜?」

『殺すぞ!!』



マリンはガオウのからかいの言葉に本気の殺気を放ち、杖を取り出すが慌ててフィルが間に割って入って止めた。



「や、止めて下さい!!恥ずかしい、それでも二人とも黄金級冒険者ですか!?リーナさんを見習って……あれ、リーナさんは?」

「リーナさんは看病中ですよ。愛しのナイ君が心配で離れたくないそうです」

「い、愛しの……」

「おい、しっかりしろ!!」

『どうした急に……?』



リーナがナイの看病のために大切な会議に参加せずに残した事を知り、フィルは愕然とした。彼はナイの事は尊敬しているが、同時にリーナの事は異性として意識しており、二人が深い仲だと知らされて衝撃を隠せない。


そんな黄金級冒険者達の姿にロランは心の中で「こいつらは大丈夫なのか?」と思いながらも作戦変更を伝え、今日の所は解散した。

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