異伝 《船内の探索》
「――おい、何か見つけたか?」
「いや……」
「油断はするな、ここにいるはずだ」
船内の倉庫にてガオウ、フィル、シノビの3名は荷物を漁っていた。傍から見れば泥棒にも見えかねないが、彼等の目的は倉庫内の荷物ではなく、この場所に隠れているはずの「敵」を探し出す事だった。
討伐部隊がグマグ火山に出発した後、シノビは不穏な気配を感じてガオウ達と共に探索を行う。事前に飛行船には王国関係者以外の人間は乗り込んでいない事は調査済みだが、飛行船が移動中の時にシノビとガオウは怪しい気配を感じた。
「他の場所は探しつくした、隠れているとしたらここしか有り得ん」
「ガオウ、お前の鼻で分からないのか?」
「てめえ、俺の事を犬か何かだと思っていんじゃねえよ……んっ!?」
荷物を漁っているとガオウは何かに勘付いたように鼻を引くつかせ、彼は口元に指を押し当てて二人に黙るように促す。そして彼は部屋の隅に置かれている木箱を指差し、それを見たシノビとフィルは武器を構える。
「……ここだっ!!」
「キィイッ!?」
ガオウが木箱を蹴り飛ばすと、中から穀物と共に隠れていた白色の鼠が飛び出し、それを見たシノビはクナイを取り出す。彼は逃げ出そうとする魔獣に目掛けてクナイを構えるが、この時にフィルが鎖の魔剣を放つ。
「はあっ!!」
「ギィアッ!?」
「待てっ!?」
フィルは反射的に鎖の魔剣を放つと、魔獣の背中に突き刺す。それを見たシノビは彼を止めようとしたが既に時は遅く、魔剣に突き刺さった魔獣は絶命した。それを見たガオウはため息を吐き出し、フィルに怒鳴りつけた。
「この馬鹿!!殺してどうするんだ!?捕まえてこいつを操っている奴を探し出せないだろうが!!」
「あっ……し、しまった!?」
「……完全に死んでいるな」
ガオウの言葉にフィルは焦るが、残念ながら鎖の魔剣が突き刺さった鼠型の魔獣は絶命し、せめて死体を調べるために魔剣を引き抜く。
魔獣の死骸はシノビが調べている間、ガオウは魔獣が隠れていた木箱を調べる。中には大量の穀物が入っているが、その中に鼠が嚙り付いた後があり、もしも知らずにこの穀物を利用した料理を食べていれば何かしらの病気になっていたかもしれない。
「うへぇっ……こいつは食べられそうにないな。勿体ねえが捨てるしかない」
「す、すいません……シノビさん」
「いや……死骸でも回収できただけ十分だ」
シノビは魔獣の死骸を二人に差し出すと、彼等は鼠の毛皮を捲ると「紋様」が刻まれている事を知る。しかも紋様の形は以前にも見た事があり、ゴノの街を襲撃したトロールやロックゴーレムにも刻まれていた「鞭の紋様」だと判明する。
「こ、この紋様は!?」
「やっぱり、例の魔物使いの仕業か!!」
「そうとしか考えられん。しかし、この船に乗り込ませているとは……奴は王都に居たというのか?それともゴノの街に下りた時に忍び込ませていたのか……」
ゴノの街を魔物に襲わせた魔物使いが鼠を飛行船に送り込んだ事が発覚し、例の薬箱の中に隠れていた鼠も同様に魔物使いが操っていたとしか考えられず、既に敵は討伐隊に攻撃を仕掛けていた。
魔物使いの目的は不明だが、鼠型の魔獣を利用して薬を破壊したり、食料を汚している当たりから質が悪い。まだ船内に魔物使いが使役する魔獣が潜んでいるかもしれず、隈なく船内を探索して魔獣を探し出す必要があった。
「もう一度探索を行うぞ。それと医療室の薬の在庫と食糧庫も点検しておけ」
「薬も食料もやられたらやばいからな……」
「急ぎましょう!!」
シノビの言葉にガオウとフィルも賛同し、彼等は魔獣の捜索も行いながら他の者に報告するために倉庫を出た――
――同時刻、甲板では見張りの騎士が外の様子を伺っていた。雨が降り注いでる間はマグマゴーレムが現れる事はないのは分かっているが、他の魔物が襲い掛かってくる可能性もある。
尤もグマグ火山の周辺にはマグマゴーレムの脅威と火山の熱気のせいで他の魔物どころか生き物自体が住みにくい環境と化しており、飛行船が襲われる可能性は皆無に等しい。それでも見張りを立てるのはロランの指示だった。
「おい、何か見えるか?」
「いいや……はっくしゅん!!くそっ、このままだと風邪を引くぞ……交代はまだか?」
「はははっ、頑張れ」
雨の中、甲板で見張りを行う騎士達は雨に打たれながらぼやいており、彼等は警戒心が緩んでいた。そのせいで飛行船の近くに動いてる小さな影を見落とし、その影は飛行船を観察するように岩陰に隠れる。
「キィイッ……!!」
既に船内から逃げ出した鼠型の魔獣が岩陰から飛行船を観察し、雨に打たれながらも一晩過ごす――
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