異伝 《罅割れ》
「があああああっ!!」
「ゴアアアアッ!?」
大型マグマゴーレムの腹部にナイは岩砕剣を突き刺し、力任せに押し込む。自分よりも倍近くの体格差と数トンはある体重差を物ともせずに押し込み、止めに旋斧を振りかざす。
岩砕剣を左手で掴んだ状態ナイは旋斧を右手で振りかざし、相手の胸元に目掛けて叩き込む。旋斧の刃が大型マグマゴーレムの肉体に食い込んだ瞬間、旋斧は魔力を吸収して赤色の刃と化した。
「あの剣の色は!?」
「前にも見た事があるでござる!!」
ナイの旋斧の刃が赤く変色する事は初めてではなく、火竜を倒した時も旋斧の刃は赤く染まった。調べた結果、火竜の膨大な火属性の魔力を吸い上げた事で旋斧の内部に魔力が蓄積し、その影響で刃は赤く変化した。
大型マグマゴーレムの魔力を吸い上げた事で旋斧は再び赤く染まり、それに気づかぬままにナイは二つの魔剣を掴む。その状態からナイは大型マグマゴーレムごと魔剣を持ち上げ、地面に叩き込む。
「だぁああああっ!!」
「ゴガァアアアアッ!?」
「馬鹿なっ!?」
「あ、あの巨体を持ち上げた!?」
『おお、派手だな!!』
突き刺した魔剣ごとナイは大型マグマゴーレムを持ち上げた事にロランもテンも驚き、ゴウカも少しだけ驚いた様子だった。そして地面に叩き付けられた大型マグマゴーレムは砕け散り、この際にナイは旋斧と岩砕剣を引き抜く。
「はあっ、はあっ……」
流石に限界を迎えたナイは膝を着いて全身から滝の様な汗を流し、もう体力も魔力も限界だった。それでも魔法腕輪に装着した煌魔石に手を伸ばし、どうにか魔力を回復させる。
(大丈夫だ、モモの煌魔石ならすぐに回復する……)
モモの煌魔石には通常の魔石よりも膨大な魔力が蓄積されており、それを吸収する事でナイは魔力を取り戻そうとした。魔力が戻れば自然と体力も回復し、再び戦う事ができる。
煌魔石を利用して魔力を回復させるとナイは「再生術」を発動させ、まずは傷ついた肉体を直す。今回は敵の攻撃を受ける事はなかったが、強化術の反動でナイの筋肉組織がボロボロであり、肉体の再生能力を強化して治療を行う。
(よし、これで動ける。まだ戦える……あれ?)
再生術を発動させたナイは肉体を完治させ、再び戦おうと足元に力を込める。だが、立ち上がろうとした瞬間に何故か糸が切れた人形のように身体が傾き、地面に倒れ込む。
(な、何でっ……!?)
ナイの肉体は完全に治ったはずだが言う事を聞かず、その原因は傷は治っても体力が戻っていなかった。魔力を吸収すれば同時に体力も回復するはずなのだが、何故か煌魔石から吸収した魔力は再生術を利用した際に切れてしまう。
「ど、どうして……」
「ナイ、早く立ちな!!新しいのが来てるよ!?」
「ナイ殿!!前を見て!!」
自分の身体が言う事を聞かない事にナイは戸惑い、そんな彼にテンとクノが大声で呼びかけた。二人の言葉を聞いてナイは顔を上げると、そこには別のマグマゴーレムが迫っていた。
「ゴオオッ!!」
「くっ……動けっ!?」
自分自身を叱咤してナイは地面に落ちていた旋斧に手を伸ばし、どうにか大剣を杖代わりにして立ち上がる。しかし、立つのが精いっぱいでとても戦える状態ではない。
どうしてナイはモモから受け取った煌魔石を使用しても完全に体力が戻らないのかと疑問を抱くと、ここで彼は煌魔石に僅かに罅が走っている事に気付く。
(何だ、この罅……!?)
煌魔石が罅割れている事にナイは気付き、すぐに彼は煌魔石の不調の原因を察した。煌魔石に僅かに罅割れがあったせいで内部に蓄積されている魔力が外部に放出し、そのせいでナイが完全に回復する程の魔力が残っていなかった。
(くそっ、何処かで傷つけたのか!?それとも貰った時から罅が……!?)
何時の間に煌魔石に罅が入っていたのかは分からないが、考えている間にもマグマゴーレムはナイに迫って拳を放つ。
「ゴォオオオオッ!!」
「くぅっ……舐めるな!!」
迫りくる溶岩の拳に対してナイは体勢を屈めると回避を行い、この時に彼は無意識に「迎撃」の技能を発動させ、がら空きとなった胴体に旋斧を叩き込む。
もうナイはマグマゴーレムを破壊する程の体力は残っていないが、それでも現在の旋斧には膨大な火属性の魔力が刃に蓄積しており、それを利用してナイは悪あがきを行う。
(殺されるぐらいなら……やるしかない!!)
ここでナイがマグマゴーレムから逃げたとしても、他の者が助けに来る前に捕まるのは目に見えていた。それならばナイは自力でマグマゴーレムを倒すため、旋斧が蓄積した火属性の魔力を解き放つ。
「やああああっ!!」
「ゴアアアッ!?」
「いかん、離れろぉおおおっ!?」
マグマゴーレムの体内に突き刺さった旋斧が光り輝き、その光を見たロランは大声を上げて全員に避難するように促す。その次の瞬間、旋斧から放たれた魔力のせいでマグマゴーレムは内部から崩壊し、爆発をした――
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