異伝 《絶体絶命》

「ゴオオオッ!!」

「ひいいっ!?」

「情けない声を上げるんじゃないよ!!それでも騎士かい!?」



倒れ込んだ騎士に襲い掛かろうとしたマグマゴーレムにテンは駆けつけ、彼女は退魔刀を突き刺してマグマゴーレムを押し込む。マグマゴーレムは背後に存在した岩石に叩き付けられ、そのまま核ごと貫かれる。



「ゴアッ……!?」

「はあっ、はあっ……くそっ、ルナの奴を連れてくれば良かったね!!」

『ぬんっ!!』



テンがマグマゴーレムをどうにか倒すと、少し離れた場所ではゴウカがマグマゴーレムの集団に囲まれ、ドラゴンスレイヤーで薙ぎ倒す。彼だけは討伐隊の中で全く疲れを見せず、一人でも十分に対応できていた。


他の者たちの中でまともに戦えるのは半分も満たず、殆どの者が先ほどのマグマゴーレムの攻撃で体力を使い果たしていた。気が緩んでいた時に攻撃された事もあって精神的動揺も大きく、もう心が折れかけている者も居た。



「も、もう駄目だ……」

「くそっ……」

「何が駄目だ!!立て、立って戦え!!貴様等はそれでも誇り高き王国騎士か!?」

「ロ、ロラン大将軍……!?」



ロランは自ら前に出ると勇猛果敢にマグマゴーレムの集団に突っ込み、双紅刃を振りかざして敵を打ち倒す。彼は戦いながらも騎士達に声をかけ、この絶望的な状況を覆そうとする。



「生き残りたければ戦え!!最後まで諦めるな!!例え、死ぬとしても騎士としての誇りを最後まで貫け!!」

「う、うおおおおっ!!」

「このぉっ!!」

「ロラン大将軍に続け!!」



ロランの言葉に鼓舞された騎士達は起き上がり、諦めずにマグマゴーレムへ挑む。彼のお陰で士気は上がったが、それでも体力の限界を迎えている事には間違いなく、動きが鈍い。



(くっ……何か、何か手はないのか!?)



ナイはリーナの身体を支えながら周囲の様子を伺い、この状況を打破する方法を探す。しかし、良案は全く思い浮かばず、考えている間にも彼の元にマグマゴーレムが迫る。



「ゴオオッ!!」

「ゴアッ!!」

「くそっ!!」

「ナ、ナイ君……逃げて」



リーナを肩に抱えながらナイは旋斧を振り回し、マグマゴーレムが近付けないように牽制を行う。そんな彼に対してリーナは意識を失いかけながらも逃げるように訴えるが、彼女を置いて逃げる事などナイにはできない。


先ほどの防御でリーナは魔力を使いすぎてしまい、このままでは彼女は死んでしまう。一刻も早く薬を飲ませる必要があるが、それをしようにもマグマゴーレムが邪魔で彼女を治療できなかった。



(こいつら邪魔だ!!でも、離れたら他の人の所に……)



人を抱えた状態では流石のナイも本気で戦う事はできず、近づいてくるマグマゴーレムを旋斧で追っ払いながら場所を移動するが、打開策は思いつかない。


本気で逃げれば振り切る事もできるかもしれないが、その場合は彼を追っているマグマゴーレムが他の動けない人間を襲う。正に八方塞がりの状態だった。



(どうすればいい!?どうすれば……)



雨でも降ればマグマゴーレムも引き返すかもしれれないが、生憎と空は雲一つない青空が広がり、自然の恵みに期待できない。マホやマリンが魔法で何とかできないのかとナイは顔を向けるが、二人の元にもマグマゴーレムが迫って他の者の援護する余裕はなかった。



「ゴオオッ!!」

「老師、こっちです!!」

「くっ……」

『ち、近づくな!!』



マホとマリンはエルマに手を握りしめられた状態で逃げ出し、二人は魔法を発動させる余裕もなかった。そもそも乱戦状態では魔法で敵だけを狙い撃つ事も難しく、下手に魔法を使えば他の者を巻き込みかねない。



「斬!!」

「爆槍!!」

『ゴアアッ!?』



ドリスとリンは背中を合わせて迫りくるマグマゴーレムの対処を行い、二人は汗を流しながらも戦っていた。全員を見渡したナイは他の人間も自分達を助ける余裕がなく、このままでは全滅するのも時間の問題だと悟る。


どうにかリーナを安全な場所に避難させればナイも全力で戦えるのだが、こんな事ならば飛行船からもっと味方を連れてくるか、あるいはビャクを連れ込めば良かったと後悔する。しかし、後悔した所で状況は変わらず、手持ちの装備でナイはこの状況を切り抜ける方法を考えた。



(諦めるな、何か方法があるはずだ……そうだ!?)



ナイはアルトから借りていた収納鞄を思い出し、この中には彼が普段から持ち歩いている様々な魔道具が入っているはずだった。この状況を打破できる魔道具が入っているかもしれず、ナイはリーナを抱えながら鞄に手を伸ばす。



(何かないか、何か……これは!?)



収納鞄の中からナイはある物を取り出し、それは先ほど回収したマグマゴーレムの核だった。イリアに頼まれてナイは核をいくつかを回収していたが、ここでマグマゴーレムの特徴を思い出す。


マグマゴーレムの主食は火属性の魔石の原石であり、そしてマグマゴーレムの核は加工すれば良質な火属性の魔石となる。それならばも別個体のマグマゴーレムにとっては餌同然ではないのかと思ったナイは鞄から核を取り出して放り込む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る