異伝 《100体》

「畜生!!あんたら、死にたくないなら後ろに居な!!」

『はっはっはっ!!これは面白いな!!』

「大盾部隊!!防御態勢を取れ!!」

『はっ!!』



大盾や大剣を持つ者は地面に突き刺して盾代わりに利用し、他の者はリーナが作り出す氷塊の後ろに隠れた。ナイは旋斧を取り出すと水属性の魔石から魔力を引き出し、それを旋斧の刃に纏わせる。



(まさかこんな形で使う事になるなんて……)



この時にナイは旋斧に埋め込まれた黒水晶に水属性の魔力を宿し、水晶の色合いが青色へと変化した。この状態でナイは氷塊に目掛けて旋斧を突き刺し、水属性の魔力を送り込んで氷塊の規模を拡大化させた。



「やあああっ!!」

「はあああっ!!」

『ゴォオオオオッ!!』



ナイとリーナは叫び声をあげて氷塊を巨大化させると、正面から100を数えるマグマゴーレムが転がり込んできた。全てのマグマゴーレムが肉体を丸めて傾斜を利用して加速し、次々と氷塊へと突っ込む。


勢いよく加速して転がり込んできたマグマゴーレムが氷塊に衝突した瞬間、亀裂が走って氷塊が砕けかける。しかし、ナイとリーナは水属性の魔力を送り込み、この時にナイは黒水晶に宿した水属性の魔力を引き出す。



「でりゃあああっ!!」

『ゴアッ……!?』



旋斧が魔法腕輪の魔石と黒水晶から引き出した魔力により、通常時の倍近くの水属性の魔力を宿す。刀身が青く光り輝き、亀裂が走った氷塊が元通りに戻り始める。



「耐えろ!!耐えるんだ!!」

「ぐううっ!?」

「大盾部隊を支えろ!!」



氷塊の後ろに隠れきれなかった者達は防魔の盾を構えるバッシュや大盾部隊の後ろに隠れ、彼等を必死に後ろから支える。テンとゴウカの元にもマグマゴーレムが転がり落ちてきたが、二人は自力で防いで身を守る。



「くぅっ……まだ結婚もしてないのに死ぬのなんて御免だよ!?」

『ふははっ!!流石にこれは死ぬかもしれんな!!』

「もう少しだ!!諦めるな!!」



大盾部隊と共にロランは他の者を呼びかけ、もう少しで全てのマグマゴーレムが通り過ぎる。しかし、最後の最後で一際大きなマグマゴーレムが迫ってきた。



「ゴガァアアアアッ!!」

「な、何だあの大きさは!?」

「まずい、こっちの方に……」

「支えきれない、逃げるんだ!!」



大盾部隊に目掛けて一際巨大なマグマゴーレムが転がり込み、それを見た騎士達は耐え切れないと判断して退避しようとした。だが、この時に魔法の準備をしていたマリンとマホが動く。



「皆の物、下がれ!!」

『マジックアロー!!』



マホとマリンは杖を構えると、先端から魔法陣を展開させる。そしてマリンは七色に光り輝く魔法陣から次々と光の矢を放ち、マホの方は風属性の魔力で構成した「渦巻」を生み出す。


マリンが使用した「マジックアロー」は砲撃魔法の中でも特殊な部類に入り、このマジックアローは本人が扱える属性の魔法攻撃を行う。例えば火属性の適性がある人間は「炎の矢」水属性の適性がある人間は「水の矢」を打ち込む。マリンの場合は全ての属性に適性があるらしく、次々と各属性の特徴を併せ持つ光の矢を放つ。



「消えよ!!」

「ゴアッ!?」

「はああっ!!」



先に撃ち込んだマホの「風の渦巻」がマグマゴーレムの全身に纏っていた炎を消し去り、その後に放たれた無数の光の矢がマグマゴーレムに襲い掛かる。複数の属性の魔力の矢が衝突した瞬間、マグマゴーレムの肉体は「光の衝撃波」を受けて吹き飛んだ。



「ゴガァアアッ……!?」

「くっ……奴等、全員転がり終わったようだね!!」

『よし、では反撃開始だ!!』



マグマゴーレムの大群が全て転がり落ちると、テンとロランは大剣を引き抜いて反撃の態勢を取る。しかし、他の者たちはとてもすぐに戦える状態ではなかった。



「はあっ、はあっ……!?」

「リーナ、大丈夫!?」

「ぐううっ……」

「王子、しっかりして下さい!!」



全員を守るためにリーナは無理をしてしまい、バッシュの方も防魔の盾で防いでいたが、完全には防ぎきれなかったのかクノに支えられて動かない。


他の者たちも大盾部隊は倒れ込み、全員の大盾が溶解して酷い火傷を負っていた。守られた者達も彼等を支えるために疲弊し、まともに戦える人間は半分も残っていない。




――ゴオオオオッ!!




疲労と負傷で動けない者達にマグマゴーレムの大群が迫り、正に絶体絶命の状況へ追い込まれた。しかし、それでも戦える者は武器を手にして立ち上がる。

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