異伝 《奇襲》
『どうだマリン?満足する物は手に入ったか?』
『どれもこれも質が高い……加工すればもっと高く売れる』
「あれ?ナイ君、それも持っていくの?」
「イリアさんに頼まれてね、核以外にもマグマゴーレムの外殻を持ち返ってほしいと言われてるんだ」
冒険者達はマグマゴーレムの核を嬉々として回収する間、ナイはマグマゴーレムの外殻を手にする。勿論、彼が手にしたのはリーナの蒼月で身体を冷やされたマグマゴーレムの外殻であり、冷えた溶岩ならば触れても問題はない。
イリアによるとロックゴーレムの外殻は細かく砕くと畑の肥料としても使えるらしく、マグマゴーレムの外殻も何かに使えるかもしれないという理由で持ち返る様に頼まれた。それとマグマゴーレムを倒した際に破壊した核の破片もいくつか持ち返るようにナイは言われていた。
(こうしてみると結構倒したように思うけど……気のせいか、さっきより涼しくなった気がする)
70体のマグマゴーレムを倒した影響なのか、火山全体の気温が僅かにだが下がったような気がした。この火山の異常な熱気はマグマゴーレムが関係している可能性も高く、もしも全てのマグマゴーレムを倒したら火山も元通りになるかもしれない。
「よし、そろそろいいだろう。出発するぞ」
『おおっ、やっとか!!頂上部を目指すんだな?』
「いや、ここからはマグマゴーレムの討ち漏らしがないように行動する」
ゴウカは遂に頂上部を向かうと思ったが、ロランはこのまま登るのではなく、円を描くように火山の周囲を探索しながら頂上部へ向かう事を提案した。
「我々の目的はマグマゴーレムを1匹でも多く討伐する事だ。それに頂上部に控えているマグマゴーレムの大群を相手にしている時、別の場所からマグマゴーレムが登ってきたら逃げ場を失う。まずは火口付近以外の場所に存在するマグマゴーレムを打ち倒し、最後に頂上部へ向かう」
「なるほど……それなら今日のうちはもう少し探索してから引き返しませんか?今日中に全てのマグマゴーレムを倒す必要はありませんわ」
「ああ、あと20〜30体ほど倒せば引き返そう」
ドリスの言葉にロランは賛成し、元々1日でグマグ火山に生息するマグマゴーレムを倒す予定はなかった。思っていた以上に火山での戦闘はきつく、熱気で体力を削られ、平地と違って傾斜があるせいで上手く戦えず、障害物も多い場所で戦うのは体力的にもきつかった。
今日の時点で既に70体近くのマグマゴーレムを打ち倒し、既に時刻は昼を回っていた。普通ならば休息を挟む所だが、マグマゴーレムがいつ現れるかも分からない状態では碌に休息も取れない。
「次のマグマゴーレムの群れと遭遇するまでは探索を続ける。今のうちに水分補給を行っておけ」
「ふうっ……流石にきついな」
「年寄りには応えるわい」
全員が水筒を取り出して水分補給を行い、ほんの少しだけ全員の気が緩んでしまった。それはナイも同じであり、彼も水筒を取り出そうとした。しかし、突如として火山に大きな震動が走る。
「うわっ!?」
「な、何だ!?」
「地震!?」
「噴火か!?」
火山全体が揺れ始めた事に全員が戸惑い、まさか地震か噴火が起きたのかと思ったが、すぐにそれが誤りだと判明した。火山の震動の正体は地震や噴火などではなく、ナイは上の方から多数の気配と魔力を感知した。
「違います!!あれは……敵です!!」
「何だと!?」
全員が振り返ると、そこには先ほど倒したマグマゴーレムの倍近くの数の大群が迫ってきていた。しかもただ山を下りてくるのではなく、身体全体を丸めて転がり落ちるように迫ってきている。
――ゴォオオオオッ!!
100体近くのマグマゴーレムが傾斜を利用して、身体を球体のように丸めて転がり込む姿にナイ達は愕然とするが、このままでは全員が押し潰されてしまう。何とか手を打たなければならないのだが、気が緩んでいたせいで上手く判断できない。
全員が戸惑っている間にもマグマゴーレムの大群は迫り、咄嗟にリーナとバッシュが前に出た。バッシュは防魔の盾を構え、リーナは地面に蒼月を突き刺して巨大な氷塊を作り出す。
「全員、俺の後ろに下がれ!!」
「やああっ!!」
バッシュは防魔の盾で受け止める姿勢を取り、リーナは蒼月で氷塊の規模を大きくさせて盾を作り出す。それを見ていたナイも彼女を手伝うために旋斧を取り出し、マリンとマホも魔法の準備を行う。
「このままでは押し潰される!!全員、王子と氷の後ろに移動せよ!!」
『こんな時に限って……!!』
マホの言葉に慌てて討伐隊は指示に従い、この時にテンは退魔刀を地面に突き刺して後ろに隠れ、ゴウカもドラゴンスレイヤーを同じように地面に突き刺して柄を握りしめる。
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