異伝 《ロランの実力》

「あ、そうだ。ナイさん、もしよかったらマグマゴーレムの核を何個か回収しておいてください」

「え?イリアさんも欲しいの?」

「ええ、ちょっと色々と実験に使おうと思いまして……協力してくれるのなら今度とっておきの薬を上げますから」

「う〜ん……まあ、余裕があったら回収しておくよ」

「ナイ君、気を付けてね……」



イリアの頼みをナイは引き受けると、モモが心配そうに彼の両手を掴む。そんな彼女にナイは安心させるように頷き、必ず戻ってくる事を約束する。



「大丈夫だよ、ちゃんと戻ってくるからね。それじゃあ、二人とも良い子にして待っててね。ちゃんと他の人の言う事を聞いて大人しくしててね」

「は〜いっ」

「私達は子供ですかっ」



小さな子供をあやすようにナイはイリアとモモと別れを告げると、他の者と共にグマグ火山へ向けて出発する。ここから徒歩で移動しなければならず、辿り着くまでの間にナイは熱耐性の装備を取り出す。



(アルトが用意してくれた特製のマント……熱を遮断する効果があると言ってたけど)



魔道具職人を目指すアルトは色々な物を作っており、その中には熱を遮断する機能を持つ魔道具も含まれていた。ナイは赤色のマントを取り出して身に付けると、確かに先ほどまで感じていた熱が消えた。


このマントは火属性の耐性を持つ魔物から剥ぎ取られた毛皮を利用されており、マントを身に付けた途端に熱気を感じられなくなった。このマントを身に付けていれば火山の熱気で体力を消耗する事はなく、思う存分に戦えると確信する。



(凄いなこのマント……前に着た奴より性能が高そうだ)



実はナイは知らない事だがアルトはアチイ砂漠に立ち寄った時、熱耐性の強い素材を色々と買い込んでいた。そのお陰で新しい魔道具を作り出し、今回ナイが装備しているマントは「火鼠」という魔獣から剥ぎ取った素材が利用されている。



「アルトもだんだん魔道具職人らしくなってきたな……王子様なのに」

「ナイ君、一緒に頑張ろうね」



ナイは隣から声を掛けられ、振り返ると自分と同じくマントを身に付けたリーナが歩いていた。どうやら彼女もアルトからマントを受け取っていたらしく、既に他の者も熱耐性の装備を身に付けていた。



『ゴウカ、その格好は暑くないの?』

『ふははっ!!こういう時を想定してハマーンが熱耐性の高い甲冑を用意してくれた!!む、いかん……ちょいと催したな。おい、誰か吾輩の甲冑を外してくれ!!これではしょんべんを漏らしてしまう!!』

『……最低』



金属製の甲冑を身に付けているゴウカだが、彼の装備は熱耐性の高い魔法金属で構成されているらしく、特に火山の熱を受けても平気そうだった。むしろ問題なのは彼の場合は甲冑を自力で取り外せない事であり、他の人間に手伝って貰わなければ用足しもできない。


そんなゴウカとマリンのやり取りを見てナイ達は苦笑いを浮かべる中、先頭を移動していたロランが立ち止まった。彼は他の者を制すると、全員が戦闘態勢に入った。



「待て」

「……敵ですか?」

「いや……」



ロランが立ち止まった理由は彼の視線の先に埋まっている岩石であり、慎重にリョフは近づくと武器を取り出す。ロランが愛用する武器は「双紅刃」と呼ばれる武器である。


双紅刃は「両剣」であり、外見は薙刀に近いが普通の薙刀と違う点は柄の両端に刃が取り付けられている事だった。ロランはこの武器を使い、かつて伝説の武人と謳われたリョフと互角に戦った。



「お前達は下がっていろ」



岩石を前にしたロランは双紅刃を構えると、その場で回転させる。その行為を始めて見る人間は驚いた表情を浮かべるが、ナイは彼が双紅刃を回転させる姿を見て背筋が凍り付く。



(あれは……)



かつてナイはロランと戦った事があるから知っているが、ロランの双紅刃は回転させる事に両端の刃が紅色に光り輝く。刃が輝く理由は双紅刃に地属性の魔力が送り込まれ、極限まで魔力を高めると凄まじい破壊力を生み出す。



「はああああああっ!!」

『ぬうっ!?』

「す、凄い!!」

「なんて迫力……!?」



武器を回転させているだけだというのにロランは凄まじい威圧感を放ち、それを目の当たりにした者達は唖然とする。そして彼は岩石に目掛けて踏み込むと、双紅刃を叩き込む。



「があああああっ!!」



まるで猛虎を想像させる雄たけびを上げながらロランは双紅刃の片刃を岩石に叩き付けた瞬間、岩石は粉々に砕け散った。その威力は凄まじく、岩石どころか地面にも亀裂を生じさせ、刃が地中に埋まってしまう。


攻撃を終えた途端に双紅刃に纏っていた魔力が消え去り、それを確認するとロランは満足そうに頷き、双紅刃を背中に戻す。どうやら彼は自分の力が衰えていないのか試しただけらしく、全員に振り返って告げた。



「待たせて悪かったな……行くぞ」



ロランの言葉を聞いて全員が彼の後に続き、グマグ火山に到着する前に彼の実力を見せつけられた者達は心強く思う。ロランが味方ならばどんな困難も乗り越えられるような気がした――

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