異伝 《留守番役》

「絶対にあり得ないとは言い切れないだろう」

「拙者もそう思うでござる」

「お前達……いきなり何を言い出すんだ」



銀狼騎士団に従属しているシノビとクノが口を挟み、この二人は並の暗殺者よりも優れた能力を持つ「忍者」だった。その二人が飛行船の移動中、ナイとガオウと同様に不審な気配を感じた事を報告する。



「確かに我々も移動中、何度か奇妙な気配を感じた。一人ならばともかく、二人や三人も違和感を感じるのであればそれはただの偶然とは言えん」

「もう一度船内を捜索した方がいいかもしれないでござる」

「私も賛成ですね。仙薬がなくなったのは確かですし、もしかしたら船の中に誰かいるかもしれません」

「ふむ……どちらにしろ、全員が飛行船を離れるわけには行かん。残った人間は船内の捜索を行わせよう」



報告を聞いたロランはナイ達が感じた奇妙な気配が気にかかり、飛行船に待機する人間は船内の捜索を行わせる事を告げる。そして飛行船に残る人員を選別した。



「シノビ、クノ、お前達のどちらかは飛行船に残って調査しろ。ガオウ、お前も二人の手伝いをしてくれるか?」

「それならば妹に任せよう」

「承知したでござる」

「まあ、大将軍の頼みなら断るわけにはいかないな」



飛行船にはクノが残る事が決まり、ガオウも気配の正体が鼠の類だとは思いながらもロランに頼まれては仕方がなく残る事にした。他にも念のためにロランは周囲を振り返り、リノに話しかける。



「リノ王女も残って下さい。我々が居ない間、この飛行船の守護をお任せします」

「わ、分かりました」

「……クノ、やはりお前が行け。俺が船に残った方がいいだろう」

「兄者……それはあからさま過ぎるでござる」



リノが残る事を知るとシノビは一転して自分が残る事を告げる。そんな彼の態度にクノは呆れてしまうが、仕方なくシノビに任せて彼女はマグマゴーレムの討伐部隊に参加した。


他にも飛行船には何十名か騎士が残り、ハマーンも待機する事になった。彼は元々討伐部隊に参加する予定はなく、飛行船を動かせるのは彼だけのため、最初から飛行船に残る事を決めていた。



「儂と弟子達は飛行船の整備を行っておく。それと魔物が現れた時のために冒険者の中から誰かもう一人だけ残ってくれんか?」

「うむ、それならばフィルが残ってくれるか?」

「えっ……あ、はい。分かりました」

「ちっ、お前かよ……足を引っ張るなよ」

「うるさい!!こっちの台詞だ!!」



ロランから指名されたフィルが飛行船に残る事が決まると、ガオウはあからさまに嫌そうな表情を浮かべたが、この人員の選抜は最適だった。ガオウとフィルは他の冒険者と比べてマグマゴーレムと相性が悪く、他の魔物の対処ならば問題なく行えるので飛行船の守護は十分に任せられる。



「念のためにもう少し残しておくか……ヒイロ、ドリスも残ってくれ」

「は、はい!!」

「私もですの?」

「お前達の得意とする魔法剣と魔法槍はマグマゴーレムと相性が悪いだろう」



ヒイロとドリスは火属性の魔法剣(槍)を得意とするため、マグマゴーレムとは相性が悪い。その事はヒイロは自覚しているので彼女はロランの意見に従うが、ドリスの方は納得しなかった。



「ロラン大将軍、お言葉ですが私もこの日のためにマグマゴーレムの対抗策を用意してきましたわ」

「ほう……大した自信だな。いいだろう、そこまで言うのであれば討伐隊に加えてやる」

「それなら私が残る」



ドリスは討伐隊に参加する事を告げると、ヒイロの相方であるミイナが残る事を伝えた。彼女もマグマゴーレムとは相性が悪く、それを知っているロランは頷いて飛行船に残る者達を確認した。


飛行船に待機するのは銀狼騎士団からは団長であるリノ(王女)、シノビが残り、白狼騎士団からはミイナとヒイロ、黄金級冒険者からはガオウ、フィル、そしてハマーンが残る事が決まった。念のために他にも各騎士団から何名か人員を割き、この時に聖女騎士団からルナも残る事が決まる。



「大将軍、この娘も残してくれるかい?見ての通り、へばっちまったんだよ」

「う〜ん……ここ暑すぎるぞ〜」

「聖女騎士団のルナか……なるほど、確かにきつそうだな」



聖女騎士団の中でもテンを上回る怪力を誇るルナだが、彼女はグマグ火山に到着する前からあまりの熱気に耐え切れず、へばっていた。彼女は元々は寒い地方で生まれたため、暑い場所は苦手としていた。これではグマグ火山に連れて行っても熱気に耐え切れないと判断し、テンは彼女を残す事にした。



「よし、それでは他の者はグマグ火山に向けて出発してくれ。麓に辿り着いたら全員が集まるまで待機するように。言っておくが、先走って行動する事は許さん」

『おおっ、遂に出発か!!腕が鳴るな!!』

『……倒したマグマゴーレムの核は貰っていい?』

「ああ、構わん。冒険者は倒した魔物の素材は自由にしていい」



事前の取り決めで冒険者組は自分が倒した魔物の素材は自由にしていいという契約を交わしており、マリンはその契約が目当てで今回の作戦に参加した。マリンの目的はマグマゴーレムの核を回収し、研究用の素材として利用するつもりだった。

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