異伝 《直感》
(確かにここに何かいる……何処だ?)
ナイは視線の主を探すために廊下に出ると、最初に気配感知や魔力感知を発動させて様子を探る。しかし、この飛行船内には数百人の人間が乗り込んでいるため、人が多すぎて上手く感知できない。
飛行船に乗り込んでいる人間の中には一般人とは比べ物にならない力を持つ人間が多く、ゴウカやマホといった人物は気配と魔力が大きすぎて感知系の技能が阻害されてしまう。勿論、本人達は何も悪くないので責める事はできない。
(駄目だ、感知は上手く使えない。それなら心眼で探すしかないか)
ナイは目を閉じて心眼を発動させ、視覚以外の五感を研ぎ澄まして周囲に隠れている人物を探す。心眼を頼りにナイは周囲に怪しい人物がいないのかを探した結果、彼は自分から逃げるように移動する小さな物体を感じ取った。
(何だ……人じゃない!?)
心眼を頼りにナイは廊下を移動する小さな物体の後を追うと、曲がり角に差し当たった時に別の気配を感じ取った。そちらの気配は間違いなく人間であり、ナイは目を開いて刺剣に手を伸ばす。
「「誰だ!?」」
曲がり角に到着すると、ナイは刺剣を手にした状態で叫ぶ。すると相手の方も全く同時に叫んで曲がり角から出てくると、その相手は「ガオウ」だった。彼はナイを見て驚き、その手には短剣が握りしめられていた。
「ガオウさん!?」
「坊主!?お前だったのか……」
お互いの顔を見て武器を戻すと、二人は周囲を見渡す。そして相手の顔を見てどうやら二人とも同じ行動を取っていた事が判明する。
「ガオウさんも何か追いかけていたんですか?」
「ああ、ちょいと変な臭いがしたからな……だが、どうやら逃げられたみたいだな」
「臭い?」
「獣臭だ。まあ、多分だけど鼠か何かだな」
獣人族のガオウは人間よりも嗅覚が優れているため、ナイが後を追った生物の正体を見抜いていた。彼によると獣臭がした事から鼠だと判断し、臭いを辿ってここまで追いかけてきたらしい。
自分が感じた視線の正体が「鼠」なのかとナイは疑問を抱くが、もう既に心眼は解除してしまった。ガオウも鼻を鳴らすが臭いは途絶えてしまい、これ以上の追跡は難しかった。
「ちっ、逃げられたようだな……仕方ない、もうそろそろ到着らしいからな。放っておくか」
「そうですね……」
「坊主も準備はしておけよ。まあ、ただの鼠なら放っておいても大丈夫だろ」
「…………」
ガオウの「ただの鼠」という言葉にナイは不安を抱き、ただの勘ではあるが嫌な予感がした。こういう時のナイの「直感」は外れた事はなく、それでも1匹の鼠が何か仕出かせるとは思えず、考え過ぎかと思いながら甲板へ向かう――
――飛行船はグマグ火山へと辿り着くが、火山の方は以前にもまして熱気が増していた。恐らく熱気が上昇した理由は大量発生したマグマゴーレムの影響であると考えられ、飛行船が影響を受ける事を考慮してグマグ火山から数キロほど離れた場所に着陸した。
飛行船が着地するとすぐに各騎士団と冒険者達が外に並び、今回の作戦は馬などの乗り物は用意されていない。理由としては馬などの生き物はマグマゴーレムを前にすると怯えて逃げ出す可能性もあり、第一に火山の熱気に耐え切れない。魔獣の類も同様の理由で連れていけない。
「ここを野営地とする!!我々はこの場所を拠点にグマグ火山へ向かう!!各自、回復薬を受け取れ!!」
「はいは〜い、王国印の回復薬ですよ〜」
「皆の分もあるからね〜」
イリアとモモが作り出した回復薬が支給され、この日のために事前に全員分の回復薬を用意していた。騎士達が次々と受け取り、ナイの番が訪れるとモモが嬉しそうに新しい煌魔石を差し出す。
「はい、これ!!ナイ君のために新しいの用意したんだよ!!」
「私も手を加えた特製の煌魔石です。大切にしてくださいね」
「あ、ありがとう……大切にするよ」
ナイは二人に礼を告げて新しい煌魔石を受け取り、魔法腕輪に装着を行う。そして彼女達から回復薬を受け取ると、不意に受け取った回復薬を見て不思議に思う。
「あれ?仙薬の類は用意してないの?」
「ああ、それなんですけどね……何故か仙薬が入った袋がなくなってたんですよ」
「え?どういう事?」
「分かりません、確かに保管してたはずなんですけど……誰かに盗まれたのかもしれません」
「そんなはずがないだろう。この飛行船に盗人が乗り込んだというつもりか?」
イリアの言葉にリンが即座に否定し、飛行船の乗員の中に盗人が居る可能性を否定する。飛行船に乗り込んだのは信頼の厚い王国騎士と冒険者だけであり、その中に盗人がいるはずもない。
仮にナイ達の知らぬ間に悪党が乗り込んでいたという事もあり得ず、飛行船が出発した後に隈なく飛行船内は捜索され、他の人間が乗っていない事は確認済みである。しかし、同行者の中にはナイやガオウの他に不穏な気配を感じた者も居た。
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