異伝 《出発の日》

――時刻は夜明けを迎えると、既に飛行船の甲板には各騎士団が勢揃いしていた。今回の作戦は前回の巨人国に出向いた討伐隊よりも人手が揃っており、この国を代表とする戦士達が勢揃いしていた。


黒狼騎士団、銀狼騎士団、聖女騎士団は団長と副団長が揃っており、唯一に白狼騎士団は団長であるアルトは不在だった。彼だけは王都へ残り、皆の帰りを待つ事にする。本音を言えば本人も同行したかったそうだが、流石に3人の王族を危地に連れて行くわけにはいかない。


各王国騎士団の中でも最大戦力なのは聖女騎士団である事は間違いないが、今回の遠征は新人の団員が大半を占めていた。理由としては王都の治安維持のために戦力は残しておかなければならないため、古参の団員はエルマとルナ以外は同行していない。



「後の事は任せたよ。あたし達がいない間はしっかりと王都を守るんだよ」

「うむ、任せろ」

「お前の方こそしくじるなよ」



見送りに訪れたランファンとレイラに対してテンは笑みを浮かべ、その一方でマホの元には彼女の弟子のガロが訪れていた。彼は王都へ残り、相方のゴンザレスと共に王都を守る事を決めた。



「本当に一緒に来なくていいのか?いい勉強になると思うがな」

「ああ……最近、王都で変な事件が起きている。それがどうも気になってな」

「俺の知り合いも事件に巻き込まれた……今、ここを離れるわけにはいかない」

「そうですか……御二人とも気を付けてください。老師の事は私に任せて事件の調査に集中して下さい」



ガロとゴンザレスは最近王都で多発している謎の「失踪事件」を調べるために敢えて残り、彼等は今回の作戦には同行しない事を伝えた。マホは二人の意思を優先して無理に連れていく真似はせず、むしろガロが自分が残ると言い出した事に嬉しく思う。


昔のガロならばナイに対抗心を抱いて同行し、彼よりも功績を上げようとしただろう。しかし、冒険者になってから彼は精神的にも成長し、今では立派な金級冒険者へ昇格した。将来的には黄金級冒険者に成れる逸材として囁かれ、他の冒険者からも一目置かれている。



「おい、ガロ!!俺達がいない間に王都をしっかりと守っておくんだぞ!!」

「……そういう貴方も残ってはどうですか?何しろ僕達の中では一番弱いんですから」

「ああっ!?喧嘩売ってんのかてめえっ!!」

「止めんか馬鹿者ども!!」



今回の作戦には黄金級冒険者達も参加しており、ガロにちょっかいをかけるガオウにフィルが口を挟むと、二人は一触即発の雰囲気を纏う。それを見たハマーンが止めようとした時、何処からか水の塊が飛んできて二人の身体を濡らす。



『うるさい』

「うぎゃっ!?」

「ぎゃうっ!?」

「ぬおっ!?こ、この魔法は……マリン、お前の仕業か!?」



喧嘩を始めようとした二人の頭上に水の塊が降り注ぐと、それを見たハマーンは驚いて振り返るとそこにはマリンが立っていた。彼女は杖を構えており、以前とは別の仮面を装着していた。



「て、てめえっ!!なにしやがる!!」

「はっくしゅんっ!!」

『どうせすぐに乾く』

『はははっ!!相変わらずだなマリン!!』



マリンの元にゴウカが訪れると彼は自然な流れで彼女を肩に担ぐ。マリンもゴウカに担がれる事は嫌ではないらしく、特に文句は言わない。この二人は一時期組んで他国に出向いて仕事をしていた事もあり、基本的には他人に厳しいマリンもゴウカだけは心を許していた。


魔法の力で生み出した現象は長続きはせず、びしょぬれだったガオウとフィルの身体もマリンの言う通りにすぐに乾く。しかし、いくら身体が服が乾こうと二人が冷水を浴びせられて情けない悲鳴を上げた事実は変わらず、他の者に笑われてしまう。



「くくくっ……先輩たちは仲が良くて羨ましいな」

「ガ、ガロ!!てめえ、誰に口を利いてる!?」

「くっ……マリンさん!!いくらなんでも初対面の挨拶にしては酷すぎませんか」

『うるさい』

『はっはっはっ!!そう怒るな、吾輩が代わりに謝ろう!!』



謝るという割にはゴウカは頭も下げなければ謝罪も行わず、豪快な笑い声をあげるだけだった。そんな彼等を見てバッシュは呆れた表情を浮かべ、リンも苦笑いを浮かべる。



「あいつらが我が国の代表の冒険者達か……頭が痛くなるな」

「で、でも楽しそうな方達ですね」

「リノ殿、御下がりください。奴等に近付くとリノ殿も毒されてしまいます」

「シノビか……随分とリノと仲が良さそうだな」



リノの隣にはシノビが立っており、彼女は護衛役としてシノビを同行させていた。しかし、ただの護衛役にしては妙にシノビとリノの距離が近い事にバッシュは気付き、二人の間に何かあるのではないかと勘付く。



「シノビ、まさかとは思うが己の立場を無視してリノに近付こうとしているのではないだろうな」

「あ、兄上!!いきなり何を言い出すのですか!?」

「…………決してそのような事はありませぬ」



バッシュの言葉にリノは頬を真っ赤にして怒るが、一方でシノビは無表情を貫く。しかし、その手元は微妙に震えており、それを見たバッシュは目つきを鋭くさせた。




※バッシュは割とシスコンな気がします。

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