異伝 《勝負の行方は……》

(い、今のは危なかった……これ以上に時間を掛けるとまずいかもしれない)



ゴウカが訓練である事を忘れて本気になる前にナイは旋斧に新しい魔力を送り込み、今度は火属性とは相性が良い風属性の魔力を送り込む。旋斧の刀身に風属性の魔力の特徴である「緑色」の光が宿る。


風属性の魔法剣は刀身に渦巻のような風圧を放つのが普通だが、ナイの旋斧の場合は刀身に緑色の魔力を宿す。この状態だと刃が触れると衝撃波のような風圧を発生させる事ができるが、ナイは事前に黒水晶に宿していた火属性の魔力を組み合わせた。



「はああああっ!!」

『ぬうっ!?』

「な、なんて熱気だい!?」

「これは……!!」



旋斧の刀身に二つの属性の魔力を組み合わせた瞬間、刀身から光が消えた代わりに猛り狂う炎が宿る。従来の魔法剣のように炎を纏った旋斧を見て他の者たちは驚き、魔法剣を発動させたナイ本人も唖然とした。



(なんて火力だ……今までの魔法剣とは全然違う!?)



火竜の吐息並の火炎を纏った旋斧を見てナイは身体が震え、その一方でゴウカの方も先ほどまでの余裕な態度は消えてドラゴンスレイヤーを構える。ナイはそんな彼に視線を向け、遠慮なく新しい魔法剣を試す。



「でやぁあああっ!!」

『ぬうっ!?』

「いかん!!」



ゴウカに向けてナイは旋斧を振り下ろした瞬間、刀身に纏っていた火炎が彼に目掛けて放たれる。まるで魔術師の「砲撃魔法」の如く、旋斧の刀身から炎が射出された。


戦闘を見ていたマホはこのままではゴウカだけではなく、彼の後方で観戦している者達も巻き込まれると判断して彼女は杖を構えた。しかし、ゴウカは迫りくる火炎に対してドラゴンスレイヤーを全力で振り下ろす。



『ふんっ!!』

「うわぁっ!?」



ゴウカが全力でドラゴンスレイヤーを振り下ろした結果、凄まじい剣圧が発生してナイの放った火炎を正面から切り裂く。これによって火炎は散り散りに吹き飛ばされ、どうにか観戦していた者達は被害を免れる。



「……あ、危なかった。今のが当たっていたら流石にやばかったね」

「あれほどの攻撃を剣圧だけで防ぐとは……やはり、奴も規格外か」

「そ、それまで!!これ以上やれば儂等が耐え切れんわい!!」

「…………」

『ふうっ……』



ナイとゴウカはハマーンの言葉を聞いて大剣を背中に戻すと、珍しくゴウカは何も言わずに黙って闘技台を降りる。その一方でナイの方は自分の魔法剣を剣圧で防いだ彼を見て冷や汗が止まらない。



(あの人、強い……俺にはあんな真似はできない)



仮にナイが強化術を発動させた状態でも、先ほどの火竜の吐息並の火炎を剣圧だけで防ぐ事などできない。改めてナイはこのでゴウカとの力の差を思い知る。


その一方で先に闘技台を降りたゴウカは自分の腕に視線を向け、先の攻撃で両腕が痺れている事に気付く。無我夢中にゴウカは攻撃を繰り出し、その反動で彼は腕が痺れてしまった。これが実戦ならば両腕が痺れてまともに戦う手段がなかったゴウカはナイの次の攻撃を防ぐ事はできなかった。



(あの少年……期待以上だ)



実戦ならば自分が敗れていたかもしれないという事実にゴウカは身体を震わせ、これまでに彼がまともに戦って負けた事は一度もない。火竜などの圧倒的な存在はともかく、対人戦で彼は負けた事は成人してから一度もなかった。



(楽しみが増えたな)



ゴウカは腕の感覚が戻ると拳を握りしめて満足そうな表情を浮かべるが、その彼の表情に気付いた人間はいない。何しろ彼はずっと兜を被ったままなのだから――

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