異伝 《モモの考え》
――同時刻、王城ではイリアの研究室にアルトとモモの姿があった。新薬の開発を行っていた時に現れた二人にイリアは面倒ながらもお茶を出して用件を尋ねる。
「それで、わざわざ二人がここへ来た理由は何ですか?」
「二人というか、僕はただの付き添いだよ。君に用事があるのはモモの方なんだ」
「イリアさん!!お願いがあるの!!」
「ちょ、抱きつかないでください!!その無駄に大きい脂肪の塊を押し付けられても困ります!!私への当てつけですか!?」
「落ち着くんだ!!」
モモが抱きついてくるとイリアは自分よりも圧倒的な質量感を誇る胸を押し付けられ、苛立ちを抑えきれずに怒鳴り返す。そんな二人をアルトは慌てて割って入り、モモがわざわざイリアの元に訪れた理由を問う。
「モモ、どうしてイリアに会いたかったんだい?わざわざそんな荷物まで用意して……」
「ナイ君から聞いたんだけど、イリアちゃんも飛行船に乗るんだよね」
「ええ、まあ……一応は」
魔導士であるイリアも今回のマグマゴーレムの討伐作戦に参加を命じられており、彼女は後方支援を任されている。ちなみにアルトは今回は同行せず、王城で皆の帰りを待つ事が決まっていた。
ナイからイリアが今回の作戦に参加すると聞いた時、モモはある決意を固めて彼女の元に訪れた。モモが目的を果たすにはイリアの協力が必要不可欠だった。
「イリアさん!!私も一緒に飛行船に連れて行って!!」
「無理です」
「即答!?」
覚悟を決めたモモはイリアに自分も飛行船に乗せる様に頼み込んだが、彼女は即座に断った。そのあまりの反応の早さにモモは驚くが、話を聞いていたアルトは彼女に説明する。
「モモ……飛行船に乗れるのは王国関係者だけなんだよ」
「で、でも私はテンさんとナイ君と仲が良いよ!?」
「そういうのじゃ駄目ですね。まあ、貴女が優れた回復魔法の使い手という事は知っています。連れて行けば色々と役に立ちそうですけど……」
「それなら……」
「ですが、今回の作戦は途轍もなく危険なんです。一般人を連れて行くわけにはいきません、足手まといになりかねませんから」
回復魔法の使い手は貴重ではあるが、モモはあくまでも一般人であるために危険な場所へ連れていく事はできない。いくら彼女に頼まれようとイリアはモモを連れて行く気はない。
「貴方がナイさんといい感じの関係を築いていても、テンさんに実の娘のように可愛がられていても、アルト王子に妹のように可愛がられていても駄目です。一般人を連れて行って危険に晒したら今度こそ私は魔導士の地位を剥奪されます」
「そ、そこを何とかできないの?」
「無理です。もう、これ以上に邪魔するなら帰って下さい。ほら、媚薬でも惚れ薬でもあげますから……」
「さらっと凄い事を言っていないかい?」
イリアはモモの背中を押して研究室から出そうとするが、モモもここで引くわけにはいかず、彼女は諦めずにイリアに縋りつく。
「そこを何とか!!」
「ちょ、しつこいですよ!?そんなに胸を押し付けても私にそっちの気はありませんから!!」
「お願いぃっ!!」
自分にしがみついて離れないモモにイリアは必死に力を込めるが、密かにテンに鍛え上げられたモモの身体能力は凄まじく、まるで万力の如く締め付けてきた。
「お願いしますぅううっ!!」
「あたたたっ!?ちょ、離して!!内臓が破裂しますって!?」
「モモ、止めるんだ!!めっ!!」
「いや、そんな小さい子供を叱りつけるような怒り方で止めないでください!?」
「何でもするからぁああっ!!」
維持でもモモはイリアから離れる様子はなく、このままではイリアの身体が破裂しかねないとき、アルトは名案を思い付く。
「そ、そうだ!!イリア、彼女を助手として雇うのはどうだい!?」
「じょ、助手!?」
「前にもナイ君のために特製の魔石を作った事があるじゃないか!!あの時のようにイリアに協力してもらったらどうだい!?」
「えっ?魔石?」
モモはかつてナイの役に立とうと「煌魔石」なる特製の魔石の製作を行った事があり、その時にイリアにも協力して貰った。イリアとしては煌魔石を作る過程で色々と実験したかったのだが、アルトに言われて彼女は頷く。
「そ、そうですね……なら、私の仕事を手伝う事を条件に助手として雇っても構いません!!」
「本当に!?」
「た、但し私の言う事には絶対に従ってください!!とりあえず、ほら離れて!!」
「わんっ!!」
「そんな犬みたいに……」
イリアの命令にモモは素直に従い、彼女から解放されたイリアは息を荒げながらもモモに顔を向け、とりあえずは約束する。
「きょ、今日から貴女を助手として雇います。その代わりに私の言う事はちゃんと従ってください」
「うん!!約束するよ!!」
「はあっ……これは大変だけど面白い事になってきたな」
こうしてモモはイリアの臨時雇いの助手として迎え入れられ、飛行船の同席が認められた――
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