異伝 《旋斧の試し切り》
「おい、聞いたか!?あのナイさんと冒険者のゴウカが戦うらしいぞ!!」
「知ってるよ……いったいどっちが強いんだ?」
「俺はナイさんに賭けるぜ!!」
「なら俺はゴウカだ!!」
「お前達、やかましいぞ!!」
訓練場に集まった王国騎士達は騒ぎ出し、その様子を見ていたリンは注意を行う。しかし、二人の戦いに興奮しているのは王国騎士達だけでもなく、同行していたテンも気になっていた。
「マホ魔導士、あんたはどっちが勝つと思う?」
「これこれ、今から行うのは旋斧の試し切りじゃぞ。別に組手というわけでもない」
「それでも少しは気になるだろう?正直、あたしはどっちが強いかなんてわからないね」
「……うむ、それは同感じゃ」
ゴウカが最強の黄金級冒険者である事は間違いなく、その一方でナイも様々な修羅場を乗り越えて強くなった。仮にこの二人に勝てる人物など王国どころか世界中を探しても何人いるかどうかであり、少なくとも二人が王国の中でも1、2を争う実力者なのは間違いない。
久々の実戦という事でゴウカは嬉しそうに素振りを行い、その一方でナイは精神を集中させるように旋斧を掴んだ状態で目を閉じる。二人が準備を整えるのを王国騎士達は緊張した様子で見守り、やがて審判役のハマーンが確認を行う。
「二人とも、準備はいいな?」
『うむ、何時でもいいぞ!!』
「はい、大丈夫です」
「よし……では、始め!!」
ただの試し切りだというのに試合を行うかのようにハマーンは合図を出すと、二人は石畳製の闘技台の上で向かい合う。ナイは最初から剛力の技能を発動させ、まずはゴウカに近付いて旋斧を振りかざす。
「やああっ!!」
『ぬうっ!?』
『おおっ!!』
予想外にもナイの方から仕掛けてきた事に観戦者は驚き、ゴウカとナイの大剣が重なった瞬間、激しい金属音が鳴り響く。衝撃が闘技台へ広がり、軽い地震が起きたかと錯覚してしまう。
ゴウカは手元から感じる感触に内心驚き、ここまで速くて重い一撃はリョフとの戦闘以来だった。2年前と比べてもナイは身体能力が上がっており、ただの一太刀でゴウカはナイが自分の想像以上の相手だと見抜く。
『大した力だっ!!』
「ううっ!?」
ナイが振り下ろした大剣をゴウカは弾き返すと、彼はナイの身体を蹴り飛ばす。常人ならば一撃で骨が砕けて内臓が破裂する程の威力だが、ナイは彼の蹴りを受けても少し顔をしかめる程度で特に大した損傷は受けない。
肉体の方も相当な頑丈と耐久力を誇り、それどころかナイは蹴飛ばされた際に距離を取って魔法剣の準備を行う。まずは最初に魔法腕輪に嵌め込んだ火属性の魔石から魔力を引き出し、旋斧の刃に送り込む。
「
『ほほう!!これは美しいな!!』
『うおおっ……!!』
旋斧に赤色の魔力が宿ると、凄まじい熱気を放つ。それを見たゴウカは感心した声を上げ、実は彼は旋斧が魔法剣を発動する光景は初めて見た。ナイの旋斧は魔力その物を刃に宿すため、外見は赤色の光を放つ「光剣」に見える。
(この状態から黒水晶に魔力を蓄積させる……で、あってるよね)
ナイは旋斧の刃に嵌め込まれた「黒水晶」に視線を向け、刃に宿した火属性の魔力を送り込む。すると黒水晶が赤色に光り輝き、それを見たナイはブラックゴーレムも火属性の魔力を吸収した時に黒水晶を赤く輝かせた光景を思い出す。
初めて黒水晶にナイは魔力を送り込んだが、要領は魔法腕輪の魔石から魔力を引き出して旋斧の刃に送り込む事と大して変わらず、今度は刃の魔力を黒水晶に送り込むだけである。
(この状態で別の属性の魔力を刃に宿して、そして黒水晶に蓄積させた魔力を組み合わせればいいのか……)
上手くできるかは分からないが、ナイは次の魔力を引き出して送り込もうとした時、ゴウカが彼に接近してドラゴンスレイヤーを振り下ろす。
『隙有り!!』
「うわっ!?」
『うひゃあっ!?』
容赦なくゴウカは全力でドラゴンスレイヤーを振り下ろすと、ナイは反射的に身体を反らして避ける。その結果、石畳製の床にドラゴンスレイヤーが振り下ろされ、あまりの威力に闘技台全体に振動が走った。
訓練に利用される闘技台は特別に頑丈に作り上げられているはずだが、ゴウカの一撃によって闘技台は全体に亀裂が広まり、それを見た者達は仮にナイが避けていなければ間違いなく死んでいたと知って顔色を青ざめる。
『ほう、今のを避けるか!!』
「あ、危なかった……」
「ちょっとあんた!!ナイを殺す気かい!?」
『何を言うか、これぐらいせねば訓練にならんだろう!!それに戦闘中に邪魔をされる事を想定して戦わなければ訓練の意味がない!!』
「まあ、一理あるか……」
テンは抗議したがゴウカの反論にマホも一理あると判断し、戦闘は続行された。ナイはゴウカから距離を取って今度こそ新しい魔法剣を試す。
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