異伝 《強化された旋斧》

――飛行船の工房は船底の部分にあるらしく、しかもかなりの広さを誇る。ハマーン以外には彼の弟子も出入りし、船の整備や運転以外の時は彼はここで作業を行っている事を伝えた。



「ほれ、持っていけ」

『おおっ!!我が相棒、ピカピカになったな!!』

「それを直すのは苦労したぞ……後で代金は請求するからな」

『はっはっはっ!!捕まった時に財産は没収された!!ツケにしておいてくれ!!』



ゴウカは大剣型の「ドラゴンスレイヤー」を受け取り、研がれた刃を見て彼は満足そうに頷く。その一方でハマーンはもう一つの大剣を取り出す。



「ほれ、ナイにはこっちじゃ」

「これは……?」

「何だい、強化したなんて言う割には何も変わってないじゃないかい?」



ハマーンから手渡された旋斧を見てナイは不思議に思い、確かにテンの言う通りに旋斧は以前と特に変化は見当たらない。しかし、ハマーンは刃の根本部分を指差す。



「ここを見ろ、何か見覚えがある物が嵌め込まれているだろう?」

「えっ……あれ、これってもしかして?」

「お主が倒したから回収したじゃ」



旋斧の刃の根本部分には以前にナイが倒した「新種のゴーレム」の体内に埋め込まれていた黒水晶が嵌め込まれていた。これがハマーンの施した強化らしく、黒水晶を旋斧が取り込んだ事で性能がどのように変わるのかとナイは気になった。


ちなみにナイが倒した「新種のゴーレム」は話し合った結果、これからは「ブラックゴーレム」なる名前として呼ばれる事が決まった。見た目通りの名前なので憶えやすく、今後はブラックゴーレムと呼ぶ事に統一される。



「この黒水晶は魔力を蓄積させる事ができる。つまり、旋斧が吸収した魔力をそいつに封じる事ができるのじゃ」

「具体的にはどんな風に強化されたんだい?」

「今まで以上に魔力を吸収する事ができるし、魔石がなくとも吸収した魔力を黒水晶から引き出して使う事ができる。そして重要な点は二つの魔力を同時に宿す事もできる」

「えっ……二つの魔力を同時に?」



旋斧はこれまで吸収した魔力を利用して魔法剣を発動する場合、一つの属性しか魔力を引き出せなかった。しかし、黒水晶が旋斧に加わった事で理論上は二つの属性の魔力を発動する事ができるようになったという。



「例えば旋斧の刃に火属性の魔力を宿した場合、黒水晶に事前に風属性の魔力を宿しておけば同時に二つの属性の魔力を組み合わせた魔法剣が使えるはずじゃ」

「ちょっと待ちな!!そんな事が本当に可能なのかい?」

「ナイよ、お主はこれまでに二つの魔力を旋斧に送り込んだ事はないのか?」

「いや……多分、ないと思います」



ナイが覚えている限りでは魔法剣を発動する場合、基本的には魔石から引き出した魔力を単体でしか使った事がない。その理由としては魔石から魔力を引き出す場合、魔石の一つから魔力を引き出すのが限界だったからだ。



「実際にできるかどうかは儂にも分からん。だから試しに使ってみてはどうじゃ?」

「そうですね、なら外に……」

『ちょっと待った!!』



外に出向いて強化された旋斧の試し切りを行おうとした時、ここでゴウカが止めに入る。ナイ達はそんな彼の言葉に何となく嫌な予感を浮かべ、全員が視線を向けるとゴウカは嬉しそうに自分の胸を叩く。



『その試し切りの相手、吾輩が務めようではないか』

「……あんた、話を聞いていたのかい?今から魔法剣を試すんだよ。別に組手をする必要なんて……」

『だが、実際の戦闘で使えるかどうか試すには誰かに相手をしてもらうのが一番だろう?』

「それはそうかもしれませんけど……」

「ふむ、確かにナイの相手ができるのはお主ぐらいじゃのう」



ゴウカの発言にマホは考え込み、どのみちゴウカが完全に調子を取り戻すには誰かと戦うのが一番だと語っていた。仕方なく、マホはナイに相手をしてやるように促す。



「ナイ、すまんがこ奴の相手をしてやってくれ。責任は儂が持つ」

「はあっ……マホ魔導士がそこまで言うなら」

『はっはっはっ!!遠慮はいらんぞ、全力で斬りかかってこい!!』

「やれやれ……」



遂にナイと戦える事にゴウカは嬉しそうな声を上げ、そんな彼に全員が溜息を吐き出す――






――船内で戦うわけにもいかず、ナイとゴウカは造船所から一時離れて工場区内に存在する銀狼騎士団の屯所へ向かう。そこには既に銀狼騎士団が出発の準備を整えた状態で待機しており、副団長であるリンの姿もあった。


ナイ達はリンに事情を伝えて旋斧の試し切りを行いたい事、そしてゴウカが相手役を務める事を伝えると、リンは快く訓練場を貸してくれた。ナイとゴウカが戦うと聞いた騎士達は興味を抱いて観戦に訪れる。

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