異伝 《英雄と最強》

『ぬうっ……大した力だな』

「くぅっ……!?」

「おい、何やってんだい!!さっさと離れなっ!!」

「喧嘩はいかんぞ」



ゴウカはナイの肩を掴む力を強め、その万力のような握力にナイは反射的に背中の岩砕剣に手を伸ばす。しかし、それを見ていたテンとマホが間に割って入って止めた。


ナイは両肩の痛みを感じた時にゴウカの圧倒的な腕力を思い知らされ、彼が戦ってきた中で最強の敵と言えば魔物を除けば「リョフ」だった。だが、ゴウカはそのリョフに匹敵する、あるいはそれ以上の力を持つかもしれない。



(この人、やっぱり強い……途轍もなく)



恐らくはナイの両肩は痣が残っているはずであり、もしもテンとマホが止めなければどうなっていたか分からない。その一方でゴウカは自分の両手に視線を向け、改めてナイと向き合う。



『はっはっはっ!!前に会った時よりも更に力を増したようだな!!面白い……ならば吾輩とお主、どちらが上か力比べしようではないか!!』

「何を馬鹿な事を言ってんだい!?」

「お主、約束を忘れたのか?騒ぎを起こせばまた監獄に送り戻すと言ったであろう」



ゴウカの発言にテンは怒鳴りつけ、マホも流石に眉をしかめていた。彼の仮釈放を提案したのはマホだが、こんな場所でナイとゴウカを戦わせるわけには行かない。



『まあ、そう硬い事を言うな!!こちらもずっと監獄にいたせいで身体が鈍っている!!調子を取り戻すには誰か相手にしてもらうのが一番だ!!』

「ちっ、これだから脳筋は……だったらあたしが相手をしてやるよ!!」

「こりゃっ、お主も何を言うておる」

「あ、あの……」

「お〜い、お主等!!儂の船の前で何をしとるんじゃ!!」



何故か引き留め役のテンもやる気になりかけていた所、飛行船の方から声が掛かった。全員が見上げると、飛行船の甲板からハマーンが見下ろしていた。



「ハマーンさん!?どうしてここに?」

「どうしてもなにもこの船の整備しておるに決まっとるだろう。そもそもこの船を管理を任されておるのは儂だぞ」

『おおっ、ハマーンか!!久しぶりだな!!』

「おう、ゴウカ!!儂の作った特製の甲冑の具合はどうじゃ?」

『うむ、中々だな!!ちょいと股間の辺りがむず痒いが……』

「はっはっはっ!!後で調整してやるわい!!」



ハマーンとゴウカは昔からの仲で実を言えばゴウカが以前に身に付けていた装備もハマーンが製作している。彼は甲板から降りるとゴウカと握手を行い、久しぶりの再会を喜び合う。



「こうしてお主がまた外に出られる日が来るとは思わんかったぞ」

『はははっ!!言ってくれるではないか!!それにしても相変わらず小さいな?』

「やかましいっ!!お主がでかいだけじゃっ!!」



基本的にドワーフは人間よりも小柄な種族のため、身長を馬鹿にされる事を嫌う者が多い。ゴウカの軽口に対してハマーンは彼の脛の当たりを蹴りつけるが、ゴウカ自身は全く気にした様子はない。


危うく喧嘩になりかけた所にハマーンが現れて仲裁してくれたお陰で事なきを得たが、マホとしてはあのままナイとゴウカが戦った場合はどうなるのか少しだけ気になった。



(ふむ、か……)



ナイはこの国が誇る「貧弱の英雄」一方でゴウカは王国の歴史上でも「最強の冒険者」この二人が仮に本気で戦った場合、どちらが勝つのか想像がつかない。


戦歴を考えればゴウカが勝るかもしれないが、ナイはこれまで普通ならば絶対に勝てない相手と戦って勝利してきた。彼ならばあのゴウカを倒せるのではないかと期待を抱いてしまう。しかし、そんな興味本位で二人を戦わせるわけにはいかなかった。



「ゴウカ、お主の武器は儂が預かっておる。大分使い込んでボロボロだったから研ぎ直してやったぞ」

『おおっ!!それは有難い!!で、何処にあるのだ?』

「この船の中にある儂の工房じゃ」

「工房?そんなのがあるのかい?」

「この飛行船の開発を頼まれた時、特別に許可を貰って作ったんじゃよ。ナイ、お前さんの旋斧も強化も終わったぞ」

「えっ……」

『ほほう、武器を強化していたのか』



飛行船内にはハマーンの工房があるらしく、そこにはゴウカから預かっていた「ドラゴンスレイヤー」とナイの「旋斧」がある事をハマーンは告げる。しかもナイの旋斧は約束通りに強化してくれたらしく、その話を聞いた途端にゴウカは興奮した様子でナイの背中を叩く。



『よし、では早速受け取りに行こうではないか!!』

「そ、そうですね……」

「爺さん……余計な事を」

「はあっ……」

「な、なんじゃい……儂、何か仕出かしたか?」



何も事情を知らないハマーンは周りの人間の反応に戸惑い、それでも彼は飛行船内の自分の工房まで全員を案内した――

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