異伝 《ゴウカとの邂逅》
――今回のマグマゴーレムの討伐作戦の移動手段は飛行船で行い、前回の巨人国へ向かう時に利用された新型の飛行船に次々と荷物が運び出される。
出発は明朝であり、王都からグマグ火山までは飛行船ならばそれほど時間も掛からずに辿り着ける。各騎士団は既に出発準備を整え、飛行船の中に必要な物資を運び込む。
「よいしょっと……この荷物は何処に運べばいいんですか?」
「ナ、ナイ様!!そんな仕事は我々に任せて下さい!!」
「貴方様がこんな雑用をする必要はありません!!」
荷物運びはナイも手伝い、彼は持ち前の怪力で荷物を運び出そうとすると他の兵士達に止められた。ナイは《正式な役職を与えられてはいないが、今では彼は国にとって重要人物であり、兵士達からすれば将軍や騎士団長級の立場だと認識されている。
ちなみにナイがこれまでどのように生活しているのかと言うと、イリアに頼まれて二人の実験に付き合ったり、アルトやバッシュやドリスやリンに頼まれて騎士団の仕事を手伝って金銭を受け取っていた。時々はリーナやガオウの冒険者活動を手伝い、ハマーンから材料の調達を頼まれる事もあった。
ナイは白狼種のビャクを世話しているため、彼の餌や寝床代を稼ぐ必要があるが、実際の所はこれまでの功績で国からかなりの額の報酬を受け取っている。それでもナイは暇なときは遊び惚けたりせずに働く事を心掛けており、今日も誰に頼まれたわけでもないのに荷物の運搬を手伝っていた。
(やっぱり身体を動かしている方が性に合うな……)
昔からナイは身体を動かす作業を多くこなしてきたせいか、どうにもゆっくりと休む事ができない。子供の時もアルに連れられて山の中を駆けまわって狩猟したり、彼が死んだ後も仇を執るために無我夢中で身体を鍛え続けた。
陽光教会で世話になっていた時も故郷を失った寂しさを紛らわせるために夢中で働き、その過程で回復魔法を覚えた。結局は陽光教会を出た後も旅に出て、そして王都に到着した後も色々と問題に巻き込まれたせいでナイは落ち着いて休む暇はなく、時間に余裕ができても一人でいると落ち着かなかった。
(ビャクと一緒ならゆっくりできたけど、今回は連れていけないからな……)
ナイがゆっくりと身体を休める事ができるのは彼の唯一の家族であるビャクと居る時だけであり、ビャクが傍に居る時だけはナイは落ち着いて休む事ができた。しかし、今回の作戦はビャクは連れていく事はできず、マグマゴーレムが相手となるとビャクでは相性が悪い。
全身が溶岩で構成されているマグマゴーレムは物理攻撃しかできないビャクとは相性が非常に悪く、それに移動に必要な乗り物ならば飛行船で十分である。第一にグマグ火山は以前よりも熱気が強まり、ビャクにとっては厳しい環境という事もあって今回は彼を置いて行くしかなかった。
(プルリンと一緒に大人しくお留守番してくれるといいけど……まあ、モモが見てくれるから大丈夫かな)
白猫亭のモモにナイはビャクとプルリンの世話を任せ、彼女ならば自分がいない間も2匹の世話をしてくれると信じていた。だが、何故か今回はモモは見送りには来ないと言われ、その点だけが気になった。
(今までのモモなら見送りに絶対来てたのに……何か怒らせるような事をしたかな?)
モモの方から見送りには行かないと言われてナイは内心ではショックを受けており、彼女を怒らせるような真似をしたのかと不安を抱く。しかし、考えても特に彼女を怒らせた理由が分からず、結局は気を紛らわせるために兵士達の仕事を手伝っている面もあった。
(戻ってくる前にモモが喜びそうな贈り物を用意しようかな……ハマーンさんに何か作って貰おうかな)
帰還の前にナイはハマーンに女の子が喜びそうな物を作って貰えないかと考えた時、不意に彼の前に人影が現れた。不思議に思ったナイは顔を見上げると、そこには仁王立ちする甲冑姿のゴウカの姿があった。
「えっと……?」
『ほう、まさかこんな所で会えるとはな……久しぶりだな!!少年!!』
「えっ!?」
ナイは新しい甲冑を身に付けて現れたゴウカを見て誰か分からなかったが、その声を聞いた途端に正体を見抜いて驚愕の声を上げる。
この二人は初対面ではなく、これまでに何度か顔を合わせているが、まともに顔を合わせるは久しぶりだった。殆どの者達はまだ飛行船の出発時間まで余裕があるので集まっていないが、既にゴウカは訪れていた。彼の傍にはマホとテンの姿もあり、特にテンの方は疲れた表情を浮かべていた。
「おいこら!!勝手に一人で動き回るんじゃないよ!!あんた、自分の立場を理解しているのかい!?」
「困った男じゃのう。これはお仕置きが必要か?」
「テンさん!?それにマホ魔導士も……」
『ふははっ!!そう怒るな、それよりも久しぶりだな少年!!いや、大分成長したな!!』
「うわっ!?」
ゴウカは嬉しそうにナイの両肩を掴み、持ち前の怪力でナイを持ち上げようとした。しかし、反射的にナイは持ち上げられまいと踏ん張り、それに気づいたゴウカは驚いた声を上げる。
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