異伝 《それぞれの準備》
「陛下、黒狼騎士団は準備を整えました」
「父上、銀狼騎士団も準備を整えました」
「おおっ……もうそんな時間か」
「バッシュ王子、リノ王女……お久しぶりでございます」
玉座の間にバッシュとリノが訪れ、それぞれの騎士団の準備が整った事を伝える。ロランは久々の再会に嬉しく思い、バッシュとリノも彼と再会できたことを喜ぶ。
この二人はロランから武芸を学び、二人にとってはもう一人の父親と言える存在だった。バッシュとリノはロランの元に赴いて握手を行う。
「ロラン大将軍!!復帰おめでとうございます!!」
「これからも国のために尽くしてくれ」
「御二人のためにも全力を尽くしましょう」
ロランは二人に手を取られながらも力強く頷き、今回の作戦は失敗は許されないと改めて思い知らされる。何しろ今回の作戦はこの二人も同行する事が決まっていた。
――どうして王子と王女であるバッシュとリノが同行するのが決まったのかというと、実を言えば二人が国王に直訴して作戦の参加を望んだからである。
本来であれば王太子のバッシュや彼の次に継承権を持つ王女のリノが危険な作戦に賛同する事は許される事ではない。しかし、二人ともロランが復帰すると聞いた時に作戦に何としても参加する事を決意した。
理由としては今回の作戦が失敗すればロランは処刑されると知り、二人は何としても作戦を成功させるために同行を願い出る。もしも二人が同行するとなれば責任感の強いロランはなんとしても作戦を成功させ、二人に危害が及ばないように尽力する事は明白だった。それにバッシュもリノもロランのために役に立ちたいという気持ちもある。
二人は自分達がいればロランも気を引き締め、作戦成功のために全力を尽くすと信じていた。そんな二人の考えを見抜いた国王は仕方がなく同行を認めた。
「ロランよ、バッシュとリノをしっかりと守れ。無事に作戦を成功させた暁にはお前を正式に大将軍の地位へ戻す」
「陛下……」
「これは王命である。決して破る事は許されんぞ」
「はっ!!」
王命という言葉にロランは拒否する事はできず、彼は自分を慕う王子と王女のためにも絶対に作戦を失敗できないと心の中で誓う――
――同時刻、王城内ではリーナがアッシュから稽古を受けていた。彼女は蒼月を振りかざし、父親を相手に全力で攻撃を繰り出す。
「でりゃあああっ!!」
「ほう、何時に増して凄い気迫だな!!何かあったのか、リーナ!?」
アッシュはリーナの攻撃を捌きながら彼女の調子いい事に気付き、何か嬉しい事でもあったのかを尋ねると、リーナは元気よく返事を行う。
「今回の作戦が終わった後、お父さんに頼みたいことがあるんだ!!」
「頼みたい事?それは何だ?」
「ううん、とりあえずは全部が終わってからに言う事にするよ……でも、きっとお父さんも喜んでくれるよ」
「ほほう、それは楽しみだな……今回の作戦は俺は一緒に同行できない。油断はするなよ!!」
「分かってる!!」
マグマゴーレムの討伐作戦の指揮はロランが執り行い、その間にアッシュは王都の警護を彼の代わりに行う。だからこそ父親の代わりにリーナは作戦で活躍する事を誓い、そして今回の作戦を終えればリーナはある告白をアッシュに行う事を心の中で決めていた。
(絶対に作戦を成功させる!!そしてモモちゃんの約束を果たさないと……!!)
リーナは事前にモモとした約束を思い出し、何としても作戦を成功させて父親にある事を認めさせるのが彼女の目的だった――
――白猫亭の方ではモモが鞄の中に色々と物を詰め込み、彼女は大量のお菓子を両手に抱えながら窓を眺める。もうそろそろ出発しなければ時間に間に合わないとと知ると、彼女はお菓子を最後に鞄に詰め込んで部屋の外へ飛び出す。
「よし、準備完了……待っててね!!ナイ君!!」
覚悟を決めた表情を浮かべてモモは白猫亭の外に待たせているビャクの元へ向かい、ビャクは彼女が訪れると尻尾を振って迎え入れた。
「ビャク君、ひとっぱしりお願い!!」
「ウォンッ♪」
ビャクは今回の作戦には参加せず、白猫亭で預けられるはずだったが、モモが事前に用意した骨付き肉を渡すと嬉しそうに背中を向けた。
少し手間取りながらもモモはビャクの背中に乗り込むと、この時に上の階の窓を開いてヒナが驚いた声を上げる。まだ業務時間だというのにモモがビャクの背中に乗って駆け出す姿を見て彼女は慌てて声をかけた。
「ちょ、ちょっとモモ!?何処へ行くの!?」
「ごめんねヒナちゃん!!私、やっぱりナイ君の役に立ちたいの!!」
「ちょっとぉおおっ!?」
モモはビャクを味方に付けて王城へ向けて駆け出し、その後姿をヒナは見送る事しかできなかった――
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