異伝 《大将軍の復帰》
「――ふはははっ!!美味い、美味いぞぉおおおっ!!」
「うるさい奴だね、静かに食えないのかい!?」
「お、女将さん……どうしてわざわざここへ連れてきたの?」
白猫亭の地下酒場でゴウカの盛大な笑い声が響き、彼はテンと酒場の店主であるクロエ、それに宿屋の経営者であるヒナの作った料理を味わっていた。
ゴウカは釈放される時に「美味い飯をたらふく喰いたい!!」と条件を加え、色々と話し合ったうえでテンが管理する白猫亭が選ばれた。酒場を貸し切りにしてゴウカのためにテン達は料理を振舞い、彼は嬉しそうに久々の監獄以外の飯を味わう。
「美味い!!美味い!!美味い!!」
「さっきからうるさいんだよ!!大人しく食べられないのかい!?」
「こ、この人凄いわ……常連の巨人族のお客さんよりも食べてる」
「も、もう食材が……」
並の巨人族以上にゴウカは料理を喰らい、遂には酒場内の食材の方が尽きかける。やがて最後の料理を口にするとゴウカは満足したのか笑い声をあげる。
「うむ、美味かったぞ!!はっはっはっ!!」
「こ、こいつ……本当に囚人だったのかい?」
「普通、出所したばかりの人は薄味の食べ物しか食べられないと聞いてたのに……」
「全部食べ切っちゃった……」
ゴウカは3人の料理を食べつくすと彼は満足気に頷き、そんな彼にクロエとヒナは呆然とする中、テンはため息を吐きながらゴウカと向かい合う。
「満足したんならとっとと行くよ!!それと外に出る時はこいつを被りな!!」
「ん?何だこれは?」
「あんたがそのまま出ていくと正体がバレるだろうが!!だからこいつを着て顔を隠しな!!」
テンが用意したのは新しい甲冑であり、以前にゴウカが身に付けていた物とは別の物だった。ゴウカが素顔のまま出ていくと民衆に彼の正体を知られる可能性があり、ハマーンが造り出した特製の甲冑をテンは渡す。
仮釈放が正式に決定する前からハマーンはゴウカ用の装備を作っていたらしく、彼によるとマホから前々にゴウカのために新しい甲冑を作るように依頼されていたという。どうやらマホはかなり前の段階からロランとゴウカを外に出す事を決めていたらしく、彼女は新しい甲冑の製作をハマーンに依頼していた。
「ほう、これを貰っていいのか?」
「ふんっ!!いっておくけどそいつには拘束用の魔道具が内蔵されている。一度身に付けたら自力では外せない仕様になってるんだ。いくらあんたが馬鹿力でも壊せないように設計されているから気を付ける事だね!!」
「なんとっ!!それは面白そうだな!!」
「お、面白いかしら……」
「変わった人ね〜……」
ゴウカはテンの話を聞いても全く臆さず、新しい甲冑を嬉々として身に付ける。彼が装着した途端に甲冑はいくら力を込めようと自力では引き剥がせず、甲冑から解放されるには外部の人間の協力が必要な仕組みになっている。
『おおっ、これは中々いいな!!前の甲冑も悪くはなかったが、こっちの方がしっくりとくる!!』
「そこは爺さんに感謝するんだね……ほら、行くよ!!王城であんたを皆が待ち構えているんだよ」
『うむ!!では世話になったな、また来るときはちゃんと金を払うからな!!』
「ま、また来るんですか……?」
「……今度から食糧庫を増やそうかしら」
ゴウカの発言にヒナとクロエは新しい食糧庫を増設するべきか悩む。一方でテンはゴウカを引き連れ、全員が待ち構える王城へと向かう――
――王城の玉座の間では国王の前に大将軍の鎧を身に付けたロランが跪き、彼が戻ってきてくれた事に国王は涙を流す。
「ロランよ、よくぞ戻ってきてくれた……これからも国のために尽くしてくれ」
「はっ……国王様の命とあれば」
ロランは国王の言葉に頷き、こうしてまた大将軍として戻る日が来るとは彼は夢にも思わなかった。監獄に収監された時は一生を牢獄内で過ごすかと思ったが、罪を償うのであれば監獄以外で過ごす方法もある事を思い知らされる。
尤も大将軍の復帰に関しては正式に決まったわけではなく、あくまでもロランは一時的に大将軍の座に戻ったに過ぎない。彼がこれまでに犯した罪は完全に許されたわけではなく、今回の作戦でロランが功績を上げなければ彼は監獄に収監される。しかし、この条件を提案したのは他でもないロラン自身だった。
「陛下、もしも私が今回の作戦に不始末を犯した場合、その時は躊躇せずに私の首をお切りください」
「ロラン……儂はこれ以上にお前の罪を問うつもりはないぞ」
「いいえ、これが私のけじめなのです」
今回の作戦が失敗した場合、ロランはその全責任を背負って処刑される事を望む。国王としてはこれからもロランには国を支えて欲しいが、この条件を受け入れなければ彼は大将軍に戻るつもりはないと告げて結局は約束してしまった。
無論、ロランとしても作戦の際は全力を尽くす事を誓い、易々と死ぬつもりはなかった。そして話し込んでいる間にも玉座の間の他の者が訪れる。
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