異伝 《旋斧の更なる強化》

「マグマゴーレムか……あいつら苦手なんだよな」

「儂もじゃ……奴等に生半可な武器で攻撃すると溶けてしまうからな」

「魔法金属製の武器を持ち合わせていないとどうしようもありませんからね……」



黄金級冒険者組はリーナ以外の者はマグマゴーレムと戦う事に難色を示し、物理攻撃しかできない彼等にとってはマグマゴーレム程に厄介な敵はいない。


マグマゴーレムは名前の通りに溶岩で肉体が構成されており、彼等と戦うという事は武器を溶岩に突っ込む事に等しい。魔法金属の武器ならばある程度は耐えられるが、仮に武器が耐えられたとしても攻撃を仕掛ける側もマグマゴーレムの熱気に耐えるために相応の装備を整えなければいけない。



「人手を集めても人数分の熱耐性の高い防具も揃えなければならんし、第一にマグマゴーレムを倒せるだけの戦力はこの国では王国騎士か金級以上の冒険者しかおらん」

「マホ魔導士はマグマゴーレムを一気に倒せる魔法とか使えないのか?」

「難しいのう……奴等とは儂も相性が悪い」



魔導士であるマホでもマグマゴーレムを一気に大量に倒す術は持ち合わせておらず、その理由は彼女は「風属性」の魔法の使い手なのが原因だった。マグマゴーレムは体内に「火属性」の魔石の核を保有しており、魔法の相性的にマホはマグマゴーレムとは相性が悪い。


火属性は風属性の魔力を取り込む性質があるため、魔導士の位を持つマホでもマグマゴーレムを倒すのは一筋縄ではいかない。もしもマジクが生きていれば彼の雷属性の魔法でマグマゴーレムを一気に掃討できた可能性もあったが、それでも数百匹のマグマゴーレムを駆逐するのは彼一人では不可能である。



「この中で一番相性がいいとしたらリーナだけか」

「う、うん……でも、流石に僕一人だけじゃどうしようもできないよ?」



リーナの扱う「蒼月」は冷気と氷を生み出す能力を持つため、マグマゴーレム(というよりはゴーレム種全般)とは相性が良い。実際に過去に彼女はマグマゴーレムを討伐した経験もあり、集められた戦力の中では唯一にマグマゴーレムの対抗手段を持ち合わせている。


しかし、いくらリーナでも一人で何百体ものマグマゴーレムを倒せる自信はなく、彼女以外に対抗手段がある人物と言えば一人しかいない。



「そうだ!!ナイさんなら旋斧に水属性の魔力を送り込んで対抗できるのは!?」

「うん、できると思うけど……」

「それは無理じゃな」



ヒイロがナイならば旋斧を利用してマグマゴーレムに対抗できる事を思いつくが、すぐに否定したのはナイではなく、彼の隣の席に座るハマーンだった。



「残念じゃが坊主の旋斧は今は儂が預かっておる。色々と事情があって旋斧は今は坊主に返す事ができん」

「えっ!?ど、どうしてですか!?」

「ちょいと坊主の旋斧を調べる必要があってな……今は返すわけにはいかん」

「ですが師匠、ナイ君も旋斧がなければマグマゴーレムと戦えないのでは……」

「何と言われようと今は返す事ができん。すまんな……その代わりと言ってはなんだが、旋斧は返す時に新しい機能を付けておく」

「新しい機能?」

「期待してくれて構わんぞ。上手くいけば魔法剣を強化できるかもしれん」



ハマーンは旋斧を返す事はできないが、その代わりに次に返却する時は旋斧を更に強化させる事を約束した。この国一番の鍛冶師であるハマーンにそういわれるとナイも期待するが、そうなるとグマグ火山に赴く時はナイは「岩砕剣」しか扱えない事になる。



「結局、マグマゴーレムとまともに戦えるのはリーナだけか……」

「私は一番相性が悪そうですね……」

「ドリス、お前も役に立てないんじゃないのか?」

「失礼な!!私ならばマグマゴーレムだろうと爆散させる事ができますわ!!」



火属性の魔剣の使い手であるヒイロはマグマゴーレムと相性が悪く、同じく火属性の魔槍の使い手であるドリスにリンはからかう。


結局のところはマグマゴーレムの対抗手段を持つのはリーナしかおらず、彼女以外の者は熱耐性の高い装備を整えて戦うしかなかった。遠距離攻撃ができる魔術師を一人でも多く必要となるが、この時にガオウはある人物を思い出す。



「そういえばマリンの奴はどうした?あいつ、最近は姿を見てないが……」

「マリンか……確かにマリンがいれば心強いな」



マリンとは王国に所属する黄金級冒険者の中で唯一の「魔術師」であり、元黄金級冒険者のゴウカと組んでいた冒険者だった。彼女は火属性の魔法を得意とするが、それ以外の属性の魔法も扱えるため、彼女が同行してくれれば大きな戦力になるのは間違いなかった。


しかし、肝心のマリンは最近は王都では姿を見かけておらず、ガオウ達も居場所を知らない。既に王都を発っている可能性は高いが、その辺は冒険者ギルドに問い合わせる必要があった。

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