異伝 《グマグ火山の問題》
――論功行賞から数日後、王城に呼び出されたナイは黄金級冒険者のリーナ達と共に会議室に訪れる。中には既に各王国騎士団の団長と副団長が待機しており、マホと彼女の弟子達の姿もあった。そしてリーナの父親のアッシュ公爵も存在し、全員が揃うとアッシュは会議を早速開始した。
「今回、皆を呼び出したのは他でもない。グマグ火山に関する相談のためだ」
「グマグ火山?」
「おいおい、また問題事か?」
「ガオウ、公爵に失礼だぞ!!」
アッシュの言葉にガオウは嫌な表情を浮かべ、そんな彼をフィルが注意する。しかし、アッシュの方は若干申し訳なさそうな表情を浮かべて謝罪する。
「前回の作戦でまだ疲労が抜けきっていない所を悪いが……今回は一刻も早く対処しなければならん」
「いったい何が起きたんですか?」
「実は……」
グマグ火山にはかつて火竜が生息していたが、その火竜を討伐した事でマグマゴーレムが大量発生した。マグマゴーレムが増えた理由は火竜が彼等の栄養源である火属性の魔力を独占していたからだが、その火竜が消えた事でマグマゴーレムは現在数を増やし続けている。
今現在ではグマグ火山には数百匹のマグマゴーレムが生息していると考えられ、グマグ火山付近には街や村は存在しないので今まで放置されていた。しかし、アッシュによるとマグマゴーレム達を見過ごす事はできない段階に陥っていた。
「君達が土鯨の討伐に出向いていた頃、我々も火山の調査を行っていた。そして判明した事がどうやらグマグ火山のマグマゴーレムが数を更に増やし続けているらしい」
「おいおい、また増えたのかよ……」
「ですけど、マグマゴーレムはグマグ火山を離れる事はできないのでは?」
マグマゴーレムが溶岩の肉体を維持するためには定期的に火属性の魔力を摂取する必要があり、良質な火属性の魔石の原石が採れる場所からは離れられない。だからこそマグマゴーレムがいくら増えようとグマグ火山から離れる事はないと思われたが、問題なのはグマグ火山で採取できる火属性の魔石の原石だった。
「グマグ火山は良質な火属性の魔石が採れる事は皆も知っているだろう。そして我々の国に存在する大きな火山はグマグ火山とグツグ火山のみ……しかし、グツグ火山の方は例の事件があってから火属性の魔石が採取できなくなった」
「えっ……」
「我々の生活を支えるには魔石は必要不可欠な代物なのは諸君らも知っているだろう。それに飛行船を飛ばすにも火属性の魔石は必要不可欠な物だ」
「うむ……そろそろ魔石の在庫も心許ないのう」
この世界では魔石を利用して生活を支えている面があり、例えば火を使う料理の場合は火属性の魔石を利用して火を生み出す(普通の人間は魔石を扱う事はできないが、専用の魔道具を利用すれば魔石を使って火を起こす事はできる)。
一般人以外も魔術師や魔法剣の使い手は火属性の魔石を利用し、特に飛行船などは移動の際に大量の火属性の魔石を必要とする。他国に魔石を流す事もあるため、魔石は国を支えるのに必要不可欠な代物だと言える。
「グツグ火山で今後は火属性の魔石が採取できない以上、今後はグマグ火山から火属性の魔石を採取しなければならん」
「なるほど……だからグマグ火山を独占するマグマゴーレムが邪魔なわけか」
「これまではグマグ火山から魔石を採取する時はどうしてたんですか?」
「雨が降る時期を狙い、鉱夫を送り込んでいた。雨が降る間はマグマゴーレムは姿を隠すからな……だが、グマグ火山はこの一か月の間、一度も雨が降っていない」
「むうっ……それは困ったのう」
グマグ火山の付近には村や街が存在しないため、火山から離れた場所に鉱夫が暮らす集落を作っている。勿論、マグマゴーレムに襲われない距離を測って作り出した場所なので安全なのだが、彼等は雨が降る度にグマグ火山に出向いて魔石の回収を行っていた。
しかし、この一か月の間はグマグ火山に雨が降らず、そのせいで鉱夫も火山の採掘を行う事ができなかった。そろそろ国が保管している火属性の魔石も底を尽きそうなため、完全に尽きる前にグマグ火山から魔石を補給する必要があった。
「グマグ火山に生息するマグマゴーレムを掃討し、火属性の魔石を採取する。これが今回の作戦だが、何か意見はあるか?」
「意見と言われても……」
「マグマゴーレムの大量討伐か……確かにそいつは苦労しそうだ」
グマグ火山に生息するマグマゴーレムの数は正確には不明だが、少なくとも百や二百という数ではない。下手をしたら千を超える数のマグマゴーレムが潜んでいる可能性もあり、それだけの数のマグマゴーレムの討伐となると作戦を立てなければならない。
幸運なのはマグマゴーレムの活動範囲が火山限定であるため、危険を感じたら火山から撤退すれば問題はない。だが、マグマゴーレム自体がゴーレム種の中でも厄介な存在で討伐に苦労させられる事は間違いなかった。
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