異伝 《氷華の継承者》

「まあ、マリンの奴はおいといて……他にマグマゴーレムに対抗手段を持つ奴はいないのか?」

「ふむ……」



ガオウの言葉にマホは腕を組み、彼女はしばらくの間考え込んでいたが、やがて覚悟を決めた様にアッシュに告げた。



「アッシュよ、氷華をここへ持ってきてくれるか」

「何!?あの氷華を?」

「氷華というと……」

「……王妃様の魔剣だよ」



氷華の名前が出た途端に会議室の雰囲気が変わり、アッシュは驚いた表情を浮かべてテンに至っては表情を引きつらせる。他の者たちもどうしてここで「氷華」の名前が出てくるのかと戸惑う。



「マホ魔導士、どうしてここで氷華の名前を持ち出すんだい?」

「テンよ、お主の気持ちは分かるが今は国の危機じゃ。氷華の使い手が見つかればマグマゴーレムに対抗できる戦力が増える」

「簡単に言うんじゃないか……氷華を扱える人間は王妃様以外にはあり得ないよ、絶対にね」

「テン!!老師に向かってなんて口を……」



テンは不貞腐れた様に鼻を鳴らし、そんな態度に流石のエルマも黙ってはいなかったが、それを止めたのは意外な人物だった。



「待てよエルマ……俺もあの魔剣を使いこなせる人間がいるとは思わないぜ」

「ガロ!?貴方まで何を……」

「そうか、ガロ……お主はあの魔剣の恐ろしさを知っておるな」



口を挟んだのはエルマと同じくマホの弟子であるガロであり、彼はかつて氷華と炎華を手にして戦った事があった。あの時は緊急事態という事でマホは彼に二つの魔剣を託したが、ガロは戦闘の最中に仲間を守るために氷華の力を引き出そうとした。


結果から言えば氷華の力を解放した瞬間、ガロは魔剣を制御できずに魔力を強制的に奪われ、周囲一帯を凍り付かせた。この時にガロは氷華を止めるために彼は右手首ごと切り裂き、どうにか暴走を止めた。その後はテン達が駆けつけてくれたお陰で治療が間に合い、なんとか腕は繋ぎ止める事ができた。しかし、あの時に援軍が遅れていばガロは右手を失っていたかもしれない。



「あの魔剣の恐ろしさは俺が良く知っている……正直、あんなの扱いこなせる人間がいるとは思えねえよ」

「ふんっ……その小僧の言う通りさ。氷華にしろ炎華にしろ、あの魔剣を制御できるのは王妃様以外にはあり得ない」

「確かにお主等の言う通り、二つの魔剣を同時に制御できるのはジャンヌだけだった。しかし……片方だけならば話は別とは思わんか?」

「何だって?」



マホの言葉にテンは胡散臭い表情を浮かべるが、そんな彼女に対してマホはヒイロに視線を向けた。ヒイロは自分が見られている事に気付いて呆気に取られた表情を浮かべる。



「えっ……ま、まさか私の事ですか?」

「うむ、お主は前に炎華を使ったな?その時にガロのように魔剣を手放すために手首を切り落としたか?」

「ええっ!?いやいや、そんな事をするはずありませんよ!?」



かつてヒイロは王都に現れた火竜との戦闘の際、彼女は炎華を手にして戦った。この時の彼女は一撃だけ火竜に攻撃を加えた後、炎華を手放して気絶してしまう。しかし、ガロの時と違って彼女は炎華を暴走させる事はなく、その力だけを引き出して戦い抜いた。



「炎華の力を使いこなす事はできなかったが、ヒイロはこうして無事に生きておる。これはヒイロが火属性の適性が高く、ガロの場合は水属性の適性はあっても低すぎて力を使いこなせなかった……と、儂は考えておる」

「じゃ、じゃあ……俺が氷華を使いこなせなかったのは適性が低かっただけなのか?」

「うむ、ヒイロと同じぐらいに適性が高ければお主も氷華の暴走を防ぐ事ができた……かもしれん」

「……それがどうしたんだい、ヒイロだって炎華を一度使ったら倒れたんだろ?それに重要なのは炎華じゃなくて氷華だよ。氷華を使いこなせる人間を見つけなければ意味ないじゃないかい」

「まあ、待て。話は最後まで聞かんか」



マホが言いたい事はガロが氷華を暴走させたのは彼が水属性の適性が低すぎたのが原因であり、逆に言えば水属性の適性が高い人間ならば氷華の暴走を抑えて力を使いこなす事ができるかもしれない事を説明する。


彼女は水属性の適性が高い人間を集め、その中から氷華を使いこなせる人間がいないかどうかを確かめる「選抜」を行う事を提案した。



「テンの言う通り、氷華を完全に使いこなせる人間がいるかどうかは分からん。しかし、完璧に使いこなせずともその力を引き出せる人間は必ずおるはず。それを確かめるために氷華が必要なんじゃ」

「……あたしは反対だね、どうせ見つかりっこないよ」

「テン、いい加減にしなさい!!」

「ふんっ」



テンは氷華が王妃以外の人間の手に渡る事自体が気に入らず、不貞腐れた態度で自分を注意するエルマから顔を反らす。そんな彼女の態度にエルマは注意しようとするが、会議室の扉が開かれてアッシュが命じた兵士が氷華を運び出す。





※今回の話、間違って昨日投稿してました(´;ω;`)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る